Act11-選択肢
「さて……と」
簡素なテーブルに向かい合わせで座った俺とミユ。彼女が落ち着いたタイミングを見計らって、話を切り出す。
「まず聞きたい。なんで泣いてたんだ?」
「これを……見てください」
それが返答になってるのかはわからないが、ミユは丸められた一枚の厚紙を手渡してくる。
開くと、どうやら何かの設計図らしい。線画で銃とも剣とも取れる武器を模したイラストが描かれていた。
「私が考えた、オーダーメイド武器の構想です。でも、何回イメージしても上手くいかなくて……」
アプリケーションによると、錬金術師の武器生成にも、アーツと同じようにイメージ力が必要だという一文があった。
そのため、失敗する事例があるとすれば、考えうる可能性は二つ。
製作者のイメージが不足している。もしくはその武器を扱えるプレイヤーが存在しない場合。
しかし今回の場合、前者とは考えにくい。何故ならここまで設計図をこと細かく描けているにも関わらず、イメージ不足であるとは思えないからだ。
後者はどうだろうか。
例えば、大型のミサイル兵器を設計したとしよう。装備できる職業が存在しない武器。そんなものを生み出せるのだろうか。
答えはNOだ。
他にも武器生成をする際には、DEX(器用さ)のステータスと残MP補正が関わってくるが、これらはあくまで”思い通りの形を作れるか”の要素に関係する。彼女はそもそも武器生成の段階で失敗している以上、この二点は省く。
ここまで考えたところで、俺はある質問を投げかけた。
「なぁ、ミユさん。これは何の武器をイメージしたんだ?」
「強いて言えば、”銃剣”です。変形型の」
――そりゃ作れないわけだ。
落胆とともに、そのまま思ったことを口にする。
「なんでまたそんなものを……」
「もちろん、私だって”武器カテゴリーに当てはまらないものは生み出せない”、っていうことは知っています。けど、昼間のあなたの戦い方を見て、もしかしたらと思って……」
「――確かに、言われてみれば銃剣を扱えているように見えなくもないな」
俺が使用している擬似的な”銃剣”の場合、あくまで刀身はMPを使ったイメージの残像に過ぎないため、武器カテゴリー的にはただのハンドガンに分類されている。
しかし、彼女の考えた武器は本当の意味での”銃剣”だ。
現時点で、この世界には銃と剣を同時に装備できる職業は存在しない。――はずだが。
「あ……もしかして」
「どうしました?」
おそらく俺は今、傍から見たら口をポカンと開けたアホみたいな人間に見えていただろう。
はっと我に返ると、テーブルから身を乗り出し、手元の設計図を指しながら食い気味に問いかける。
「ミユさん、今からもう一度これを作れるか?」
「えっ?」
「ちょっと試したいことがあるんだ」
◇◆◇◆◇◆
「ええと……行きますよ?」
先ほどと同じく向かい合わせに座る。唯一異なるのは、テーブルの上に武器生成のための素材が所狭しと並べられているところだろうか。
「ちょっと待ってくれ――」
俺は「パラレルコネクト・オンライン」のアプリを開き、広告のようなリンクから転職ページへと移動する。
意味不明だった一番下の銃剣士をタップし、『本当によろしいですか?』の確認もOKを選択。
――まさかこんな実験に大切な転職を使うことになるとは。もし俺の予想が外れてたらヤバイけど……。
数瞬の間を経て、今まで上部にあった猟兵Lv30の表記が、銃剣士Lv30に変化する。これで転職は完了だ。
「――よし。ミユさん頼む」
コクリと頷くと、ミユは両手を素材にかざし瞳を閉じる。それに呼応するかのように、テーブル周辺が青白く発光し始めた。
そのままの光景は数十秒続き、突如、一際眩い光が視界を遮る。どうやらここが成功判定タイミングらしい。
光が収まったテーブル上には、一対の白銀の剣が乗せられていた。
「あれ……ただの剣なのか?」
「あれ、できてるっ……!?」
銃の先に刀身が付いているものを”銃剣”だとばかり思っていた俺と、自分が予想した通りの出来上がりになったのであろうミユの反応に差が生まれる。
ミユの目線が出来上がった剣と俺を何度か行き来し、「どうして……?」の呟きを生み出す。
「おそらく、これが原因だ」
言いながら、俺のプレイヤー情報のページ開いてミユに渡す。
「銃……剣士?」
「そう。あとここも見てくれ」
ページを下げ、俺が指さしたのは”装備可能武器”が表記されている欄。
「銃と剣……」
「あぁ。これは予想なんだが、俺がついさっき転職するまで、”銃と剣”をともに装備できる職業は存在しなかったんだ」
ここまで聞いた時点で既に、ミユは合点がいったような表情をしていたが、同時に疑念の色も浮かんでいた。
「でも、猟兵でレベル30に到達したプレイヤーはあなた以外にもいますよね?」
「問題はそこなんだ。他の猟兵が全て弓兵や観測者に流れたとは考えにくい。もっとも――」
わずかに間を空け、俺が予想の先に行き着いた結論を口にする。
「――銃剣士がどのプレイヤーでも選択できた場合なら。だけどな」
「じゃあ、その職業はあなたしか選択できなかった……と?」
「さぁな。ただ、俺が今まで擬似的に銃剣を使って戦ってたのが、何らかの隠し要素のトリガーになってたのかも」
「珍しいこともあるんですね……」
ミユはとりあえず、と言って立ち上がると、出来上がった剣をこちらに手渡す。
「これで目的は達成ですね。約束通りお代はいりません。ただ――」
「ただ?」
「自分で言うのもなんですが、これは結構な力作です。壊したら命は無いと思ってくださいね♪」
満面の笑みでそう告げられた俺は、ただただ頷くことしかできなかった。
「あと、私が今度オープンする店の地図を送るついでに、フレンド登録しましょう」
「そうだな。メンテナンスしてもらう必要もあるし」
慣れないフレンド申請メールを受け取り、承諾。これでミユは俺の二人目のフレンドになったことになる。
「最後に、よければこれも使ってください」
プレイヤー同士が行える”トレード”機能。一方的に送られてきたそれには、テーブル上の剣と同じ色をした上下装備が出されていた。
「いや、さすがにこんなに受け取れないよ……」
ここまで全て無償で提供されてきたのに、さらに上下装備ともなれば俺が一ヶ月間ソルを稼ぎ続けても払えるものではない額になる。そんなに至れり尽せりしてもらうのは申し訳ない。
しかし、ミユは首を横に二度振ってから言った。
「元々この二つの銃剣と合わせるために作ったものなので、ぜひあなたに使ってもらいたいんです」
「……そうか。ならありがたく使わせてもらおうかな」
トレード承諾を選択し、早速上下装備を身に付ける。
一瞬の光とともに、俺の身体が白銀に包まれた。
「おぉー似合いますね!武器も持ってみてください」
「なんか恥ずかしいな……」
すっかり見世物になっているが、無償でいただいた手前、文句など言えるはずもない。
テーブルから一対の剣を両手に持ち、手応えを確認する。
「うん、長さも重さも注文通りだ。ありがとう、ミユさん」
「いえいえ。あと私のことはミユでいいですよ」
「ん、じゃあ、ミユ。一つ聞いてもいいか?」
「何でしょう?」
ここで俺は、自分とミユがイメージしていた”銃剣”の違いを問いかける。
俺のイメージは”銃口から刀身が伸びている武器”だった。そのため、俺の手に握られている”剣”を”銃剣”ですと言われても納得がいかない。
「あぁ、確かに一般的な銃剣はそうですね。持ち手についてるボタンを押してみてもらえますか?」
「ボタン?」
促されるがままに、剣を握った時に親指に来る位置にあるボタンを押す。
すると、ガシャンガシャンというSEとともに刀身が引っ込み、完全な銃形態へと変化した。
「これは予想外だったな……」
ミユのイメージする銃剣は、どうやら完全な”銃形態”と”剣形態”に分かれているものだったらしい。
ボタン式なので、戦闘中にイメージを切り替える手間が省けるのは助かる。
――なるほど、確かにこれもある意味では”銃剣”だな。
その後も装備披露と言う名のファッションショーは続き、ミユが帰ってくれたのは次の日の朝だった。




