Act14-危機
銃声、剣戟。
繰り返される交響曲に、俺は軽い快感すら覚えていた。
今までやっていた、どのMMORPGとも違う。実際に身体を動かして剣を振るい、仲間とコミュニケーションを取り、そして強大な相手に勝つ。
日常的には決して起こりえない快楽を、「パラレルコネクト・オンライン」は叶えてくれる。
「ショウヤ、今!」
「了解ッ!」
カキィン――!
もう何合目かすら覚えてないが、俺の相方である剣が、戦場に心地よい音を響かせる。
手馴れてしまったローテーションを済ませ、少し離れた位置で次の出番を待つ。
――そして、ヒナタの放った牽制弾によって、ようやく『ダンジョン・ルーラー』のHPバーの最初の一本目が消えた。
「やった……!」
メイが上ずった声で喜びを顕にする。
「よし、あと二本! 一気に行くぞ!」
俺の気合いに乗じて、ヒナタが一気に拳銃を撃ち込みながら突撃する。
この時、俺は「ボスモンスターのHP減少による行動変化」という、自ら危惧した不安要素を失念していた。
それに気づいたのは、今まで同じスタンスで立ち回っていた『ダンジョン・ルーラー』の兜に隠れた双眸が、赤く点滅しているのを視認した時だった。
次の瞬間――。
やつの全身から発せられた、俗に言う”シンクロノイズ”がこの空間一帯をビリビリと震わせた。
「うっ……!」
金属を擦り合わせたような不快な音に、無意識に耳を塞ぐ。ヒナタとメイはそれぞれ蹲って耐えている。
動物が群れの仲間を呼び寄せるために使用することが多いこの技能は、普通、同族にしか聞こえない音波によって構成されているため、人間の耳に届くことはあっても知覚することはできない。
だが、俺はこの一ヶ月で思い知っていた。
――この世界に”普通”はない、と。
耳障りな騒音はすぐに鳴り止み、わずかな静寂が訪れた。
「今の、何?」
敵を目前にして、ヒナタが銃を持ったまま振り向く。
「さぁ? 何だろな」
俺も突撃の出鼻をくじかれてしまった。
「一応、何か支援かけとこうか?」
この戦闘の中だけで後衛の役割をきっちり理解していたメイだけが、戦意を維持していた。
――”シンクロノイズ”……か。いや、俺の知っているものとは少し違っていたけど。
そんな悠長に考えている時間があるほど、停滞した状況が数分続いた。
「メイ、念のため支援頼――ぐはッ!!」
「ショウヤ君!?」
俺は自分の身体が横っ飛びに吹っ飛んだことに気づくのに、かなりの時間を要した。
会話しながらも、やつの動きは逐一確認していた。特に不審な行動はなく、ましてや攻撃モーションなんてありもしなかった。
では何故か……。
遅まきながら、俺は自分の横腹に突き刺さった矢の存在に気づいた。
「え……」
単発攻撃なのか、矢が刺さっていることに対する継続ダメージは無かったが、全快していた俺のHPは三分の一を消失していた。
すかさず、矢が飛んできたであろう方向に目を凝らす。
システム補正で、暗闇の中にぼんやりとHPバーが見える。
「Dungeon・Ruler……Cronies?」
その一体を視認した途端、小波が広がるかの如く辺り一帯に同じHPバーが浮かび上がる。
――何だこの数……、三〇体はいるぞ!?
視認したレベルは25。リーダーよりは低いが、それでも格上であることに変わりはない。
おまけに、こちらに姿は見せずあくまで暗闇からの狙撃に徹するらしく、うかつに攻撃をすることもできない。
「さすが、Rulerなんて固有名を持つだけのことはあるね……」
ぽつりとメイが呟く。
確かにそうだ。MMORPGに出てくるモンスターも、必ず固有名に何らかの意味を持っていることが多い。
初めから気づいていれば、まだ心の準備ができたかもしれなかった。
「くそッ……!」
周りの状況を忘れ、思わず歯噛みする。
――俺は……、まだあいつに勝てないのか。
脳裏に、かつて親友と呼べる間柄にあった少年の得意気な顔が浮かび上がる。
◇◆◇◆◇◆
あいつと出会ったのは、小学五年のクラス替えの時。
出席番号の関係で隣の席になり、互いに仲のいい友人と離れてしまった俺たちは、すぐに打ち解けていった。
今さらになって思い出すと恥ずかしい限りだが、小学生で無邪気さ全開だった二人の少年は、事あるごとに”勝負”にこだわった。
特に報酬や罰ゲームが伴うものでは無かったが、それがより真剣な勝負を助長していたのだと、最近になってようやく気づいた。
問題だったのは、その勝敗。
ある一つの要素が加わるまでの俺の戦績は、確か二五勝二四敗一〇七分。小学五年から六年までの全ての勝負の記録だ。
見てもわかる通り、勉強、スポーツ、ゲーム。とにかくどんな勝負をしても互角。
だが、常に競い合える親友の存在は、互いを高められるという意味で、俺にとってもいい刺激になっていたと思う。
そんなある日、俺は”勝負”に持ってこいのジャンルを見つけてしまった。
あいつも、もちろん乗り気で勝負を受けて立った。
――それが、俺たちとMMORPGの出会いだった。




