Act18-夢
その日、俺は夢を見た。
最近は遅い時間までダンジョンで戦うことが多く、こうしてしっかりとした睡眠を取れていなかったせいだろうが、少なくとも二ヶ月ぶりに見る夢だった――。
◇◆◇◆◇◆
「はっ……!」
気がつくと、俺の身体は通学カバンを抱えて炎天下の通学路を歩いていた。
周りには同じものを持った高校生の群れ。不登校が続いていたため懐かしくも感じるが、何気ない朝の風景だ。
眩し過ぎるその光景に戸惑っていると、不意に何者かに背中を叩かれた。
「おはよっ、蒼ちゃん」
芽衣だ。後ろで手を組んで笑顔で挨拶する姿が様になっている。しかし、その身を包む制服に見覚えはない。どこか別の高校の制服なのか、とても違和感があった。
「おっす、蒼汰」
「如月君、おはよう」
一緒に登校していた翔弥と高月さんも同じように挨拶をしてくる。二人も芽衣と同じ制服に袖を通していた。
――なんか、いいな。
まるで、ずっとこうして暮らしてきたかのような錯覚。
毎朝、同じ仲間と登校し、授業を受け、そして放課後を迎える。
そんなことを考えながら、三人の会話には軽く相槌を挟むだけに止めていると、目的地である学校が見えてきた。
「あれか……」
元より、あんまり充実した高校生活を送ってこなかった俺には、校舎の記憶なんてほとんどない。けど、確実な違和感が一つだけあった。
それは、校門に記されている学校名。
「聖心……せいしん、高等学校?」
何かが違う。少なくとも、ここは俺が通っていた学校でないことは一目でわかった。
しかし、校舎に流れていく人混みは、皆一様に芽衣たちと同じ制服を着ている。
――あれ?
それだけに、一人だけ私服で立ち尽くしている少年を見つけた時は、ほとんど興味本位で声をかけていた。
「あの――」
返答は無い。少年は固まったように校門前の一点を見据えていた。
何事かと問いかける前に、その異変は起こった。
ビュッ、という突然の風切り音、爽やかなこの風景に似つかわしくない断末魔、次いで、何かが地に倒れる音が順に響いた。
刹那の静寂、悲鳴。
俺は反射的に音の方へと振り向く。
「なんだ……あれ」
校門前に、明らかな異物があった。
曲刀を携えた緑色の体軀は、よくMMORPGのゲームに出てきそうな「ゴブリン」のそれだった。
周りで立ち尽くす学生が、異形の怪物に次々と倒されていく。
――助けなきゃ。
「蒼ちゃん……?」
――助けなきゃ。
もはや芽衣の制止も耳に届かない。
気がつくと、俺は「ゴブリン」に向けて駆け出していた。
◇◆◇◆◇◆
「っ……!」
そこで夢は途切れ、飛び出すように身を起こした。
「何だよ……今の……」
声を振り絞って、それだけ呟く。
まるで未来を暗示しているかのような現実性があっただけに、冗談だと笑い飛ばすこともできなかった。
――ダメだ、ここにいたら色々考えてしまう。
「……とりあえず、どっか行くか」
気分転換で外に出れば、何かが変わるかもしれない。
ストレージから装備欄を呼び出し、ワンタッチで着替えを済ませていく。
自衛の要である剣と銃は残念ながらホルスターが無い為、戦闘の度にストレージから出さなければならないのが不便だ。
一応、武器作成してもらった後日、錬金術師のミユに頼んではみたものの、彼女曰く「左右非対称の装備は作る時間と労力が倍になるから嫌だ」らしく、しっかりと拒絶されてしまった。まぁ、無料で武器と装備を提供してくれたわけだから文句は言えないが。
そういえば――と、おもむろに武器のステータス画面を開く。
『シルバリック・ブレイド(赤色発光型)』
耐久値:75/500
ATK+20
AGI+25
近接攻撃力UP、アーツ補助、対魔力UP、防御力DOWN
作成者:Miyu
『シルバリック・ガン(赤色発光型)』
耐久値:30/500
AGI+30
アーツ補助、防御力DOWN
作成者:Miyu
「こりゃマズイな……」
作成してもらってから一〇日近く、一切のメンテナンス無しで酷使した結果が明確な数値として表れている。
この一対の銃剣はどちらも銃形態、剣形態への変形ができるため、俺は個人的な好みで片方を剣、片方を牽制用のための銃形態で戦ってきた。
そのため、牽制用で多用する銃形態側の方が消耗が早いようだ。
私が作りたかっただけだから代金はいらないけど、壊したら命は無いと思ってね、とまで言わしめた作品なので、そろそろメンテナンスを兼ねて会いにいかなければならない頃合いだ。
「闘技場にも行く予定あったし、暇そうなら観戦にでも誘ってみるか」
フレンドリストからミユの名を探し、コールボタンを押す。
数度の発信音の後、金槌で金属を叩く騒音の中に紛れる微かな少女の声が聞こえた。
『久しカーンぶり、装カーンたちカーン気?』
「後ろが騒がしいんだが……」
武器の精錬中だろうか。だとしたら悪いことをしたな。
アーツと同じく、武器作成にも強固なイメージ力が必要となる。集中していた時に電話をかけてしまったのなら謝るべきはむしろ俺の方だ。
『なーカーンに? 聞こえカーンなーい』
「こっちも聞こえねぇよ!』
『ちょい音止めて……、いやぁ、ごめんごめん。冗談だよ』
――わざとやってたのか。
コホンと咳払いをし、会話を仕切り直す。
「まぁいい。あのさ、これから会えるか?」
『え、デート?』
「電話切るぞ」
『わぁごめんごめん。メンテでしょ?』
――わかってるなら最初からそう言ってくれ。
時折挟まれる冗談に嫌気が差しながらも、武器を作ってくれた恩人だからと、無理やり自分を納得させる。
「……あぁ。あと暇なら闘技場ってやつ行ってみねぇか?」
『……結局デートじゃん』
「なんか言ったか?」
『いいえ、何も』
――よく考えればデートでした……。
照れ隠しに難聴を装いながら軌道修正。
「んじゃ、これから店行く。五分くらいで着くから」
『ほいほーい。わかったよー』
返答を聞き届けてから、通話終了のボタンをタップ。
端末と部屋のカギをポケットにしまって部屋を出る。廊下でホテルマンNPCとすれ違う度に軽く会釈を返し、うろ覚えのミユの店の位置を記憶で辿りながら目的地へと急いだ。




