社会の人
誰かの誕生日の終わりを見つめている。
あっちの国を照らしていた光が、僕らの元に戻ってきたとき、今日が終わって、知らない誰かに恋をする。
「あなたが大切だよ」
なんて、気が狂うほど聞かされてしまったら、勘違いしてしまうよね。
みんな、かけがえのないものだったら、希少価値なんて概念すら存在しなくて、君の価値も僕には分からないよ。
足元で列を作って、生活を営んでいる蟻と同じだったら、気持ちも随分楽だっただろう。
自分を誰よりも大切にするなんて、優しい君には死んでも出来ないのにね。強要されて可哀想。自惚れないでよ。
全人類の人間、一人につき一つずつ専用の募金箱が作られたとして、果たして金額は等しくなるのだろうか。
「命は平等です」と、握り拳を震わせて叫んだ人は、殺人犯のクリアケースに一万円を入れることが出来るのだろうか。
泣き叫ぶ我が子と同じ金額を、渡せるのかな。
太陽は一日をかけてこの世界を見つめるよ。
僕が太陽なら、きっと気が狂ってしまうと思うんだ。
誰かの発砲音が命を奪い、代わりにお金を生み出すなら、僕たちの命が大切な理由はよく分かる。
戦争は儲かる。
人を傷つけてもお金は稼げるんだよ。
大切な人からもらった優しさを、少しずつ削ってお金に替えた。
そうしたらご飯が食べられた。
屋根付きの部屋で眠ることが出来た。
大切な人を護ることが出来た。
でも、削り取った優しさは、もう取り戻せなかった。
優しい人のままで、死にたかったよ。
末永く君を笑顔にしたかったよ。
優しい人のままで、愛したかったよ。