Act107-みんなと……
「このっ……!」
フィリアの狙撃が今度こそカスミの短剣に命中し、間一髪のところで武器破壊に成功する。
攻撃手段を失ったカスミは一度大きく飛び退き、瀕死状態のミユとユズハから距離を取った。
「今のうちに……」
自分も危険なはずなのに、ユズハはまずミユに対して回復アイテムを使用した。
それに対して、気が気でなかったのはミユだった。
「ユズハも早く!」
「わかったわかった、落ち着いて」
下手したらゲームオーバー、そのまま消滅。それなのにユズハは何故か落ち着いている。
さっきもそうだ。
ソウタを連れていくために自らの装備を外し、防御力ゼロの状態で森の出口を目指していた。
ミユは自分たちの状況も忘れ、つい問いかける。
「ねぇ、ユズハは死ぬのが怖くないの?」
突然どうしたの、とでも言いたげな表情で見返してくる。そしてすぐにいつもの笑顔に変わり、呟いた。
「ん、怖いっちゃ怖いかもね……。でも、私の命はみんながいてこそのものだから」
一瞬、その言葉に秘められた意図を読めなかった。
「どういうこと?」
「えとね、ギルドメンバーの”個”の力だけで考えたら、多分私は一番弱いと思うんだ。でも、今日まで色んな強敵と戦えたのは、みんながいたからなんだよ」
それならば、ミユも同じだった。
錬金術師という、普通ならば非戦闘要員である自分が前衛として戦線に立てるのは、このギルドがあったからだ。
「だったら私も……」
「そうかもね。きっとこのギルドの中で、一人で戦えるのはソウタ君くらいなんだよ。私はみんながいなかったら、どっちにしろこの世界じゃ生き残れない」
だからね、と間を置いて続ける。
「私の命はみんなの命……って、そう思えるんだ」
その言葉を聞いて、ようやくユズハが今までしてきた行動の意味がわかった気がした。
”他人第一”。そんな考えをできる人はなかなかいない。法律で身の安全が守られている現実世界ならなおのことだ。
でもこの世界には秩序がない。プレイヤーキラーだってごろごろいるし、それを裁く人間もいない。
だからこそ、彼女は自分を助けてくれる仲間を命がけで助けるという、”助け合いの精神”を今日まで持ってこられたのだろう。
「……すごいよ」
ユズハはこの世界で、現実では絶対に見つけることができない信念を身につけることができた。
もしそれを現実世界に持ち帰ることができたなら、この「パラレルコネクト・オンライン」の実験も、デメリットばかりではなかったと言えるのではないか。
「ほら、まだ戦いは終わってないよ。頑張ろっ!」
「そう……だね」
カスミから発せられる仮想の殺気に晒されながらも、ユズハに肩を貸してもらいながら一時的に後退する。
しかしーー。
「私たちだけでやる。危ない」
「誰のせいだと思ってんだよ!」
戦闘中だということを忘れ、フィリアとセイヤが喧嘩を勃発させていた。
「ちょっと、二人ともどうしたの?」
「ミユ、やっぱりこの人は作戦に参加させるべきじゃない」
「人の武器ぶっ壊しといて何だよ!」
どうやらさっきの不測の事態について言い争っているらしい。
「あなたが予想外の動きをするから。こっちは先に決めてるんだから困る」
フィリアの固有武器である「TLLD」は、闘技場でソウタと戦った時のような近接戦闘用の”速射モード”の他に、もう一つの使い方がある。
例えば今回のような後衛に徹する作戦の時は、予め攻撃座標と時刻を入力しておく”照準モード”を使用することで、発射の際にイメージ力を必要としなくなるらしい。
もしフィリアの身に不測の事態が起こっても、入力した分だけはしっかりと発射してくれる反面、一度照準してしまうとキャンセルできないというデメリットもある。
「先に……って、どういうことだよ!」
もちろん、それを今セイヤに説明している時間はないが。
「とにかく、あなたとは一緒に戦えない。大人しく離れて見てて」
「くそっ……」
なおも納得がいかない様子だったが、武器が無い状態では何もできないことをわかっていたようで、大人しくソウタのいる最後方まで下がっていった。
「みんなも、持ち場に戻って」
「私も前衛に行くよ」
「了解。気をつけてね」
セイヤが前衛から外れたことにより、ミユだけでカスミの動きを捉えるのは困難だという判断からだろう。
フィリアとしても、近接攻撃手段のないユズハを前に置くのは不安だったが、現時点での最善手だと割り切っていた。
ーーそれぞれの持ち場が変わった戦場、そのセカンドフェイズが始まった。




