Act0-パラレルワールド
――灼熱の火柱が、見慣れた街を焼いていく。
時折、四方の建物が己の荷重に耐えきれず倒壊し、耳障りな騒音をまき散らす。
だがそれらは現実世界のように粉々になって破片を飛ばしたりはせず、赤いポリゴン片となって消失する。
「熱い……」
白銀の上下装備。両手にそれぞれ握る銃剣。俺――ソウタは、この焦土で一体のモンスターと対峙していた。
名を『エリュシオン・ドラゴン』。
無数の黒い鱗に覆われた体躯から、燃えるように赤い双眸だけが爛々と輝いている。その頭上にはレベル85という表記と五本にも連なるHPバーを持ち、この街の惨状を作り出した張本人でもある。
この数時間の死闘により、やつに残されたHPバーは残り一本。
「……もう、あと少し」
すぅ、と息を吸い、両手の銃剣に力を込める。中心に通っている赤いラインが発光を始め、”アーツ”の起動状態に入る。
対するエリュシオン・ドラゴンも巨大な双翼を羽ばたかせ、大きく息を吸い込む。それが火炎ブレスの予備モーションであることは、既にこの戦いの中で理解している。
「グォォォォォ!」
「ハァッ!」
刹那の間の後、同時に動き出す。
俺は銃剣による突進攻撃を、相手は火炎ブレスによる範囲攻撃を互いに繰り出し――交錯。
視界が真っ赤に染まり、”炎上”のデバフとともに全身に伝わる熱さに歯噛みする。
――耐えろ、耐えろ!
視界の端に映る自身のHPがみるみる減っていく。何の威力減衰もされていないブレスに突っ込むなんて、本来なら自殺行為だ。
だが、この世界はレベルが全て。
それを裏付けるかのように、俺のHPが完全に消失する前にブレスは止み、ドラゴンは数秒の技後硬直に襲われる。
赤い双眸が、わずかに驚きの色を湛えた気がした。
――よし!
「いっ……けぇぇぇぇ!!」
気合いの掛け声とともに、ドラゴンの頭部に勢いが減衰されることのなかった突進攻撃がヒットする。
残り少なかったドラゴンのHPバーは一瞬で消し飛び、頭部から尻尾までがぐらりと歪み、建物よりも多くのポリゴン片を撒き散らしながら四散した。
そのまま離れた焦土へと完璧に着地し、同時に耳元にレベルアップを告げるファンファーレが鳴り響く。
”107”に変化した自身のレベルを端末で確認してから、改めて辺りを見回す。
「……知らねぇぞ、俺は」
いくら仮想世界の郊外とはいえ、ここを拠点にしているプレイヤーだって存在する。ここまで荒らしてしまっては、もはや謝罪すら聞く耳を持ってくれないだろう。
誰かに見つかる前に帰ろうと思い、敏捷ステータスを最大限に活かしてその場から姿を消した。
俺はその間、過去へと思いを馳せていた――。
こんにちはyuto*です。この作品はこんな感じで進めていきたいと思います。一つ注意点として、基本は漢数字を使用していますが、キャラ、もしくはモンスターのレベル等、漢数字だと少し見にくいものについては算用数字を併用しております。これで少しでも読みやすくなっていれば幸いです……!