雪の降る街
忘れて思い出すのは、寂しいことだ。
重なっていく今の途切れで、君は静かに消えていった。
君のいない世界を忘れてしまっていた僕は、君がいた世界も忘れてしまった。結局、僕の心臓が止まる理由にはならなかった。君の価値をそんなことでしか計れなくて、ごめんなさい。
僕達は白い雪が降る日を、待ち望んでいた。
人が作った景色を全て台無しにする理不尽さを、歪ながら愛してしまった。
静かに降り積もる夜は、切なかった。音がしないだけで、僕らの生活は安全になる。誰にも殺されない世界で生きたかった。
電話の呼び出し音が、鼓膜を破ってくれたらいいのに。
五感はきっと、愛する人を見つけるために使う機能。それなのに人はそのせいで今日も泣いている。正しい使い方なんて分からない。ただこの体の機能ですら、全てを知らないから、命は与えられたものであることを知れた。
君のことを愛していたよ。
君がいない世界の過ごし方を忘れてしまうくらい。
君のことが大切だったよ。
自分のことを大切にしないといけなくなるくらい。
温かいことが、優しさだとは感じたくないよ。
人間の体の大事な部分が、一つしかない理由を探したい。未完成で、誰かと出会うことでしか完成しないような、そんな弱い生物であってほしい。
一人でいるときくらいは、弱いことを認めてもらいたいから。
人は弱いよ。弱くてちっぽけですぐ死んでしまう。
みんなが辛いことを我慢している世界は、悲しいよ。
弱くてよかったんだよ。強さなんて君には似合わない。
ほら、また今年も雪が降るよ。
君のいなくなった街に静かに積もるよ。
明日の朝だけは、また世界が台無しになればいいのにね。