Act24-ギルド
二月一二日夜、ホテル自室。
ピンポーン。
闘技場とともに実装されたプレイヤー序列を眺めながらくつろいでいた俺のもとに、突然の来客が訪れた。
「ん……」
――誰だろ。ホテルマンNPCが来るにはまだ早いよな。
ここのホテルマンに限らず、NPCは完全にシステム制御で動いているため、外部からの妨害がない限り、例えば一〇時と言ったらきっかり一〇時に現れる性質がある。
かといって、フレンドが少ない俺をこんな時間に訪ねてくるプレイヤーも珍しい。
一瞬の気の迷いが生じたが、すぐに払拭する。
「まぁいいか、ここならPKを起こされる心配もないし」
ホテルにおいて、自分で借りた部屋はPK禁止区域に設定され、俺が一歩でも廊下に出ない限り、何度斬られても一切のHP減少はない。
覚悟を決めて立ち上がり、ドアへと向かう。
しかし、思考の展開から移動までの動作が長かったためか、来客は待ちかねて二度目のインターホンを鳴らした。
ピンポーン。
「はいはい、ちょっと待ってねー」
続けざまに三度、四度。
ピンポーンピンポーン。
「ちょっと待っ――」
ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン。
「…………」
ガチャ。
「おっと。やっほー、ソウちゃんっ!」
ガチャ。
「ちょっ! 何で閉めるの!?」
「いや何となく」
何度かの攻防の末、仕方なくミユを部屋に招き入れる。
膨れっ面で椅子に腰掛けるや否や、すぐさま愚痴を投下し始めた。
「全く……、女の子を廊下に立たせるのはどうかと思うよ」
「夜にインターホン連打するのもどうかと思うけどな」
「…………」
「俺の勝ちな」
「納得いかないよっ!」
何の戦いなのかは自分でもわからないが、とりあえず反論されなかったし俺の勝ちでいいだろう。
ミユの対面に位置する椅子に腰掛け、何故わざわざこんな時間に訪ねてきたのか理由を問おうとしたが、先手を取られてしまった。
「あ、そだ。私の他にあと二人来るから」
「そうか……いや、はぁ!? 誰!?」
しかもそれが爆弾発言だったこともあり、夜ということも忘れ、思わず変な声を出してしまった。
それを咎めるように、ミユは右手の人差し指を自分の口元に持っていき、良く言えば「静かにして」、悪く言えば「黙れ」の意を示すジェスチャー。
「あ、あぁ……。で、誰なんだ?」
一度心を落ち着け、改めて問いかける。
自慢ではないが、俺とミユに共通のフレンドはいない。つまり、他の二人は俺の知りえぬ人物ということになるだろう。――と思ったのだが。
「えっとね、ユズハちゃんとフィリアちゃんだよ」
「え……マジ?」
「うん、マジ」
片方が聞き慣れた名前だっただけに、無意識のうちに聞き返していた。
「さっき闘技場でフレンドになったんだ。せっかくだからフレンド少ないソウちゃんにも紹介してあげようと思っ――痛ッ!」
「一言余計だ。ユズハはともかく、そのフィリアさんって人は誰だ?」
人の心を抉ろうとしたミユに天罰を下しつつ、初めて耳にするフィリアの名のプレイヤーが何者なのかを聞き返す。
「あれ? さっき戦ってたじゃん。あの武器破壊の子」
武器破壊の単語を聞いた瞬間、俺の脳裏に戦慄が走る。トリックは九割方理解できたが、まさかこんなに早くプライベートで再会することになるとは思ってもみなかった。
「あーあの子か……あれフィリアって読むんだ」
恥を晒す前に彼女の名前を知れたことに内心ホッとしつつも、これから会うのだと考えると身構えずにはいられない。
「そろそろ来ると思うよ」
「え……」
しかし、そんな俺が心の準備をする間もなく――。
ピンポーン。
二度目の来客を告げるインターホンが鳴らされた。
「……ミユ、もうちょい早く言って欲しかった」
「だって部屋に入れてくれなかったんだもん」
「…………」
「はい私の勝ち。ドア開けてくるね」
最初の攻防が完全に裏目に出てしまった。今回ばかりは負けを認めざるを得ない。……相変わらず何の勝負かわからないが。
――着席。
「えーと……、とりあえず、いらっしゃい」
「久しぶり、ソウタ君」
「どうも、です」
即座に用意した小さなテーブルを四つの椅子が囲み、俺、ミユ、フィリアさん、ユズハの順で時計回りに腰掛けている。
ミユはいつものエプロンドレス姿だが、ユズハとフィリアさんは完全にラフな私服で、まるでこれからパジャマパーティーでも始まりそうな雰囲気だ。
特にフィリアさんは、癖のない真っ直ぐな金髪と透き通るような白い肌を持つ美少女で、初対面ではよく顔が見えなかっただけに、こうして対面していると動揺を禁じ得ない。
しかも、「パラレルコネクト・オンライン」のプレイヤーネームが現実世界のものをそのままフィードバックしていることを踏まえると、少なくとも彼女が日本人ではないことがわかる。
「な、なにか……?」
そんなことを考えながら彼女を凝視してしまっていた俺は、恐怖を宿したエメラルドグリーンの瞳で見つめ返されて我に返った。
「いや、ごめん。あまりにも綺麗だからつい……」
「ふぇ!?」
素っ頓狂な声を上げて赤面してしまった彼女をなだめながら、ユズハが咎めるように口を開く。
「ちょっとソウタ君、フィリアちゃんをいじめちゃダメでしょ」
「えぇ……」
「そうだよソウちゃん、ナンパするならもっと言葉を選ばなきゃ」
「おい」
すかさずミユの横槍が入る。もちろん、ナンパする気などない。
――ダメだ。完全にアウェーだ。空気に飲まれてしまう。
どうにか話題を変えようと、適当にミユに吹っかける。
「そういえば、何か目的があって二人を呼んだんじゃないのか?」
「あっ、そうそう」
言われてようやく思い出したのか、ポケットから端末を取り出して操作、あるページを表示させてからテーブルの上に乗せる。
それは、俺も昨晩のアップデート時に見た、「エリアウォーズ」なるイベントの告知ページだった。
一〇月のイベント開催を前に、早くもギルドメンバーの勧誘や、大手ギルド同士の作戦会議、情報交換など、他エリアに勝つために躍起になっているのが見て取れる。
「みんな、これはもう見たよね」
俺を含め、三人が首肯したのを確認して話を続ける。
「このイベントに参加するための最低条件は、何処かのギルドに入っていること。でも、私は知らない人たちの中でやっていけるか不安だし、そもそも錬金術師とはいえ、低レベルのプレイヤーがギルドに入ることは難しい。そこで――」
「ギルドを作りたい、と?」
話の続きがほぼ予想できた俺が、ミユの言葉を代弁する。
「そーいうこと。少人数なら動きやすいし、やっぱりフレンドと組んだ方が楽しいからね」
「一理あるね。私も協力するよ」
「……ユズハが行くなら、私も」
あっという間に二人の賛同を得て、ミユの視線は真っ直ぐ俺に据えられる。
「ソウちゃんは?」
「うーん……」
俺にとって、ギルドはあまりいい思い出がない。あの時だってそうだった。
しかし、このメンバーで同じことが起こるとは到底思えないし、もう一度だけ仲間を信じてみるのも悪くない。
「俺も賛成だ、これからよろしく頼む」




