表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/136

透明なペトリコール


「ねぇどうか 君が死んだときは

 僕の心臓を移植させてほしい」


一生のお願いを前にして

嫌だよと君は言ってのけて笑った

でも僕は真面目にそんなことを考えたのです


同じ体で同じ心で生まれたら

こんな不安もこの世界にはなかったのでしょう


君の生を実感するたびに 君の死体が脳裏をよぎる

献花で埋もれる君の寝顔は 健やかで美しいから


その場で僕は最期のキスをするでしょう


出会うために生まれてきたのに

いつか離れてしまうなんて

なんて不完全な生き物なんだろうね



君より先に死んでもいいかい? と訊ねると

困った顔で 「あなたが先に死んでしまったら

私のお墓参りに来てくれる人がいなくなっちゃうよ」と言う

僕の返事も待たずに

「そうなったら、ちょっと淋しいなぁ」と君は続けた



ずるいよ



「ねぇどうか あなたが死んだときは

 私の心臓を移植させてね」

嫌だねと僕が拒むと

その方がいいよと安堵してみせた


「私の心臓があなたの中に入ったりなんかしたら

 嬉しくてずっとドキドキしてしまうから

 きっとすぐに死んでしまうよ」


そんな死に方なら僕は大歓迎だったのに


「私が消えても 死んだらダメだよ」

全部見透かされていて笑ってしまった

やっぱり君はずるいよ


白いカーテンが揺れている

遠くのテレビの情報は

もう必要のないものだ


消毒液のかおりが

君にだけよく懐いていた




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ