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幸福の引換券



知らない君が持っていた 幸福の引換券

どこで手に入れたの そんな悲しいもの

目が死んでいる 訊けるわけがなかった

引換券はグシャグシャに潰されて

ところどころインクが滲んでいる



美しいほどの自暴自棄の所作で

名前も知らない僕に 丸めてよこした

「どうせもう死ぬから 代わりに使って」

僕も死ぬつもりだよ なんてのは言えなかったから

ありがとうって 作り笑いをしたんだ



絶望は世界の色を変える

幸福は広がっていく

僕らの脳は単純だ

きっと扱いやすいように

どっかの誰かが設計したんだろう



不幸は教えてくれた

元々自分は幸せだったと

でもいつか必ず枯れるから

代わりに種を残すのだと


「忘れないで 一番最初に 出会えた日を」



何が引き換わったんだろう

何を奪われたんだろう

君が抱えている不幸の正体は

きっと君にとって

この世界で一番の幸福だったんでしょう



そんな大切な引換券 使えるわけがない

迷っていると 君は待ちかねて 奪い取って

さっさと 引き換えてしまった


僕と出会えたことを

幸せと名付けてくれた


困ったな 死ねなくなった



僕の手の中には 不幸が残してくれた種があった

君のものだけど 渡す気にはなれなかったから

ポケットにしまった バレないように


生きていると引換券と種が手に入る

不幸になった分 僕らは幸せになれるんだ

「淋しいね 君がいるからだよ」

「誰もいなかったら 淋しくないよ」



ポケットが不幸の種で一杯になった

気付けば君も似たようなものだった

お互いにお互いの種を預かっていた



引換券のおかげで僕たちは

騙し騙されつつ満たされ続けていく

失った悲しみは いつも同じことしか言わない


「忘れないで 一番最初に 出会えた日を」



不幸は元々幸せだったよ

でもね いつか さよならするから

いつのまにか僕のポケットには穴が空いていて

荒れ果てた地面に種が散らばっていた


驚いて動揺した僕を見て

君は呆れて そして笑った

君がちゃんと笑った顔を 初めて見た



「いつかここに たくさんの花が咲けばいいね」

キラキラひかる不幸の種を 君はばらまいた



どうか僕らが生きた世界に

幸せの花が咲きますように



たくさんの幸せを繋いでくれた不幸が

また幸せとして花が咲きますように


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