Act26-チームワークとお財布事情
――まさかこんなことになるとは……。
ギルド結成から一週間。何度か連携の確認をするために地下ダンジョンに潜ったのだが、そこで俺は自分の布陣構想の誤りを悟った。
俺が前衛。フィリアが後衛なのは武器からして確定だった。問題は残りの二人。
片手斧を使うミユと、杖によるアーツを使うユズハ。
今になって思えば単純なことだった。だが俺は、錬金術師は戦闘が苦手である点、それとユズハの戦い方――杖をぶん投げるスタイル――を考慮し、勝手にミユを後衛、ユズハを前衛に置くつもりでいた。
しかし実際に戦ってみたところ、まぁ噛み合わないこと。
さすがにユズハの戦い方は魔術師のそれに変わっていたし、だからといってミユが斧をぶん投げるわけでもない。
結果、俺とミユが何の考え無しに斬りかかり、時折味方のレーザーやアーツの餌食になるという光景を幾度となく見ることになった。
もちろん、同ギルドによるプレイヤー同士の相討ちによるHP減少は無いが、少なからずノックバックは発生するわけで……。
「うわっ!危ねぇ!」
「ごめんソウタ君!」
「なんで俺にだけ当たるんだよ!」
「闇魔法……だから?」
「わけがわからん!!」
妖術師のユズハが放った闇魔法が俺に命中し、天然なフィリアのボケが差し挟まれるという、何とも戦闘中とは思えないほのぼのとした雰囲気だ。
ほぼ都心に位置する地下ダンジョンだけに、難易度は俺たちにとっては物足りないものなので、多少気が抜けるのも無理はないが。
「ったく……おわっ!?」
「ごめん。ソウタ」
このザマだ。
最後は、フィリアによるレーザー攻撃が俺とキツネ型モンスターを二枚抜きして終了した。
◇◆◇◆◇◆
「んーこんなもんかぁ」
俺が宿泊するホテルにほど近いファミレスで昼食を取っていた時、自分の端末を眺めていたミユから唐突に発せられた言葉。
確かに俺たちの連携はまだまだ乱れているし、他の課題(主に誤射)も多い。
「まぁ、まだ一週間だしな。これから頑張――」
「あ、いや。獲得ソルの話」
――そっちか。
低難度ダンジョン故に、獲得したソルはこうして四人でファミレスで昼食をすれば一瞬で儚く散っていく。せいぜいアルバイトの時給三時間分、とでも付け加えておこう。
「割に合わないなぁ……」
「いやデザートまで食っといてよく言うなお前」
「なーんもきこえなーい」
大きないちごの乗ったパフェを頬張りながら、両耳を塞ぐポーズを取る。
「でもさ、一度でいいから美味しいもの食べたいよね」
とユズハ。
「そうだね。私とユズハだけで過ごしてた時もほとんどファミレスだったし」
とフィリア。
三人の視線がこちらに集まる。何だこのアウェー感。
「い、いや。俺だってそりゃ美味しいものは食べたいよ。けどな――」
少し溜めを作り、この一週間で思ったことをついに口にする。
「君たち……俺の財布はお金製造機じゃないんだよ……?」
そう。住居こそ別々な四人――ユズハとフィリアは同棲しているが――だが、ギルドが出来上がってからは、親睦を深めようという名目で、就寝時以外は四六時中行動をともにしてきた。
とすれば、もちろん食費は四人分かかる。
普通に人数で割ればいい話なのだが、俺は何故かギルドマスターだからという理由だけで、ミユに財布の紐を握られているのだ。そのため、ソルの減りが尋常じゃない。
正直、この四人で収入ランキングを作るなら、高い順にミユ、ユズハ&フィリア、俺の順番であることは想像に難くないだろう。
何せミユに関しては、自分の店をオープンできるほどの資金が貯まるほど人気な錬金術師だし、ユズハとフィリアは二人でダンジョン攻略ができるため、一人の俺よりも効率が良いのは間違いない。
「それなのに……それなのに……」
アプリケーションの所持金ページに表示されている、「残高:1000s」の文字を皆に見せる。
右上に赤字でDanger!の警告が出ている――おそらく「そろそろお金無くなるよ。はやく働いてこい」の意だろう――のはもう気にならなくなった。
「うわこんな広告初めて見た」
「……俺も願わくば見たくはなかったね。そこで……だ」
ミユの皮肉に普段通りの返答をしながら、続きを口にする。
「もう少し高難度のダンジョンに挑戦したいと思うんだ」
これまでは、仲間が傷つくのを恐れていた俺がなかなか言い出せなかった言葉。ソロだった時には、自分さえ助かれば問題なかったが、ギルドとしてダンジョン攻略をする――ましてや俺がギルドマスターである以上、メンバーの安全を最優先にしなければならない。
さらに言うと、まだこのギルドの連携で高難度ダンジョンを攻略できるとも思えなかった、というのもある。
だが今日になって確信した。
――このメンバーには、圧倒的に集中力が欠けている。
このままずるずると低難度ダンジョンを周回しても、おそらく何も変わらない。ならばあえて、急成長を促してみるのも悪くないのではないか。
きっとこの「HM計画」の管理者も、そういった”人間の変化”を望んでこの世界を作ったのだろう。
「いいと……思います」
皆の予想に反して、真っ先に俺の意見を肯定したのはフィリアだった。一〇〇%のオレンジジュースを飲みながら続ける。
「やっぱり、今のままじゃイベントで戦えないと思うし、
何よりソウタのお財布を頼れなくなるのは厳しい」
「俺は前半の言葉だけで十分だったよ……」
とはいえ、フィリアもしっかり危機感を持ってくれていたことはありがたい。
そんな彼女に感化されたのか、パフェを頬張るミユと、それを横からもらっているユズハも「そうだね、お金は大事だね」とほぼ同時に首肯する。――ってまた財布か。
「冗談だよ。私も早く転職しないとだし、ソウちゃんと同じくらいの火力アタッカーにならないとね」
「私も、ソウタ君に闇魔法当てないように頑張らないと」
――ユズハ。それは大前提だ。
そんな言葉を心中に留めながらも、杖をぶん投げる魔術師時代を知る俺から見ると、一ヶ月の成長は大きい。彼女はこれからもどんどん強くなるだろう。今は目標を持つことが大事だ。
「よし。じゃあ午後はちょっと遠くに行ってみるか!」
「「「おー!!!」」」




