表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パラレルコネクト・オンライン  作者: yuto*
パラレルコネクト・オンライン標準時:2月
17/118

Act16-救世主

 以来、俺はずっと蒼汰を倒すことを目標に戦ってきた。

 俺の目の前で狂気をさらけ出した翌日、それまで皆勤賞を維持していた蒼汰は、初めて学校を休んだ。


 当初は小学生だったこともあり、特に深くは考えなかった。

 しかし次の日、さらに次の日。待てど暮らせど、あいつが二度と学校に顔を出すことは無かった。

 その代わりに、ゲーム内の方で動きが見えた。

 「MMOニュース」という、ゲーム内の様々な事件を報道する人気番組を何気なく見ていた俺は、一瞬、自分の目を疑った。


 内容を要約すると、『「失われた破壊者(ロスト・バスターズ)」のギルドマスターが、何者かに決闘を申し込まれ、負けた代償としてギルドの解散を強要された』とのことだった。

 当然ギルドマスターは「アホらしい」と一蹴して断ったらしいが、元々決闘開始前の取り決めとして指定していたため、犯人はGM(ゲームマスター)コールで不正を報告。ほどなくして、ゲーム内から一つのギルドの名が消失した。


 その失意からか、ギルドマスターは以来一切のログインをしておらず、巷では引退説も囁かれていた。


 ――これが、お前のしたかったことかよ……。


 何度も、かつての親友(ライバル)に問うた言葉。

 しかし、未だに答えは返って来ない――。



 ◇◆◇◆◇◆



「――ヤ! ショウヤっ!」

「はっ……」

 メイの呼びかけで、意識が現実へと帰還を果たす。

 状況は何も変わっていない。


 ダメだ、今はこっちに集中しないと。

「ヒナタ、牽制攻撃はしなくていい。全ての攻撃をよけながら立ち回れるか?」

「なかなか、難しいこと言うね」

 無理な作戦だということは百も承知だ。

「でも、ショウヤの頼みとあらば、頑張る」

「ありがとう、頼んだ。メイはそのまま支援頼む!」 

 後半部分は、後衛のメイに伝える。

「おっけー!」


 その作戦を最後まで聞き届けたかのように、巨体が再び移動を始めた。

 ヒナタが射程圏内に入ったのを確認し、腕を大きく振りかぶる。


 再び剣と斧の連続攻撃か――、いや、違う!


 今まで微動だにしなかった、槍を持つ腕と盾を持つ腕までもが振りかぶられている。

 剣と斧は射程的に考えて、ヒナタにしか届かない。

 だが、槍は最悪メイまで届く。

 彼女はまだ気づいていない。


「メイ、危ないッ!」

「えっ……?」


 ガキィン――!


 最悪の展開を予想した俺とメイの目の前で、激しい火花が弾けた。

 『ダンジョン・ルーラー』の持つ鈍色の槍と、乱入者の白銀の剣が交錯した。

 互いにノックバックが発生し、ほぼ同時に飛び退く。


「一体どこから……」

 咄嗟に辺りを見回す。ボスモンスターの全長を超える高さの攻撃を繰り出せる可能性があるのは、大広間の隅にある高台のみ。

 おそらく、乱入者はあの高台から突撃してきたのだろう。

 弾かれた乱入者は片膝立ちで着地を決め、ゆっくり身体を起こしながらこちらを振り返る。

 静かで、かつ聞き覚えのある声が響く。


「大丈夫か? 芽衣。いや、この世界じゃ”メイ”なのか」

「蒼……ちゃんなの?」

 ――蒼汰……、お前なのか?


 メイの声と、俺の心の声が重なる。

 こちらには軽く一瞥をくれただけで、すぐに『ダンジョン・ルーラー』に向き直った。


「待ってて、メイ。すぐに倒すから」


 白銀のアーマーに赤いラインが入った上下装備。左手に剣を持ち、右手には銃。どんな職業(クラス)か想像もつかないが、どちらも服と同じ白銀の武器色で、アーツのイメージを通す時に発光する仕様らしい。それだけでも、十分レベルの高さが伺える上位装備だった。


 そこで、囮として大広間の反対側を走り回っていたヒナタが戻ってくる。彼女も蒼汰とは同じクラスになったことがあるため、知り合い程度には意識していただろう。


 俺たち三人は射程外に逃れ、『ダンジョン・ルーラー』と『ダンジョン・ルーラー・クロニーズ』の範囲内に、一人の少年のみが残る。


 当然、三一体の攻撃目標はそこに定まる。

 直後――。

 四本腕の連続攻撃と、三〇本の矢が一箇所に集中。

 そこで俺は、再び自分の目を疑った。


 ――剣、斧、槍、盾の攻撃を、一本の剣のみでいなし。

 ――全ての矢を余すことなく銃によって撃ち落とした。


 ダンスのように華麗なその舞いは、今まで戦う側だった俺たちをも魅了するほどだった。


「もう終わりか?」


 MMORPGプレイヤーの性として、素晴らしい動きを見せられたら、無意識に称賛を送りたくなるものだ。

 しかし、こいつの戦い方は言葉では言い表せない。


「そうか……なら今度はこっちから行くぜ」


 そこからは、まさに地獄絵図だった。

 暗闇に潜む狙撃手を直感だけで撃ち抜き、目前の巨体に剣戟を叩き込んでいく……。

 その光景が一〇分も続けば、大広間の喧騒は嘘のように消え去っていた。

「ふぅ……」

 データの残滓とともに剣と銃を端末のストレージに戻し、乱入者は一仕事終えたとばかりにため息をついた。


 聞きたいことはたくさんある。だが、まずは確認しなければならない。

「蒼汰……なのか?」

「ん、あぁ。ショウヤか」

 こちらは、まるで眼中に無いかのようだった。


 すぐにメイの方を向いて問いかける。

「メイ、怪我はないか?」

「う、うん」

「何でこんなに高難易度のダンジョンに入ったんだ、危ないじゃないか」

「それは……」


「俺の判断だ」


 言葉に詰まったメイの代わりに、俺が後を引き継いだ。

 白銀の装備に身を包んだ少年が、こちらを煩わしそうに振り向く。

「ここは都心からは少し遠いダンジョンだが、郊外というわけでもない。今回は運が悪かっただけだ」


「運? 全然違うね」


 明らかに、メイと話している時とは雰囲気が違う。

「ここのレベル帯は20から40。三人のレベルがどうなのかは知らないけど、少なくとも安全マージンを取っているとは思えない。明らかにお前の判断ミスだよ」

「なん……だと」

「昔からそうだ。お前はいつも情報を過信しているせいで、周りを危険に晒しているのがわからないのか?」

 あいつの言っていることは正論だ。


 それだけに、つい頭に血が上った。

「じゃあ、運営の情報を信じないで、何を信じればいいんだよ?」

 出したままだった剣の先を、かつての親友に向けながら問う。

 すると、蒼汰はまるで当たり前のような口調で言い放った。


「もちろん、”自分”だよ」


 半ば想定していた解答だけに、反論が浮かばない。

 畳み掛けるように続ける。

「いいか、この「パラレルコネクト・オンライン」は未だに得体の知れない実験(ゲーム)だ。そんなのを運営しているところが発信している情報に、全く信憑性なんてないんだよ」


「でも、一切の情報を信じなかったら、未知の異世界でどうやって生きていくんだよ!」


 激昴しかけた俺を、静かになだめるように反駁する。

「そうじゃない。情報を鵜呑みにするなと言ったんだ。

 例えば、あのアプリの説明にあった”都心”と”郊外”の定義、お前はわかるのか?」


 「パラレルコネクト・オンライン」のアプリケーションにある、ダンジョンについて説明している項。そこには、”都心”と”郊外”の単語を使って、ダンジョンのおおよその難易度を示しているページがあった。


「それは……」

「そう、運営しか知らない。明確な境界線があるわけでもないんだし、プレイヤーが知ることはおそらくないだろう。つまりそういうことだ」

「定義の無い情報は信じるな、ってことか?」

 一度の首肯。


「もしお前がこれからメイ達と行動をともにするなら、これだけは言っておく。

 彼女達に何かあったら、俺はお前を許さない」

 最後に一際冷ややかな光を宿した瞳で、そう告げた。


 しかし、そのまま背を向けて出口へと歩きだそうとしたかつての友人を、何者かが止めた。


「あの……待って、下さい」

 ヒナタだ。


 静かに歩み寄り、一回り小さな体で少年と相対する。

「君は、確か高月さん……だったよね?」

「ヒナタで、いいです」

 簡単な挨拶を終え、本題に入る。

「あなたは、ショウヤの敵?」

「……!?」


 あいつの表情に、明らかな動揺が見えた。

「先ほどの言葉は、私たちの身を案じての忠告だということはわかります。そこには感謝しています。

 けど、あなたがショウヤと敵対するなら、私が許しません」

 静かだが、確かな意志を持った言葉だった。


 だが、それに答えを残すことなく少年は身を翻し、暗闇の中へと消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ