Act106-崩壊
ーーまず俺が先行する。
彼は目だけでそう訴えていた。
特にどちらが先、後を決めている作戦ではなかったが、セイヤの気持ちは訳もなく先走っていた。
立案したミユとしては、二人同時に動いた方が相手をかく乱できるし、何かあった時にも対処しやすいと思っていた。
でも、セイヤがそうしたいのであれば止めるほどの問題でもなかった。
短銃を構えたセイヤに追随するように、ミユも走り出す。
それに気づいたカスミは、慌てて短剣を構え直す。相変わらず二本目を拾いに行く余裕は無いのだろうか。
そして、先陣のセイヤがカスミの短剣と交錯する間際。
フィリアの狙撃が音もなく武器に直撃し、武器破壊を引き起こす。
そのままセイヤの短銃がカスミを捉える。
「あれ……?」
ーーことはなかった。
武器を撃ち抜かれたのはセイヤの方だったのだ。
「危ないっ!」
予定していた交錯プレーが真逆の展開になり、至近距離でセイヤが危機に陥る。
ミユは咄嗟の判断で走る速度を上げ、今まさに振り下ろさんとされている短剣を持つカスミの懐へと飛び込む。
同時に、防御体勢を取ることも叶わなかったセイヤにタックルする形になり、どうにか短剣の射程外に出すことに成功する。
ーーHP、残る……かな。
相手のレベルもわからない。補填被験者なわけだし、それなりの初期ステータスを与えられているのは間違いない。
その上、彼女は誰かに操られている(かもしれない)という不確定要素がある。
それらの相乗効果によっては即死もありえるのだ。
「ミユちゃんっ!」
ユズハの声をかき消すように、ゲームにしてはリアルな斬撃音がミユの耳に届く。
「あっ……!」
漏れ出した声は、言葉にならなかった。
そのまま数メートル吹き飛ばされ、恐ろしい速度でHPが減少していく。
ーーギリギリ、止まった。
だが数値にして一桁しか残らなかったHPは、道ばたの石ころをぶつけられただけでもゼロに変わってしまうだろう。
ーー逃げなきゃ。
そんなミユの意思に反して、四肢は動こうとしない。
恐怖? いや、精神的なものではない。時折、薄い電撃エフェクトが瞬いている。これはーー。
「スタン……属性?」
前に一度だけ、ダンジョンで受けたことがある。しかし、その時はすぐにソウタが敵の注意を引き、その間にユズハが回復アイテムを持ってきてくれた。
けど今は、ミユを除いて前衛をできる仲間はいない。
「ミユちゃん、待ってて!」
ユズハが回復アイテムを手に駆け寄るーーが。
誰も敵の注意を引けていない。このまま悠長に回復させてくれる敵などいるはずもなかった。
そこから導き出される、現時点でカスミのヘイトを集めているプレイヤーは、紛れもなくユズハだった。
「来ちゃダメッ!」
「えっ……?」
ユズハはまだ、この世界のヘイトシステムを理解できていない。
普通のゲームだと、「一番高い攻撃力を持つプレイヤー」が真っ先に狙われる。
だがこの世界の敵が狙うのは、決まって「現時点での戦況において、一番有効な動きをするプレイヤー」だと言われている。
カスミという少女が何者かに操られている”CPU”となっているのを前提として考えれば、戦線で唯一前衛をできる一人が欠けそうな今の状況で、それを回復することができるアイテムを見せたユズハが狙われるのは必然。
予想の答え合わせは、正解という形ですぐに現れた。
「いやっ……」
振り下ろされた短剣が、咄嗟に取り出した杖にクリーンヒットし、ガキッという鈍い音が響く。
しかし、凌げたのは一度きりだった。
一撃必殺から連撃に切り替えた短剣を、重たい杖では上手く処理できず、少しずつ、確かにユズハのHPが減少していくのが見える。
ーーたった一度のミスが、ゲームオーバーに繋がる。
フィリアの言葉が、ミユの胸に突き刺さった。




