Act19-ミユ
ホテルから徒歩一〇分。ダッシュで五分の場所に彼女の店はある。
現実世界と同期されているこの世界。ここは確かレストランか何かの店になっていた物件だが、「パラレルコネクト・オンライン」では最初、ダンジョン以外の建物という建物の全てが空き家扱いとなっており、規定のソルを払ったプレイヤーに所有権が移譲される。
手に入れた物件は、こうして店を開くもよし、自宅にするもよし、公共施設にして他のプレイヤーの役に立つもよし、といった具合に、様々な用途で使うことができる。
しかし、そう簡単に手が届く額ではないため購入者はほとんどおらず、今もまだ九割方の物件は空き家になっていることを踏まえると、ここの持ち主である少女の努力は並大抵のものではなかっただろう。
カランカラン。
喫茶店風に改装されたドアには鈴がついていて、開閉がある度に心地よい音色を響かせると同時に、普段店の奥にある工房で作業をしている店主が来客を知る手がかりにもなる。
「いらっしゃーい。あれ、ほんとに五分で来たんだ」
金属を精錬するための金槌を抱えて現れたのは、最初に出会った時と同じく紺色のショートヘアを白いバンダナでまとめ、黄色のエプロンドレスを身に纏った小柄な少女だった。
錬金術師にしては非常に派手な格好だが、本人の自由だし特に触れないようにしている。
「まぁ近いしな。とりあえず、いきなりだけどこいつらのメンテ頼む」
手早く端末を操作し、一対の銃剣を実体化させて手渡す。
「りょうかい。っと、相変わらず重いねこれ」
錬金術師が作成する武器や防具は、そのプレイヤーのレベルにもよるが、ある程度は使用者のオーダーに合わせて重量や見た目をコントロールすることができる。
俺は剣道で重たい竹刀を扱っていたこともあって、より重い武器が好きなため、彼女にはその要素だけを頼んで作ってもらった。
「でも使い心地いいぜ、それ。デザインも悪くないし」
「おー? ソウちゃんもわかるようになってきたねぇー」
武器デザインの発案者はミユだ。まさかアーツを使う時に発光するシステムまで付けてくるとは思わなかったが、特に性能に影響はないので問題無い。……まぁ、ちょっと格好いいし。
「じゃ、ちょっと待っててね。ぱぱーっとやってくるから」
「おう、頼んだ」
体の倍はある武器を抱えながら店の奥に消えていくミユを見送りながら、改めて店内を見渡す。
所狭しと置かれたガラスケースには、珍しいデザインの様々な武器。性能重視で見た目は簡素なNPC露店とは違い、店主の趣味が顕著に表れたものばかりだ。
「でもこれはさすがに……」
呆れながら手に取ったのは、どこからどう見ても「ペンライト」の形をした短剣。
武器をタップし、ステータス画面を呼び出す。
『ペンライト(複数色発光型)』
耐久値:100/100
LUK+30
幸運の女神、遠距離攻撃力DOWN
作成者:Miyu
――名前そのまんまだし、明らかにネタだろうな。しかも、何で運ガン上げ……?
しかし、こういった遊び心があるのも、プレイヤー武具店のいいところだと思う。
死んだらそこで終わりという、殺伐とした「パラレルコネクト・オンライン」の世界で戦いを楽しんでもらおうという発想は、いつか被験者たちの考え方をも変えてくれるだろう。
そんなことを考えていると、再び重そうな武器を抱えたミユが戻ってくる。
「終わったよー。あ、ちょっとした機能加えといたから」
……不安極まりない言葉とともに。
少なくともメリット要素ではないとわかりつつも、わずかばかりの興味が俺を惹いた。
「一応聞くが、何やった?」
「えっと、ここのスイッチ押すとね、発光する色を変えられるようにしたから。やってみ?」
嬉々として手渡されるがまま、手に馴染んだ一対の武器を持つ。
だが、ちょうど親指のあたりに見慣れないスイッチが付いていることに気づく。
「これか……」
カチッ、カチッ、カチッ。
切り替える度に赤、青、緑と、発光する色が順に変わっていく――以上。
「……なんだこれ」
顔をしかめながら、これを手がけた当事者に問いかける。
「いや、深い意味はないよ。今のところ、その日のラッキーカラーに変えるくらいしか使い道無いかな」
――実用性の無さは、作成者のお墨付きでした。
ため息をつきたくなるのを堪えながら、会話をどうにか元の状態に戻す。
「とりあえず、メンテはありがとな。代金いくらだ?」
「んー、代金はいいよ」
少し考えただけで、ミユはさらっとそう口にした。
作成時は無料にしてもらったわけだし、さすがに、メンテの代金くらいは払いたい。いや、払わないと俺の良心が許さない。
「メンテだって素材の消費とかで金かかるんだし、払わないと悪いよ」
「ほんとにいいってば。その代わりに、これからも実験させてね」
「あ、ハイ……」
反論の余地が無くなった。
なるほど。これで俺は今後追加される新機能に文句を言えなくなったわけだ。彼女も策士だな。
そこで唐突に、ミユが話題を逸らした。
「それよりさ。闘技場行ってみようよ、闘技場」
きっと、俺が代金のことを気にしていると思って気を遣っているのだろう。そんな彼女の親切を無下にはできないと思い、自分の良心が傷つくのを感じながら話題を合わせた。
「あぁ、もう開いてるだろうしな」
「ここから近いの?」
「わからない。昨日実装されたからな、おそらくどこかの座標が書き換えられたんだろう」
ミユの頭に、複数の?マークが浮かぶ。
「んー、何だかわからないけど行こっか」
――俺、そんなに難しいこと言ったかな。
周りの女子はどうしてこうも理解力に乏しいのだろうと悲嘆しながら、ミユとともに出口へと向かう。
俺が扉を開けた瞬間、彼女は何かを思い出したように振り返り、誰もいないはずの店の奥に声をかける。
「あ、ダニエル。あとよろしくね」
「……誰!? どこの人!?」
聞き慣れない男性の名に驚くが、返答があったことにはさらに驚くこととなった。
「オゥケィ」
「ネイティブだな……」
顔すら出さずにそう応えた男性は、おおかたミユのサポートNPCだということは想像に難くないが、突然の出来事についツッコミを入れてしまった。
当の彼女は何事も無かったかのようにこちらを向いて一言。
「じゃ、行こっか」
「おう。……今度はマイケルとか出てくるんじゃないだろうな」
「マイケル? 誰それ」
「俺が知りたいわ!」
軽く天然が入ったミユといる時は、何故か俺がツッコミ役に回される。……かと言ってボケる気はさらさら無いが。
だが彼女との会話は、この世界では数少ない安心感を与えてくれるものだということは間違いない。
存在するかもわからないGMに心の中で感謝しつつ、俺たちは連れ立って闘技場へと向かった。




