Act117-会議
「わたし?」
短剣を返して欲しそうな表情のまま首をかしげる。
どう説明したもんかと一瞬考えるが、逆に複雑になりそうだったので直球で伝える。
「ホノカ、すげぇ今さらだけどさ。ギルドに入ってもらいたいんだ」
「ぎるど? ……ってなに?」
――そういやギルドってなんだ!?
改めて聞かれると言葉に詰まる。
「今まではずっと聞く側だったと思うけど、これからはホノカちゃんにも一緒に参加してほしいんだ。どう?」
すかさずフォローに入ってくれたミユに、視線だけで感謝の念を送る。さすが一緒に生活してるだけあって、ホノカの年齢に合わせて話すことには慣れているらしい。
「んー、わかった!」
「よし。それじゃあ申請送るね……っとその前にフレンド登録しないとだね」
ギルド招待やメッセージを送り合うためにはフレンド登録してあることが前提だ。俺が以前やっていたオンラインゲームだと、イベント中のみ特例でフレンド外でもメッセージのやり取りができたが、この世界が同様かはまだわからない。
兎にも角にも、まずはホノカをフレンドにしなければならないのだが――
「ねぇソウちゃん。ホノカちゃん端末持ってないんだけど」
――なんだって。
事の成り行きを見守っていたユズハとフィリアも、紅茶を飲む手を止めた。
「どっかで落としたとか?」
ミユとホノカがほぼ同時に首を振る。
「そもそも持ってないって」
「そんなはずは……」
いや、むしろ何故今まで不思議に思わなかったのか。
この世界で”端末”と呼ばれるのは、要は現実世界でいうスマートフォンのことだ。
今まで出会ったプレイヤーは俺と同じかそれ以上の年齢だったから気にもしなかったが、まだ一〇歳の少女だ。スマートフォンを買い与えられてない可能性だって十分にある。
――というか、そっちの確率の方が高い。
「私もこれ、今年買ってもらったばっかだしね」
同じ結論に行き着いたのか、ユズハが端末をいじりながら口を挟む。
俺だって高校に入学する年に|(行ってないけど)買ってもらった身だ。
「というか、それじゃギルドどころか生活も不便なんじゃないか?」
端末を持っていない。つまり、「パラレルコネクト・オンライン」のアプリケーションを使用できないということ。
お金の管理はもちろん、アイテム、メッセージのやり取り等、戦闘をしないホノカでも、この世界で生きるために必要なはずだ。
「ずっとうちにいたからね。保護する前はわからないけど」
――そういえば、両親と一緒にログインしたって言ってたような気がする。
あの日、公園で遊ぶ少女ホノカを保護したのは確か三月くらいだっただろうか。俺が危うく犯罪者として異空間にぶち込まれかけたのは懐かしい。
「なぁホノカ、俺たちと会う前はどうやって生活してたんだ?」
俺の質問を聞いた途端、わずかに俯きながら答える。
「覚えて……ない……ごめんなさい」
さっきまで元気に走り回っていた少女が落ち込む様子を見てると、なんだかこれ以上詮索する気にもなれず、半ば無理やり話題を変える。
「よし。んじゃ今度楽しいとこに連れてってやる」
「たのしいとこ?」
「あぁ、夏だし――ぐぇっ」
俺の言葉はそこで止まり、いつの間にか背後に回り込んでいたフィリアに首を掴まれる。
「(まさかイベントバトルに連れてくつもり?)」
「(え、ダメ?)」
「(ダメに決まってるでしょ)」
ただのイベントならともかく、戦闘が起こると前もって予定されているところに、まだ素性もわからない少女を連れていくというのか。というのがフィリアの言い分だ。
俺も今朝は同じ意見だったが、成り行きとはいえホノカを気を引いてしまった以上、何となく引き下がれなかった。
「(な、なんとかするから)」
少し考えた後、フィリアは何かを思いついたかのような表情に変わり、俺の首を掴み直した。
「(じゃあ私がホノカちゃんを預かってるよ)」
「(いいのか?)」
ふと、今朝の様子からフィリアはイベントにあまり積極的ではなかったことを思い出す。
「(バトルの間だけね。安全になったら私は帰るから)」
――そんなに嫌なのか。
「(って、それじゃあフィリアが戦えないじゃん)」
「さっきから二人で何話してるの?」
ユズハがテーブルの対面から身を乗り出してくる。
「何でもない。会議に戻ろう」
最後に「そういうことでお願いね」の意味なのか、肩をぽんぽんと叩いて定位置に戻っていった。
以降、とりあえずホノカの素性はさておいて、夏イベントについての会議が始まった。
――ミユとユズハが主導で。




