Act108-奇策
「行くよ、ユズハ!」
「うん!」
そんな掛け声を交わしながら駆けていく二人の少女を、セイヤは何とも言えない気持ちで見つめていた。
正直、ユズハという少女が前衛にいるより、自分が入った方がまだマシだと思っていた。何せ彼女は”魔法使い”であり、近距離では杖をぶん回すことしかできないのだから。
対して、遠距離武器をぶん回すという点ではセイヤも大して変わらないが、短銃ならば牽制しながら近づくことも可能だっただろう。
「はぁ……」
だからこそ、自分が作戦から外された意味がわからなかった。
”先に決めていた”というわけのわからない理由で短銃を破壊したフィリアとかいうやつは、一体何のつもりなんだ。
なんてことを考えているうちに、目の前では前衛二人がちょうど香澄と交錯しそうな距離まで差し掛かっていた。
いざこざの間に、最初に飛ばされた一本目の短剣を拾いに行っていた香澄とのコンタクトは、ほぼさっきと同じ。
しかし、今度はフィリアの狙撃が短剣にクリーンヒットし、滞りなく武器破壊が完了する。
そのままミユとユズハが武器で押さえ込む形で動きを封じ、予定されていた作戦が寸分の狂いなく進んでいく。
ーー俺と、何が違うんだ?
違いがあるとすれば、二人が足並みを揃えて攻めていたところくらいだ。確かに俺のように一人で先行する者がいれば、後衛の狙いが狂ってもおかしくはない。
けどそんなものは普通、後衛が合わせて援護するもんじゃないのか。
「後衛に合わせる前衛なんて……聞いたことないぞ」
「何やってるの、早くソウタを連れて来て」
ーーったく。俺とは一緒に戦いたくないんじゃなかったのかよ。
状況が刻々と移り変わる戦場を見ていたはずのフィリアの視線が、いつの間にかこちらを向いていることに気づき、心中で毒づく。
これじゃ作戦から外されたというより、ただユズハと持ち場が入れ替わっただけじゃないか。
「よっ……と」
仮想世界だからなのかはわからないが、現実よりも軽くなった兄に肩を貸すようにして、香澄の元へと向かう。
ーーこれで、何かが変わるのか?
セイヤは、この世界での兄を知らない。
今日までの半年間、どんな生活をしてきたのかはもちろん、四人の少女との関係も全くわからない。
「蒼汰兄……元に戻ったら、また俺の名前を呼んでくれるかな……」
うっすらと出た言葉は、すぐ隣にいる兄にしか聞こえないような小さな声。
耳では受け取っていても、それが兄の心の中まで届いているかどうかは、また別問題だが。
「……なんてな」
独り言のように否定し、まだ態度で抵抗を見せる香澄のところへ到着する。
「ほら香澄、蒼汰兄だぞ」
「う……うぅ……」
ーーダメか。
そう落胆しかけた瞬間、セイヤの肩を伝ってソウタの方がピクリと反応を示す。
「か……すみ……」
触れ合う体温が徐々に戻ってくるのがわかる。
「香澄、誠也……」
はっきりと聞こえる。兄の声が。
掠れた呟きなんかじゃない。確かな音を持った言葉だった。
「ソウちゃん!」
「ソウタ君!」
一足遅れて気づいたミユとユズハが、兄に抱きつきそうな勢いで駆け寄ってくる。ホノカもそれに連られて嬉しそうに近づいてくる。
「おっ……とと、皆揃ってどうしたんだよ」
「どうしたんだよ、じゃないよ!」
怒っているのか泣いているのかわからないユズハに対して「悪い」とだけ謝った後、キョロキョロと辺りを見回す。
「状況が見えないんだが……あと、なんでここに香澄と誠也がいるんだ?」
一度会ったことは忘れたのだろうか、という感情を抱いたのは、この場ではミユだけだった。
「説明したいとこだけど、ちょっとまだ無理かな」
代わりに、あれ見て、と指を差す。
その先には武器を失ってもなお、明らかな敵意を宿した瞳で見つめ返してくる香澄の姿。
「よし。大体わかった。俺に任せろ」
「いや絶対わかってないでしょ……」
「ちょっと待っててくれ」
言いながら端末でアイテムストレージを物色し、ギルドメンバーが知る限り一番高レアリティの長剣を取り出す。
前にボスドロップで手に入れたものだが、誰も扱い手がおらず、どこかに売ることすら考えていた代物。
「ソウちゃん、まさか……」
鞘に入れたままの長剣を、真っ直ぐ香澄に向かって放り投げる。片手で受け取った香澄は、まじまじとそれを見つめていた。
「ソウちゃん、”鬼に金棒”って知ってる?」
「香澄は鬼じゃないぞ」
「いやそういうわけじゃなくてさ……」
まさかソウタは、香澄が狂化していることを知らないのではないか。
皆の不安をよそに、ソウタは自分の「シルバリック・ブレイド」を取り出すと、笑顔で宣戦布告をした。
「香澄、久しぶりにやらないか?」
「……」
「よし、こっちだ! ついて来い!」
そう言って、全力ダッシュで森の中へと消えていく。今まで戦っていた四人には目もくれず、新たな武器を得た香澄も言われるがままついて行ってしまった。
唖然とする一同の中で、セイヤだけが安堵していた。
ーーいつもの、如月家の光景だ……。




