Act110-Remind
広場に着いた俺と香澄は、互いの剣が届かない距離を保って対峙していた。
「何か……思い出したか?」
昔、俺が剣道をやっていた頃はよく、香澄に練習相手になってもらっていた。誠也は野球で忙しかったせいもあって、元々運動神経が良く暇を持て余していた香澄は適任だったのだ。
「俺は忘れてないぜ……あの最後の戦いをな」
剣道をやめると言った中学三年の時、香澄は「最後に一試合やろうよ」と挑んできた。それまでの試合は当然といってしまえば当然だが、俺が全勝していたのだ。
そりゃ普段から指導者の下で練習していた俺と、一日一、二回程度の実践しかしてない香澄では実力の差も歴然というものだ。
だが香澄は、そのラストマッチで俺から完璧な一本を取った。
「俺さ、あの時はすげぇ悔しかったんだよな。下手したら『もう一回!』なんて大人げないこと言いそうだった」
「……」
「だからさーー」
縦に構えていた剣を、地面に走らせる。
「ここでリベンジさせてくれよ」
「……!」
一瞬驚いたような表情に変わるが、すぐにまた暗い表情に戻ってしまった。
だが、さっきとは明らかに違う点が一つあった。
「香澄……それ……」
今まで乱雑に持っていた長剣が、見覚えのある中段の構えに直されている。
そうーー昔、練習相手だった香澄が得意だった構えに。
「覚えてたんだな……」
返答は無いが、無言で肯定しているのがわかる気がした。
俺は香澄を元に戻すことも忘れ、純粋にこのリベンジマッチを楽しむことに集中力を切り替えた。
ーー合図無き互いに知れたタイミングで、同時に駆け出した。
◇◆◇◆◇◆
「どう、わかった?」
「まぁ大体はな」
フィリアはセイヤに対し、今までの半年間に起きた出来事と規格外職業のことを、伝えられる限り簡潔にまとめて説明した。
「けど、それを俺に説明してどうするんだ?」
「あなたは補填被験者として、最低限ーーいや、むしろ平均以上のステータスを与えられている。でもこの世界のシステムを知らなければ、それはただの飾りにしかならない」
「……わかりやすく頼む」
「カードゲームで考えてみて。どんなに強いカードを持ってても、ルールを知らなければ戦うことはできないでしょ?」
「あぁ、なるほど」
静かな森に、二人だけの声が響く。
「あなたはきっと、ルールさえわかればこの世界が終わるまで生き残れると思う。だから、頑張って欲しい」
「あぁ。この世界の力になれるように頑張るよ」
そこで会話を終えて再び静寂が訪れると、今まで聞こえなかった寝息が聞こえてくる。
「よくこんな状況で寝れるな、この人たち」
「あなたは寝ないの?」
「いやなんで寝る前提なんだよ。全員寝ちゃったら色々ヤバイだろ」
「じゃあ私は寝るね」
それは遠まわしに、「見張りお願い」とも取れる言葉。
「……ったく、わかったよ」
ーー蒼汰兄が作ったこのギルド。悪くないかもしれない。




