Act22-苦悩
――ダメ、来ないでッ!
帽子の下に隠れるフィリアの表情には、今までの九人と対峙した時とは明らかに異なる焦りが生まれていた。
無理もない。対人戦において、唯一の頼みだった武器破壊が破られたのだ。
――倒すだけなら簡単だけど……。いや、それでもッ!!
彼女には、精神面での致命的な欠陥がある。
理由は定かでないが、フィリアは相手のプレイヤーに直接攻撃することができないのだ。
それは物理攻撃でも、魔法攻撃でも、アーツでも同じ。
彼女が標的を攻撃対象として認識した途端に、激しい動悸と震えに苛まれる。
当然、そんな状態ではイメージ構築もままならず、結局攻撃を諦めざるをえない。
その不思議な欠点に気づいたのは、この世界で初めてPKに襲われた時だ。
◇◆◇◆◇◆
まだユズハと出会う前で、完全な独り身、かつ魔術師の職業を選択していた彼女は、PKの格好の的だった。
ある夜、一人でコンビニへと赴いた帰りに、三人組の男性プレイヤーに声をかけられた。
詳しくは覚えていないが、「君、一人かい?」のような言葉だったはずだ。特に誤魔化す必要も感じなかったフィリアは、「はい」とだけ答えのだが、直後、三人組の表情が一変した。
それぞれ剣、銃、杖の武器を取り出し、フィリアの目の前に突きつけながら一言、「金を出せ」と。
初期装備とはいえ、剣士、猟兵、魔術師の組み合わせなら狩りにも行けるだろうに、と思いながら「嫌です」と答え、帰路に向かおうとした。
攻撃してきたら、こちらも反撃すればいい。その時のフィリアはそう考えていた。
案の定、剣士と思しきプレイヤーが己の剣を片手に斬りかかってきたのを察するや否や、フィリアも強気に杖を構える。
しかし――。
何故か攻撃ができない。武器には何の異常もない。
それなのに、身体的な震えが止まらなかったのだ。
防御もままならず斬られ、HPを半損する。
怖い……。
誰か……。
……私はどうしてしまったの?
フィリアはそこで気を失った。
彼女が次に目覚めたのは、病院のベッドの上。もちろんゲーム世界の、だが。
NPC医師によると、たまたま通りかかったパーティが助けてくれたそうだ。
「ありがとうございます、もう大丈夫です」
とだけ告げ、形だけの病院を後にした。
元々HPはポーション等で回復できるため、病院の存在意義はわからない。それよりも、フィリアの脳裏にはあの時の震えだけが、何度も蘇っていた――。
◇◆◇◆◇◆
今でも理由はわからない。
確かなのは、おそらくあの挑戦者を攻撃しようとしても、おそらくまた震えて失敗を誘発するだけだ。
――でも、落ち着けば、大丈夫。
相手は二つも武器を持っていたが、もう片方も破壊すればいいだけだ。
フィリアはプレイヤーへの直接攻撃ができない。だからこそ、とでも言うべきだろうか。
彼女もまた、プレイヤーではなく、武器に攻撃することで真価を発揮する、規格外職業に選ばれた人間だったのだ。
名は、球体術者。
転職時に初期装備として与えられた三つの球体を、イメージによって自在に操ることができる職業だ。
おまけに、武器の固有名詞として「TLLD(Transparency Laser Launching Device)」という名が与えられている通り、球体からは限りなく透明度の高い、遠距離レーザー攻撃を行うことができる。
これにより、武器のウィークポイントを瞬時に見抜き、狙撃で破壊することが可能だった。
――破壊してやる、絶対にッ!!
剣を使いたいとひたすらに願った少年は銃剣士に。
プレイヤーを攻撃できない苦悩の少女は球体術者に。
そんな望むべき力を手に入れた二人の規格外が激突していることに、この闘技場で気付けた者は一人たりとも存在しなかった。




