Act109-世界
ーー思い出せ、香澄!
森の中を全力疾走しながら、時折互いの武器を交わす。
もう何度も似た事例を見てきたせいか、香澄が何かに操られているというのはすぐにわかった。
その元凶がわかれば、直しようもあるというものだ。
「誠也に聞いとくんだったな……」
香澄がこの世界にたった一人で来るわけがない。きっと誠也と一緒にログインする過程で何かが起こったのだろう。
ポケットから端末を出し、走りながらミユの名前を探して発信ボタンを押す。
挟まれる剣戟で呼び出し音がかき消されることも厭わず、数秒待つ。
ガチャリ、という耳障りな音とともに、ミユと俺の互いの端末が繋がる。
「ソウちゃん、大丈夫なの?」
「おう、大丈夫だ。誠也に代わってくれないか?」
「あ、うん、わかった」
さらに数秒待つと、俺にとっては半年ぶりに交わす兄弟の会話が始まった。
「蒼汰兄?」
「久しぶりだな、誠也。けど積もる話は後でだ。一つ聞きたいことがある」
「なんだよ?」
「香澄とお前は、どうやってこの世界に来た?」
俺はそこからしばらく、聞き役に徹した。
自宅に補填被験者の通知が届いたこと、二人が俺を探すために参加を決めたこと、怪しい施設でそれぞれ個室からログインしたこと。
そしてーー難しい英語の羅列から”役”を選んだこと。
「なぁ蒼汰兄。香澄は元に戻るのか?」
それらを簡潔にまとめて話し終えた誠也は、珍しく姉を心配する素振りを見せた。
いや、今までも何かと気にかけてはいたのだろう。だが、こうして言葉として発したのは初めてだった。
「大丈夫だ。絶対元に戻して帰る。だから待っててくれ」
そこで通話を切り、改めて前方を見据える。
もう少し行った先に、木々が開けて広場のようになっているスペースがあった。
「よし……」
上手く香澄を誘導しながら向かっていく。
ーーあそこでなら、対話ができそうだ。
◇◆◇◆◇◆
「ソウちゃん、何か言ってた?」
「あぁ、ログインした時の状況とか聞いてきた」
「そっか……まぁいいや。んで、私たちはどうする?」
さっきまで命がけの戦闘をしていたこともあり、ユズハはしばらく動きたくないようで、その場に寝転んだ。
「ソウタ君に待っててって言われたし、ここにいようよ」
「そうだね」
ユズハに倣って、ミユとホノカも寝転がる。
戦っている時は気づかなかったが、街外れのこの森は暑すぎず寒すぎずの温度設定で、木々の間から差し込んでくる昼間の陽光が気持ちいい。
「マイナスイオンだねぇ」
「いやさすがに無いでしょ……」
そうツッコんだミユも、マイナスイオンとは言わないまでも、仮想世界とは思えない心地よさを感じていた。
「ほら、フィリアちゃんとセイヤ君も」
「わかった」
「お、おう……」
五人で輪になるように寝転がる。芝生も人工的に作られたもののはずなのに、まるでずっとそこにあったかのような自然の感触だった。
しばらく静かな時間が続き、唐突にフィリアが呟いた。
「……ごめん」
五秒くらい経過してから、それが自分に向けられた言葉なのだとセイヤが気づいた。
「いや、俺の方こそ。勝手に突っ込んで悪かった」
「私のこの武器、ちょっと特別なものなの」
セイヤは規格外職業のことを知らないし、もちろんそのプレイヤーたちが唯一無二の武器を扱っていることも知らない。
ーーいきなり理解するのは大変かもしれないけど……。
フィリアはセイヤに対して、この世界についての説明をしてみることにした。




