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パラレルコネクト・オンライン  作者: yuto*
パラレルコネクト・オンライン標準時:2月
26/118

Act25-統率者

 特に理由も無く集まったはずの座談会は、突如として「ギルド会議」へと様相を変えた。


 それぞれのテーブル上にはホテルマンNPCが持ってきた紅茶が置かれ、落ち着いていながらも、引き締まった雰囲気が流れる。

 暫定的に司会を受け持ったミユが、マイク代わりのペンライト(短剣)片手に決めるべきことを話していく。

「えーと、まずギルドマスターとギルド名。それから「エリアウォーズ」への参加登録。とりあえずこの三つだね」

「ギルマス……か」

 俺は半ば無意識に反芻した。このメンバーなら、俺以外の誰がギルマスになっても楽しく過ごせるだろう、という意味を込めて。


「ソウちゃん、やる?」

「はいぃ!?」


 しかしミユの捉え方は、俺と少しズレていた。

 完全に人任せだっただけに、ミユの放った唐突な指名は俺の予想の埒外だった。

「唯一の男の子だし、皆を引っ張ってほしいな」


 しかし、普段からは想像つかないような真面目な言葉がミユの口から発せられ、それはこの指名が単なる無茶ぶりでないことを意味していた。

 なおも迷いを見せる俺に、想定外の追い討ちをかけたのは右隣に座るユズハだった。

「私も賛成。ソウタ君、あの時言ってくれたよね、私を守ってくれるって」

「うぅ……それを言われると……」


 冗談めかして言うユズハだが、俺も未だに鮮明に覚えている。わずか一ヶ月前の話だが、もう遠い昔のように感じる、あの夕暮れでのやり取り。

 チュートリアルの施設で死の危険に晒されたユズハを、俺は辛うじて守り切った。いや、共闘した(・・・・)の方が正しいか。


 魔術師(マジシャン)である彼女のMP補助が無かったら、あるいは俺も共に命を落としていたかもしれない。ゲーム開始数日でそんな調子では、誰かを守りながら現実に生還するなんて夢のまた夢だ。


 そういった反省も兼ねて、少し自分を見つめ直そうと思った俺は、ついて来ようとしたユズハをやむなく突き放した。

 しかし、こうして再会した今、彼女の瞳に映っていたはずの不安や恐怖は、ほとんど消え去っている。


 ――俺だけだ、変わってないのは……。


 ふとヒナタからの言葉を思い出し、一昨日と同じ劣等感が俺を苛む。自分より弱いと感じていた周りの人間が、「パラレルコネクト・オンライン」との関わりによって少しずつ成長している。

 まるで自分だけが別世界に取り残された気分だった。


「ソウタ君? おぉーい」

「ん、あぁ。悪い」

 思考の波に飲まれて黙りこくっていた俺は、ミユの呼びかけによって、会議の場に意識を帰還させる。


 ――もし、みんなの命を背負うことで、俺もなにか成長できることがあるとすれば。


「本当に、俺でいいのか?」

 不安と決意がないまぜになった声色で問いかける。

 真っ先に答えたのはユズハだった。

「もちろんだよ。……あの時私を助けてくれたように、今度はみんなを守ってほしいな」

「そうだね。私もぜひお願いしたい」

「それじゃあ、ソウちゃんがギルマスでいい?」

 二人が首肯し、ようやく決まりといった感じでミユが両手をぱちんと叩く。

「よし、じゃあ決まり! あとよろしくね」


 役目は終わったとばかりに、マイク代わりに使っていたペンライト型の短剣をこちらに手渡す。改めて見ると、どこにも刃らしき形状は見受けられないため、武器であること自体が疑わしくなってくる代物だ。

 せっかくなので、ペンライトの先端を口元まで持っていってから話し始める。

「えー。それじゃ、次はギルド名を決める。何かいい案あるか?」


 沈黙が数分ほど続き、それを破ったのは意外なことにフィリアさんだった。

「あの……、ギルド名って後で決めることとかできないんですか?」

 手を挙げながら、おずおずと進言する。

 確かにこのままでは、長時間の沈黙が続くことも考えられるので、あまり得策とは言えない。

 ギルドという一つの集まりになった以上、互いのことを知る時間も必要だということを踏まえると、ギルド名は後回しでもいい気がする。


「一応、仮設立(・・・)にしておいて、後からギルド名を設定することもできるけど」

「じゃ、それでいいんじゃないー?」


 考え過ぎて思考がショート気味なのか、両手をテーブル上に投げ出したミユが賛同する。

「活動してるうちに決まるよ、きっと」

 ユズハも肯定意見を出し、早くも結論が出る。

「わかった、それじゃ仮設立でエリアウォーズにエントリーしとくな」


 ギルドマスター権限を得た俺の端末でアプリケーションにアクセスし、エリアウォーズのリンクから「ギルドエントリー」の項を選択。


 全員のプレイヤーネームだけを入力した時点で、あることに気づく。

「そういや、みんなのレベルと職業(クラス)聞いてなかったな」

「あーそのことなんだけど……」


 居心地悪そうに、ミユが口を開く。


 俺が目線だけで続きを促すと、ミユはフィリアさんを一瞥してから話し始めた。

「ソウちゃんも気づいてると思うけど、実はフィリアちゃんも規格外職業(エクストラクラス)に選ばれたプレイヤーなんだ」


 聞きなれぬ単語に、ユズハとフィリアさんが首を傾げる。あくまで、規格外職業(エクストラクラス)という固有名詞は、俺とミユだけに通じる共通言語だったからだ。

 二人にも軽く説明した後、ミユが続ける。


「そんで、このギルドには二人の規格外(エクストラ)がいるわけ。これってさ、あんまり他所に知られない方がいいと思うんだよね」

「あー確かに……、情報を狙ったPKもありえるしな」

「そういうこと」


 俺が闘技場に参加するのを躊躇った理由もこれだ。結果的には、銃剣の使用が職業(クラス)によるものだと悟られる前に逃げ帰ってきたため、バレる心配はないだろう。

 しかし、これが銃剣士(ガンスリンガー)という明確な情報としてエリアウォーズの交流サイトに晒されるのは危険だ。


 俺が過去にやっていたオンラインゲームでは、情報を隠匿しようとしたプレイヤーを襲撃し、情報を無理やり聞き出そうとする行為があったりもした。

 同じ事がここでも起こるとは限らないが、向こうと違って「攻略情報サイト」のようなものがないため、自分の知らない情報を持つプレイヤーを狙うPKが起きても不思議ではない。


 ここまで考えてから、一つの策を提案する。

「じゃあ、俺とフィリアさんの職業(クラス)枠には一次職を入れておけばいいか?」

「うん。幸い二人の規格外職業(エクストラクラス)で扱える武器は、一次職と共通してるからね。フィリアちゃんもいい?」


 ミユの言う通り、各職業(クラス)ごとに装備可能な武器の種類は、最初から決まっている。

 例えば、剣士(ソードマン)なら片手剣、両手剣、短剣、細剣の四種類。猟兵(レンジャー)はハンドガンとボウガンの二種類。魔術師(マジシャン)ならば杖のみ装備可能、といった具合だ。


 とはいえ、それらはずっと同じわけではない。


 一次職から二次職、また二次職から三次職へと転職した時点で、装備可能の武器項目にいくらかの修整がかかる。

 俺の場合、猟兵(レンジャー)から銃剣士(ガンスリンガー)に転職した際に、元々使えた二種の武器に加え、新たに片手剣と短剣のカテゴリーを得ることができた。


 逆に、猟兵(レンジャー)から弓兵(アーチャー)へと転職する場合なら、今まで扱えた武器は使えなくなる代わりに、弓の武器カテゴリーを扱えるようになるわけだ。


 一次職と二次職で扱える武器カテゴリーが同じであれば、職業(クラス)を誤魔化せる。ミユが幸い(・・)と言ったのはこのことだろう。

 ほぼ同時に理解を得たのか、フィリアさんもこくこくと頷きながら同調する。


「はい、それでお願いします。私の一次職は魔術師(マジシャン)でしたので」

「わかった。そういや、ユズハも魔術師(マジシャン)だったよな?」

 フィリアさんに頷きを返した後、ユズハの方を向いて問いかける。


 しかし、答えは全く予想していなかったものだった。


「いや、今は転職して妖術師(ソーサラー)だよ」

「いつの間に……」

「なんかカッコ良くない?」


 魔術師(マジシャン)の派生である妖術師(ソーサラー)は、主に闇属性の攻撃魔法を得意とする職業(クラス)だ。


 どちらかというと、サポートをするよりもソロプレイの方が向いている職業(クラス)であるため、パーティでの援護が目的で一次職を魔術師(マジシャン)に選んだプレイヤーにはあまり好まれない。


「まぁ、転職レベルになったのはつい最近なんだけどね」

「んー、ソーサラーか……」

 この転職は少し想定外だった。――が、戦略の幅はむしろ広がったといえる。


 前衛一人後衛三人だったのが、前衛後衛二人ずつになったと思えばいい。

「よし……、っと」

 一通りの入力を終え、改めて戦力を見る。


 仮設立ギルド(GL(ギルドレベル)1)

 ・Sota 猟兵(レンジャー) レベル45

 ・Miyu 錬金術師(アルケミスト) レベル25

 ・Yuzuha 妖術師(ソーサラー) レベル30

 ・Philia 魔術師(マジシャン) レベル40


 俺とフィリアさんが転職レベルに到達しているのにも関わらず、未だに一次職――の設定――なのは、多少の違和感がある。


 とはいえ、これで今日行う予定だった全ての作業を完了することができた。

 一度大きな伸びをした後、改めて仲間たちを見回す。


 ――いいメンバーだ。このギルドならきっと……。


 そこから続く言葉は胸の奥にしまい、代わりに仲間を労う。

「みんな、今日はお疲れ。この後って……」

 言いながら、主催者であるミユの方をちらっと見る。

 俺はてっきり、「これで解散!」という流れだと思ったのだが、彼女から発せられた言葉は真逆そのものだった。

「これから、朝までお話するんだよ」

「……はい?」


 一瞬、ミユの言ったことが理解できなかった。

 しかし、他の二人がストレージから「お泊りグッズ」的な何かを部屋に広げだしたあたりで、もはや手遅れだと悟った俺は深いため息をついた。


「さぁ、これからが本番だよ!」


 ハイテンションなミユの傍らで、俺が思ったことはただ一つ。

 ――頼むから寝させてくれ。

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