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君の世界
幽かなアパートの
ベランダに射し込む空は
キラキラと生命に満ちている
高まったエネルギーが集まって
強い質量を保っていた
幾つもの帰り道で
貴方の喜ぶ声が
透き通っていた
貴方がどれほどの気持ちで
私の隣に立っているのか
全てを理解できる日は
永遠にないのだと知る
冷たく細い爪先に
触れるたびに思うよ
二つに別れた心臓だから
知りたいという気持ちは
死ぬまで失くしては駄目だと
いつでも心は育っていて
明日も同じ感情をもって
少しだけ変わっていくから
たまに見失うことがある
それでも諦めずに
この心に灯りを立てて
必死に手を伸ばした
あの頃の貴方に触れるためではなく
今を生きている貴方を知るために
変わってしまった自分の姿に
絶望してしまうこともある
やり直しがきかない人生を
眺め続けることもある
何処か遠くで生きている
吐息が聞こえる距離にいる
同じ世界には違いないのに
これ程までに咲き誇るのは
どうしてだろう
脈打つ心臓に触れて思う
あぁ、きっともう
これだけでいい
これだけがいい
夏が終わっていく
仕舞い損ねた風鈴
乾涸びたプロペラ
藺草の匂い
甘く熟れた梨
健やかな寝息
君の世界




