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パラレルコネクト・オンライン  作者: yuto*
パラレルコネクト・オンライン標準時:2月
18/118

Act17-もう一人の……

 二月一一日、深夜。


 俺は備え付けのベッドに横たわり、見慣れたホテルの天井を眺めながら、昨日の出来事に思いを馳せていた。


『あなたがショウヤと敵対するなら、私が許しません』


 その言葉だけが何度も蘇る。

 思えば現実世界での高月さん――ヒナタは、どこに行くにも常に翔弥にべったりで、片時も離れないと言っても過言ではないほどだった。

 自分で何か行動を起こすような性格でもなく、その点は俺と通ずるところがあるように思えたのに。

 おそらく、この世界に来て彼女の中で何か(・・)が変わったのだ。

 翔弥に執心するが故に手に入れた、逆に彼を守ろうとする強固たる意志。相手は違えど、同じものを欲している俺にとっては、複雑な気分にならざるを得なかった。


 香澄、誠也、ユズハ。そして、メイも。

 みんなを守れる力が欲しい。


 この世界におけるレベルによってもたらされる力は、ただのステータスであり、また偽りだ。

 しかし、ゲームオーバーが現実の死とリンクしてしまった以上、そのステータスを求め続けなければならない。


 ――皮肉な話だな。


 思考を切り替えようと頭を振り、テーブルに備えてあるリモコン型端末で、ホテルマンNPCを呼び出した。

 しゃらん、と心地よい鈴の音が鳴り、もはや瞬間移動の域に到達しそうな速度で部屋の前まで飛んできて、インターホンが鳴らされる。

 手に持つ同じ端末で扉を操作して解錠。

「お呼びでしょうか?」

 白髪の目立つ、六〇歳前後をモチーフにしたのであろうホテルマンNPCだ。深々と一礼してから、決められた単語を口にする。


 俺のような高校生に対してでも、非常に丁寧な物腰で接してくる。この感じは嫌いじゃない。

「あぁ、ハーブティーを一杯頼む」

「かしこまりました」


 ここのホテルに来てからというもの、ほぼ毎日飲んでいるオリジナルブレンドを注文。

 NPCは再び一礼し、部屋を出る。

 しかし俺が息付く間もなく、また数秒で部屋まで戻ってくる。慣れた手つきでティーポットとティーカップのセットを目の前のテーブルに置いていく。

 一連の動作を滞りなく済ませ、そこで深々と腰を折ってNPCがいつもの同じ言葉を口にした。


「ごゆっくりお過ごしください」

「どうも」


 注文以外の音声入力を一切受け付けないNPCに対しての返答に、特に意味はない。俺の気持ちの問題だ。

 再び静かなひと時が戻ってくる。

 ポットの温かい液体をカップに注いでいると、テーブルの上の携帯端末が駆動を始めた。

「おっ……と」


 ポットをそっと置いてから端末に手を伸ばし、画面に表示されたメールの差出人に眉を顰める。


「運営……? 今さら何の用だろうか」


 これまでの一ヶ月、一切の更新もなければイベントの類も起こさず、毎日のようにダンジョンに潜って暮らす生活を強いてきた。これがただのオンラインゲームの運営なら、クレームの嵐でサービス終了にまで追い込まれるレベルだ。

 ようやく何かアクションを起こすのかと期待した俺が見た文面に記されていたのは、二つのアップデートの詳細だった。


ーーーーーーーーーーーーー

 From:プロジェクト「HM」

 To:Sota

 Message:第一次アップデート内容。①一〇月開催イベント「エリアウォーズ」の準備期間のお知らせ ②闘技場の実装と、それに伴うランキング制の導入

ーーーーーーーーーーーーー


 それぞれリンクが添付されており、「パラレルコネクト・オンライン」のアプリケーションの特設ページに繋がっていた。


「嘘……だろ……?」


 ゆっくりスクロールしていくうちに、俺は一つの可能性にたどり着いた。

 ランキング制の導入、これはまだいい。イベントでの貢献度や、同時に実装された「闘技場」で格上の相手に勝つことで、自らの序列を上げることができるというものだ。

 人間観察をする上で、プレイヤーの対抗意識を煽るのも一つの方法だろうし、特に異論はない。


 問題視すべきは、その”イベント”の方。


 七つのエリア(東京、茨城、栃木、群馬、埼玉、神奈川、千葉)に分かれて領地戦をし、勝てば相手エリアを吸収し、負ければ相手の傘下に入らなければならない。


 各エリアには「領主ギルド」を必ず配置し、所有エリアが二つ以上になった時点で、そこに税金システムをかけることができる。


 俺が一番驚いたのは、この「HM計画」を行っている県が、東京だけではなかったということだ。

 推測が正しければ――、いや、ほぼ確定だが、この東京エリアにいる三千人の他に、別エリアにも被験者が存在するのは間違いない。


 もし、この「エリアウォーズ」を実装する前提で、各エリアに公平を期すために被験者の数を同じにしているとしたら……?

「約二万人……」

 笑えない数字だ。

 リラックスするために注文したハーブティーの香りなど楽しむ余裕もなくなり、雑念を振り払うように一気に飲み干す。


「……ギルドか」


 「エリアウォーズ」とやらがPK推奨イベントなのか気になるところだが、もしそうだった時に、信頼できる指揮官がいないと不安だ。

 慌ててアプリケーションを開き、フレンド一覧を呼び出す。

 しかし、そこではっとため息をつく。

 ほぼ他人との関わりが無かった一ヶ月で、得たフレンドはわずか三人。最初に出会った魔術師(マジシャン)のユズハ、俺の剣と銃をオーダーメイドで作成してくれた、この世界では珍しい錬金術師(アルケミスト)を選択しているミユという少女。それに、昨日別れ際に登録した治癒師(プリースト)のメイだけだ。


 どれも信頼できる友人であることに変わりはないが、ギルドマスターを任せるとなると、また話が変わってくる。

 端末を閉じ、再びベッドに横になって考える。


 ――単に実力者を求めるのなら、それこそランキング上位のプレイヤーに指揮官をやってもらえばいい。けど、強さを持つ者は大概、協調性に欠けている節がある。


 力があるからといって単騎突撃するようなやつが指揮官では、どのみちそのチームに勝ち目はない。

 そこまで考えたところで、ふと過去に自分が犯した過ちが蘇る。


 ――ギルド戦、力の過信、単騎突撃。


 あの頃は、自分のような下っ端一人の犠牲で、三人もの相手を倒せるなら上出来だと思っていた。

 だが、今になって思う。

 そんな個人戦で勝ったところで意味は無い。結局はチーム戦。あの時は不意打ちだから上手くいったが、次もそうなるとは限らない。

 そして、指揮官はメンバーのために、最も勝率の高い作戦を考える義務がある。


 ――俺は、それに背いた。


 あの独裁者気取りのギルドマスターに今さら情をかけるつもりはないが、おそらく指揮官として最低限の責務は果たしていただろう。

「……俺が間違っていたのかな」

 そんな呟きが口をついて漏れる。


 自分が間違ったことをしたつもりはない。だが、それによって周りを振り回してきたのもまた事実だ。


『――いいや、君は正しいよ』


 唐突に、頭の中で何者かの声がする。

 しかし、この体験は初めてではない。

「お前な……。まぁいいや」

 そう――、おそらく昔、ショウヤと喧嘩別れしたあの時から、俺の中に別の誰かがいる。


 そいつは事あるごとに表に出て来ては人格を支配し、俺の思考とは独立して勝手に行動を始める。

「それよりお前。昨日もショウヤの前で出てきたよな。何話してたんだ?」

 この別人格が表に出ている間、俺の記憶はわずかながら現実から切り離される。昨日は戦闘に介入し、メイと会話したところまでは覚えているが、ショウヤが話しかけてきたところからの記憶が一切無い。俺が人格のコントロールを取り戻した時、身体はダンジョン近くにあるファストフード店の中にあった。


『なに、ちょっとあいつを懲らしめてただけさ。僕、あいつ苦手なんだよね』


 頭の中に直接響きかけるようなノイズでの会話。口調はまるで子どもの頃の俺のようだ。いや、むしろあの頃の冷徹な自分が人格として残ってしまったのかもしれない。


「頼むから、余計な時に出てくるなよ」

『それは君次第だね』


 実を言うと、俺には人格支配のコントロール権がない。自分の身体なのに理不尽極まりないことだが、一度裏の自分が出てこようとしたら、俺には止める術がない。

 とはいえ、こいつはいつも俺の言いたいことを代弁してくれているようにも思える。心の弱い俺が面と向かって言えないことを、代わりに。

 「君次第」とは、まさにそういうことだろう。


 俺が本当の意味で強くならない限り、こいつはずっと居残り続ける。

『まぁ、そういうこと』

「心まで読むんじゃねぇよ」

『聞こえるんだもん』

「はぁ……」


 カーテンの隙間から覗く月の光に手をかざしながら、静かに目を閉じる。

 ――とにかく、明日は動こう。

 それこそ闘技場に参加して序列を上げ、レベルの高いプレイヤーとの関係を築くのも悪くない。


 運営アップデートによる強制睡眠コマンドのせいか、俺はすぐに深い眠りへと落ちていった。

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