Act111-リベンジマッチ
互いの得物がぶつかり合い、心地よい金属音が辺り一帯に響き渡る。
「はぁッ……!」
俺の銃剣を受け止めると、すぐさまその勢いで長剣を繰り出してくる。逆に俺はそれを受け止め、同じように銃剣で反撃する。
武器のリーチにほとんど差が無いため、似たような打ち合いがしばらく続いていた。
そして、あるタイミングで互いに武器を離し、距離を取る。
「やっぱり覚えてたな、香澄」
「……」
俺たち二人のルーティンワーク。
それは、”五分”を目処に打ち合いを一度切り上げる、というもの。
昔は互いに体力が無く、長い打ち合いをするのが難しかったことから決められたものだ。だが二人が成長してからも、何故かこの決まり事だけは欠かさず続けていた。
「まぁ、お前は全然疲れてないんだろ? こんなの、毎日部活をやってる香澄にしてみれば、余裕だもんな」
対して、部活どころか学校にも行っていない俺は既に息切れしそうなわけだが。
それとーー気になることが一つ。
「にしても、全然なまってないんだな」
剣道をやめ、ラストマッチを最後に練習試合をやめたのは中学三年の時だ。俺はこの世界で半年間、剣を振り続けて長いブランクを取り戻したのに対し、香澄はあれ以来”剣”に触れてすらいないはずだ。
補填被験者として「パラレルコネクト・オンライン」に来たのは最近の話だろうし、それでこの剣さばきができるとは思えない。
ーーいや、単純に香澄のセンスなのかもな……。
「……お兄ちゃんこそ、変わってないね」
「はい?」
話を振りつつも考え事をしていた上に、予想していなかった展開の訪れに頭が対応しきれず、それが裏返った声として形になってしまった。
ーー今、しゃべった、よな?
「香澄、なのか?」
わかってはいても、つい聞き返してしまう。
すると、今度はきちんと答えが返ってくる。
「そうだよ。ていうかお兄ちゃんは今まで誰と戦ってたの?」
「だってお前、操られてたんじゃ……」
香澄の表情が、何言ってるの? とでも言いたげな、きょとんとした顔に変わる。紛れもなく、ずっと会いたかったいつもの香澄だ。
俺の疑問に答える代わりにぱん、と両手を叩き、明るい笑顔で言い放った。
「はい、休憩終わり。じゃあラウンドツーやろっか」
「いやいやちょっと待て!? この状況で続けます!?」
「えーやめちゃうの?」
「いや……」
元々は香澄に正気を取り戻してもらうために始めた戦いだ。リベンジマッチをしたい気持ちはあるが、一歩間違えれば”死”が待っているこの世界で、本気の勝負なんてやりにくいのが本音だ。
ましてや相手が実の家族ならなおのこと。目的を果たした今、この勝負を続けるのは気が引ける。
「あのな、この世界だと、下手したら練習試合でも死ぬんだぞ?」
「あー言われてみれば……」
補填被験者とはいえ、さすがにこの世界のシステムについては説明されているようだ。
「じゃあ、現実世界に戻ったらまたやってくれる?」
「おう、もちろんだ。ーーまぁこっちの世界と違ってだいぶ弱くなっちゃうと思うけどな」
「誰が?」
「俺が」
この世界で、俺がこんな重たい銃剣を取り回せているのは、ステータス補正に依存していることに他ならない。
現実世界だと、剣道で扱う木刀すらーーいや何でもない。なんか嫌なことを思い出してしまった。
「とりあえず、誠也たちのところに帰ろう。あと色々聞きたいことがある」
操られているわけではないのだとしたら、香澄はログインしてからどうやって今日まで生きてきたのか。まずはそこが気になるところだ。
「私も色々聞きたいことがあるよ。あの女の人たちのこととか」
「……」
ーー説明するの、めんどくさそう。




