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心室



渡した愛が返ってきた

もういらなくなったらしい

あれだけ好きだった僕の脳は

もうすっかり心臓の動かし方を忘れていた

嘘つきだな 僕は僕に嘘ばかりつく


今を幸せにしたら過去も幸せになるだろう


ただ使い古して小慣れた愛し方に

たくさんの人の影を見た

表情はもう見えなくなっていた

僕が怖くて見れないだけだった



たくさんの人がすれ違っていくよ

僕の名前はこの世界から消えていく

生きているよりも早く消えていけば

死ぬときは一人ぼっちだ

そうすればどんな死に方でも



不安しかないよ 

散歩をしながらピアノを弾きたい

夏のメロディが揺れている


脳だけ移植したらそれは誰だろう

あの子と同じ体の構造をしている


僕は僕がこんなにも愛しい

それなのに期待に応えてくれないから

僕は僕が嫌いだ

嫌いな僕が好きなもの全部嫌いだ

だからこの世界は僕を独りにする



雪解けの小さなてんとう虫

売り物にならない朽ちた林檎

不安の中で眠るあの子を想像する

空気はいつでも僕の後ろに回って

首元を優しく抱きしめている


去年の悩みは消息不明

本当は今年の悩みが殺していただけ

いつも心は殺人現場

誰も見つけ出してはくれない

血溜まりの床下浸水



嘔吐物の存在意義を教えてください

この体もいつか焼かれるのだと考えると

生きていることが不思議に思えたのです


あの子と同じ体の構造をしている

僕の好きなものを僕は大切にしている

そんな僕を羨ましいと僕は思った



ただ使い古した愛され方を思い出す時

僕はあまりにも温かい気持ちになる


声の出し方を忘れても

それだけは覚えていて


過去に与えられた幸福だけが

僕を苦しめ僕を愛している


僕を生かしている







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