鉄と鋏
死ぬときだけに差し伸べられる手に心底うんざりしている。
「死なないで」と言った消耗品の言葉は僕の中には残ってくれないから。君は生きて今日も何かを見つめている。生き急ぐあまりに、同じことが繰り返される毎日を嫌っていた。それでも君は生きている。
鋏で切っていく。体の細胞。さようなら。
僕を12等分にわけてお留守番してみたら、帰った君は僕のどこを抱きしめてくれるの?
認識なんかしなくていい。君を支えることが出来るただの概念になりたかった。君には家族が出来て、誰かと同じお墓に入るの。どこまでが願いかなんて分からないけど、笑っているからって元気だと思わないでほしい。君にはそういう優しさを持っていてほしい。
人間関係なんていらなかった。嬉しいも悲しいも、植物と共に育てられるから。言葉は僕を決めつけていく。ただ、日々の通りすぎていく雲に見下されて、別世界の住人の記憶にも残らない存在だったら、少しは生きやすかったかもしれないね。
小指に巻き付けられた糸を鋏で切り落としたい。繋がっていたはずの君の糸は虚しく爛れて地面を引きづるのでしょう。君の瞳が捉える愛が、僕以外の誰かだったらいいのに。
君を道連れにはしたくないよ。