Act104-言葉
二人の戦いは互角だった。
いや、ミユによって互角にされていた。
香澄の動きに狂化の補正がかかっているとはいえ、彼女の真っ直ぐな剣筋を捉えるのはミユでも容易いことだ。
決して反撃はせず、短剣を受け止めることだけに専念する。
「……」
ミユはまだ、躊躇っていた。
自分やその周りの危機に対して迷いなく敵意を持てるフィリアや、守りたい人のためなら自らの危機をも厭わないユズハのように、ミユは強くなれなかった。
ギルドのメンバーはもちろん、ソウタの家族だって守りたい。絶対に誰も失いたくない。
ーーそれが、ソウタの心を傷つけてしまった私の、せめてもの償いだった。
とはいえその最善手を見い出せない今の彼女ができることは、皮肉にもソウタの妹と互いの武器を打ち合わせることだけだった。
「……どうすれば」
カスミという少女を殺さずに正気に戻す方法。それがわかれば、誰も死なずに帰ることができる。
なんて考えている間にも、絶え間なく短剣と片手斧が火花を散らし続ける。
その時だったーー。
「ミユちゃん、ちょっと来て!」
ずっとソウタについていたユズハが、突然声を上げる。
わずかな期待とともにカスミの短剣に対して思いっきり斧をぶつけ、互いに大きく後ろに飛び退く。
「どうしたの!?」
今は反動で痺れた手をさすっているが、いつまた突進してくるかわからない。意識はあくまでカスミに向けたまま、聴覚だけをユズハの声に集中させる。
「今……ソウタ君が……しゃべった」
「えぇ!? なんて!?」
上ずった声で聞き返す。きっと、皆も耳を傾けていることだろう。
周りの期待を一身に受け、ユズハが自信なさげに呟く。
「よく聞こえなかったけど、多分”カスミ”……って」
ソウタが呟いてもおかしくはない言葉。ユズハの言い方からして真意は不明だが、どうやら何か言葉を発したことは事実らしい。
「カスミ……って、あの子だよね?」
「そうだね。もしかしたら……ソウちゃんが元に戻るかも」
ある作戦を思いついた私は、皆にそれを説明し始めた。




