Act100-仮想の温もり
「よし……っと、立てる? ソウタ君」
相変わらず返事は無いが、何かに突っつかれたようにピクリと反応してゆっくり立ち上がった。
その立ち姿からは、いつもの「銃剣士ソウタ」の面影は窺えず、皆の目に映ったのはただの無気力な少年。
光を失った瞳は、彼の両目に映る仮想の太陽と相対している、そんな印象をユズハは受けた。
ーーでも、まずはみんなで帰らなきゃ。
覚悟を決めて、ソウタの手を取る。
「ほら、肩貸すから。とりあえずホテルまで頑張って帰ろうよ」
軸が定まらずふらふらとよろけるソウタを、服以外の装備を外したユズハが支える。
「……危なくない?」
そんな突然の行動に、真っ先に異を唱えたのはフィリアだ。
「危なくないよ。こうしてゆっくり歩けば」
「それもそうだけど、私の心配はそっちじゃない」
先ほどのやり取りを思い出した私は、そこでようやく得心した。
この森の中では、攻撃ダメージが通る。
いわば地上のダンジョンとも言えるべき場所。
妖術士という、魔術師に近いものがある私の職業に、そもそも大した守備力なんてない。だが、唯一残された装備までもを外してしまったことが、フィリアにとっては心配だったのだろう。
ーー襲われれば即死。
防御力ゼロの今の私は、きっとスライムにだって殺されてしまうだろう。……いるのかわからないけど。
しかもソウタがいる以上、走って逃げることもできない。
だけどーー。
「大丈夫だよ。それにいざとなったら、私より二人の方が戦えるじゃん」
努めて明るい声を出し、それっぽい理由を付けてみたものの、やはり二人の表情は晴れない。
「ねぇ、やっぱり装備は着けたままでいいんじゃないの?」
「そうだよ、どのみち私たち二人だけじゃ強敵と戦うのは難しいし」
フィリア、ミユからの反論に、軽い苛立ちを覚える。
どうして二人はわからないのだろうか。
今のソウタに必要なのは、人の温もりなんだ、って。
ここは仮想世界。どうせ私たちだってただのデータに過ぎない。
でも、そんな場所だからこそ、伝えられるものがあるんじゃないか。
私は何度も、彼に助けられてきた。初めてあった時から今日まで、ずっと。
彼と共にいなければ、この命だってもう失われていたかもしれないのだから。
だから今度は、私の番なんだ。
「わかった……もう、いいよ」
そう。私がおかしいんだ。二人がわかってくれないんじゃない。私がわからず屋だったんだ。
なんと言われようと構わない。
ーー私が何とかしなきゃ。
歩き出した私の後ろから、渋々といった感じで三人がついて来る。きっとホノカは状況をわかっていないだろうけど。
そんな微妙な雰囲気のまま、私たちは森の出口を目指した。




