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人とドラゴン

勢いで書いたので……誤字脱字等、ご指摘頂ければ幸いです。

そろそろラストです・

 出すべき声と言葉を失い、目の前の光景に釘付けになっている人々の視線を全身に受け、中心に立っていたレックスが一歩前へ出る。

  

 じり……

 

 尻で地面を擦るように後退したのは、腰を抜かしたらしいインテリ男。ずり落ちた眼鏡の位置を直すでもなく、彼らの行動を一切見逃すまいと、息を詰めて見守っている。……周りの連中も同じようだ。

 その中、さらに一歩を踏み出すレックス。

 自らを落ち着かせるように、深呼吸を繰り返すと、彼は意外すぎる程に良く通った声で、凛として語り出した。

「……ここは、彼らドラゴンたちの聖地です! 私が抱いているのは、今これからの時代を生きていく命です。……何ぴとたりとも、彼らの聖地を汚すことは許されない!」

 シナリオが用意されていたわけではない。レックスは自らの言葉で、目の前に居る数十、或いはそれ以上の人々に向かって朗々と宣言したのだ。

 これまで大地の砂を巻き上げ木々を揺らしていた風でさえ、レックスの言葉の前にナリを潜めているようだ。

「……こ、コハク主……?」

 小さく震える声が聞こえた。

「し、信じられん……本当に存在していたのか」

 呆然と、目の前のドラゴンに関する知識を思い出したかのように呟く声。その中心にいたのは、インテリ男。考古学……その中に分類されてしまっている太古の生物の伝承くらいは、彼の頭の中にも存在していたらしい。

「太古の昔、ここには雄大な流れがあったのは、ご存知でしょう。その大河の主が、ここにいるコハク様なのです!」

 レックスは、目の前の人々をしっかりと見据えたまま、片手でコハクを示す。そして続ける。

「あなた方は、コハク様の眠りを妨げた。……静かに眠りについていた彼らを意味もなく起こしたのです! それがどれほどの怒りか……お分かりになるでしょう……」

 そしてレックスは、抱いていた仔ドラゴンを愛おしそうに撫でてみせる。

「彼はこれからを生きる命です。この大地で! コハク様に護られ、偉大なるドラゴンへと成長するために。その大地を破壊することが、どれほどの罪になるか!」

 レックスの表情は真剣そのもの。自らが抱く小さな琥珀色の仔ドラゴンと、周囲の人間達を見下ろし、敵意を向ける老ドラゴン・コハクに最強のブラックドラゴン・ライア。

 彼らを従える位置にいるテフラとヘイズは無言だったが、落ち着き払い、やや冷たい雰囲気を纏った表情が彼らへの恐怖心を煽るには充分だった。

 レックスは、二体のドラゴンとヘイズ、テフラを振り返り、さらに続ける。

「彼らは、我々人間と、ドラゴン種族、そして精霊族との絆を結びし者たちです。彼らの強い思い、慈悲の心を以て、これ以上の破壊行動を止めることを約束するならば、こちらから危害を加えることはありません!」

 レックスの台本無き演説の効果は絶大だった。……彼の隠れた才能が開花した瞬間を目撃してしまったのかも知れない。

 徐々に、周囲の男達が立ち上がる。未だ恐怖に支配されてはいたが、レックスの言葉を信じたのだろう。

 最後に、インテリ男が立ち上がり、眼鏡と白衣を整え、

「こ、コハク主様! ブラックドラゴン様! そしてこれからを生きようとなさっている小さなドラゴン様! 我々の無礼を……無知と貪欲の罪を、どうか、お許し下さいっ!」


  がばあっ!


 音さえ立てて、インテリ男以下ウン十人の男達が一斉に土下座した。

 それには、黙って見ていたヘイズもテフラも少々面食らったようだが、顔には出さずに小声で呟く。

「……レックスって、結構すげぇのな」

『あれ、本当に教祖様みたいだよね』

 実際、彼には一種のカリスマがあるのかもしれない。

 真っ直ぐに届く言葉。そして、それを支え裏付けるドラゴン達とヘイズ達の存在。

 ……ここには、既に彼の言葉を疑う者は誰一人として存在していなかった。

 土下座する人々を高い位置から見下ろし、コハクがおもむろに言葉を紡いだ。これまで喋っていた時とは違い、口を動かさず、全員の頭に直接語りかけるように。

『人間よ。我らは静かに過ごしたいだけなのだ。分かってくれるな?』

 それだけで充分だった。

 土下座の姿勢から顔だけ上げると、人々は神々しくも美しい二頭のドラゴンと、不思議な雰囲気の青年達を交互に見比べ、またしても深々と頭を下げた。


 徐々に光に包まれていく二頭のドラゴンと、二人の青年。そして、レックスの腕に抱かれた仔ドラゴン。

 光に導かれるように、彼らの足は大地を離れ、再び眩い光がその場にいた者の視界を遮った。

 一瞬の後。

 ……彼らの姿はどこにもなかった。

 残されたのは、何も持たないレックスと、大地に平伏したままの人々だけ。

 一陣の風が、彼らの間を抜けて過ぎ去っていく。夢から覚めたように、一人、また一人と立ち上がるが、これまでのように発掘や破壊を続けようという者は誰一人としていなかった。

 それぞれに手にしていたスコップやらツルハシやらを抱え、現場を後にする。レックスは佇んだまま、それを眺めていた。

 一人呆然と取り残されているインテリ男の傍に、身なりの良い金髪の男がやって来ているのに気付いたのは、しばらくしてからだった。

 他の男達がすっかり現場から居なくなったのを見計らい、金髪の青年が声をかける。

「あなた、ヘイズさんの知り合いですか?」

「へ?」

 突然の質問に、レックスは今までと打って変わって(いや、元に戻って)間抜けな声で答えた。

「突然すみません、僕はクリス。以前へイズさんたちにはお世話になりましてね。ここは一応僕の領地なので、ここ数ヶ月の成果を視察にきたのですが……こんなことになってたんですね」

 クスクスと笑いながら、クリスは言う。

「彼ららしいですね……」

「あ、あのぅ……えっと……」

「ああ、これは失礼。先ほどの一連の出来事は見させてもらいましたよ。この土地を預かる領主代行として、この地を護るために協力させて下さい」

「へ? あ、あああっ? 領主様っ?」

 ……反応が遅い。気にせず、クリスは柔らかく微笑んでレックスに向き直る。

「今はまだ『代行』ですけどね」

 カリスマ性を一瞬だけ発揮したレックスとは対照的に、常に人を引きつけるカリスマを持ったクリス。クリスの人柄に引き込まれるように、レックスは彼にこれまでの経緯を説明する。クリスは始終穏やかな笑みを浮かべて聞いていたが、やがて連れ立って、領主の館がある町へと向かって歩き出した。


 連れ立って歩き出す二人を、斜め上空から眺めていたのは、言わずと知れたドラゴンと人間と精霊。

 演出上、光と共に何処かへと消える必要があったのだが、実際にはコハクの術で姿を隠していただけなのだ。

 その場に誰も居なくなったのを確認すると、彼らは乾いた大地へと降り立った。

 大きな溜め息をついたのはヘイズだ。人々に注目されるのがかなり苦手なのだ。未だに微妙な表情のまま、仔ドラゴンを抱いている。

 注目されることに慣れているコハクとライアは、姿だけ大きくなったテフラと遊んでいる。……結局の所、大きくなって役に立ったのはその容姿と翼くらいだろう。人ではない存在が、より神秘的な演出に役立った……と、言いたい。

「なあライア、変身解かなくていいのか?」

「……いいけど……洋服を再現するのって面倒くさいのよね……。私しばらくこのままコハクの所に行ってるから、悪いけどヘイズ、何か見繕って買ってきてくれないかしら?」

「へ? 俺が? 女物の服買うのかよ?」

「適当でいいってば。……センスを信じてるわよ?」

「……ぐ……最後の一言でハードル上がったような気がするな……」

 それでも逆らわず、素直に財布の中身を確認しはじめるヘイズ。

 いつの間にか元の姿に戻っていたテフラが、ヘイズのいつもの位置に陣取っている。やはり、ここが一番落ち着くらしい。

「あれ? お前元に戻ったのか」

『うん。力をコントロールするのも大変だからねっ』

「偉そうに……」

 実際に何かをした訳ではないのだが、テフラが青年の姿を保っている間、ヘイズの魔力が上がっていたのだ。そのせいで、ヘイズにはテフラの魔力の暴走が伝わってきてしまい、無意識のうちにそれを抑えることになっていたのだ。

 コハクが危惧したのは、レックスの説得が失敗した場合、発掘作業現場の人間達が暴徒になりかねないことだった。彼らに対する抑制措置として、彼らの精霊魔法を強化することを目的にしていたらしい。……思った以上にレックスが頑張ったので、出番はなかったのだ。

「そう言えば、ここってクリスの領地だったんだな」

「ついこの間会ったと思ってたのに、ここはもう三ヶ月も経ってるんだったわね」

 どこか感慨深げに、ライア。巨大なブラックドラゴンの姿のままなので、表情は良く読めないが。

『ふぅむ、ライアよ』

「何?」

『お主、このままワシの空間で共に暮らさぬか? 色々術も教えてやれるぞぃ?』

 コハクの勧誘。

「嫌よ」

 速攻で断るライア。

『ふぉふぉふぉ……言うと思うたわい。ヘイズよ』

「ん?」

『ライアを頼むぞ』

「ああ……取り敢えず……お気に召しそうな服を買ってくるわ」

 名を呼ばれ、少々驚きはしたものの、ヘイズは抱いていた仔ドラゴンをコハクに返す。

『僕も行くーっ!』

 コハクとライアが異空間へ姿を消すのを見送って、ヘイズとテフラは店を探しに出かけていった。 

 ……店を見つけるまでに何日かかるか……丘を下りてから気付く二人だった。

 穏やかな天気が続いている。


《 終わり 》


【追記】

 後にこの丘には巨大な神殿が建設された。祀られたのは琥珀色の老ドラゴンと仔ドラゴン、そして、悪名高きブラックドラゴン。何故か彼らの付き人として、人間であるヘイズと精霊のテフラも一緒に祀られているらしい。

 ドラゴン信教と名を掲げたその宗派は、カリスマ性の高い黒髪の青年が教祖につき、彼の解釈も多分に含んだ真実を語り継ぎ、信者を増やしているとかいないとか。


レックスがどうなったかとか、ヘイズたちは上手くライアさんの服を買えたのか、とか、もう少し詳しく書きたいので……多分エピローグ的なものがあると思われます。

ひとまず、ここまで読んで頂きましてありがとうございました!

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