未来のBF
小さい頃から、身体が弱くて恋をする勇気もできずにいた女の子が、初めて恋をするお話です。
是非、読んでみて下さい!
5月、新緑が眩しい季節ー。外では、小鳥達が楽しそうにさえずりあっている。
「花帆。気分はどう?学校には行けそう?」
まだ、布団に潜り込んでいるあたしに、お母さんが声をかけた。
「……今日は、調子いいから行くよ」
あたしは、布団から顔を出す。
あたし、岸谷花帆。小さい頃から喘息もちで身体が弱く、何回か学校でも発作を起こしているから、学校に行くのも臆病になっている。
2年生になってからも、休みがちになっていた。
「おはよう。花帆」
学校に行くと、友達の坂下芹が、ノートを持ってやって来た。
「おはよう。芹ちゃん!」
あたしは、元気に挨拶をした。
「はい!授業のノートとっておいたよ」
芹ちゃんが、ノートを差し出した。
「いつも、ありがとう」
ノートを受け取る。
「身体の方、大丈夫なの?」
「うん。今日は、調子がいいんだ~」
あたしは、ニッコリ微笑んだ。
芹ちゃんは、小学校から一緒で。いつも、あたしの身体を気づかってくれている。
「叶多先輩に、告白したんだ~」
「そうなの!?どうだった?」
「断られたー」
近くにいた子達の話し声に、芹ちゃんは吐息をついた。
「どうしたの。芹ちゃん?」
あたしは、キョトンとした顔をした。
「あの噂、本当だったんだ……」
「噂って?」
「花帆は、学校休みがちだから、知らないかぁ~。叶多先輩って、バスケ部のエースで人気あるんだけど、告白しても必ず断られるって噂があったんだよね……」
芹ちゃんは、バスケ部だからすぐ情報が入ってくるらしい。
「もしかして、芹ちゃん。その先輩のこと好きなの?」
恋をしたことのないあたしでも、芹ちゃんの様子を見てピーンときた。
「芹ちゃんは、告白しないの?」
「え!無理。みんな断られてるんだよー」
芹ちゃんが溜め息をついた。
いつも、思ったことを言える芹ちゃんでも、恋すると臆病になるんだぁー。 でも、芹ちゃんの表情は凄く輝いて見える。
あたしも、恋してみたいな~。
「ほら、花帆。1時間目、理科だから実験室だよ!」
私達は、急いで教室を出た。
「あ、ごめん。芹ちゃん!理科のノート教室に忘れて来たかも。先に行ってて」
実験室に行くのに、階段を上がって行こうとした時、ハッと気がついた。
「わかった」
芹ちゃんは、階段を上がって行った。
急いで教室に戻ると、ノートを持って実験室に向かった。
やばっ!1時間目、始まっちゃう!
息を切らせながら、急いでトントン階段を駆け上って行った。
「ゼエゼエ……」
それほど、階段を上がっていないのに、息が苦しい。
やばいなー。苦しい……。
お医者さんの話では段々、喘息も落ち着いてきて、良くなっている話だったけど、ちょっと無理しちゃったかな……。
あたしは、胸に手を当てながら何度も深呼吸するみたいにして苦しそうに、階段の途中で座り込んでしまった。
「君、大丈夫!?」
急に声をかけられて、あたしは、苦しそうに顔を上げたけど、自分のことが精一杯でおぼろげに相手の顔を見た。
そこには、20代前半くらいの男の人が立っていた。
「とりあえず、保健室に行こう。立てるかな?」
男の人は、あたしの肩を抱くと、そっと立たせた。
あたしは、男の人に支えられながら、保健室に歩いて行った。
「あら、神谷先生。どうしました?」
保健室の佳奈先生が、私達の方に近づいてきた。
「階段の所で、この子が倒れていて……」
「岸谷さん、大丈夫!?」
佳奈先生は、急いであたしを椅子に座らせた。
「俺、手伝います。吸入器具、ありますか?」
神谷先生と呼ばれた男の人は、佳奈先生に聞いた。
「ありますよー。ちょっと待ってて下さいね」
佳奈先生は、急いで持ってくると、神谷先生に渡した。
吸入してもらうと、やっと落ち着いてきた。
「良かった~」
佳奈先生は、あたしが心配と言うか、神谷先生に見とれながらホッとしている。
落ち着いて、神谷先生の顔をよく見てみると、顔は整っていて、眉はキリッとしたイケメンだ。
「ありがとうございます。この器具。よくありましたね」
神谷先生は、佳奈先生に器具を差し出した。
「この子が、前にも発作で倒れたことがあって、それでー。でも、先生がいて良かったわ~」
佳奈先生は、神谷先生から器具を受け取った。
神谷先生は、
「君はあとで、病院に行くようにね」
そう言って、保健室を出て行った。
「あ、神谷先生!途中までお供しますー。岸谷さん、まだ、ゆっくり寝てなさいね」
佳奈先生は、神谷先生を追いかけて行った。
佳奈先生ってば、イケメンに弱いんだからー。
でも、学校も休みがちだったから、あんな先生がいるなんて知らなかったな~。
次の日、あたしは学校を休んで、病院を受診した。
「岸谷花帆さ~ん!3番にお入り下さい」
待合室で待っていると、名前を呼ばれて3番の診察室に入るなり、担当医の石井先生が声をかけてくれた。
「花帆ちゃん。調子は、どうですか?」
おじさん先生だけど、いつも真剣に心配してくれている。
あたしは昨日、発作を起こしたことを説明する。
「そうかー。でも、確実に良くなっているから、学校も普通に生活しても問題ないし、軽い運動なら無理しない程度ならやっても大丈夫だからね。とりあえず、今日も吸入しておこうか?」
先生は、説明が終わると看護士さんに指示を出した。
「すみません、先生。今、手が離せない患者さんがいるので、神谷先生にお願いしてもいいですか?」
カーテン越しに、看護士さんは石井先生に言った。
「わかった。神谷君~。患者さんの吸入お願いしま~す」
石井先生が呼ぶと、見覚えのある顔があたしの前に現れた。
「……!!」
なんと昨日、助けてくれた神谷先生じゃないですか。
「花帆ちゃん。この人は、僕の助手の神谷由宇先生。まだ、研修医だけど、優秀だからわからないことがあったら、何でも聞いてね。僕が学会とかで忙しい時は、神谷先生が担当医になるから、よろしくね」
石井先生は、にこやかに紹介した。
学校の先生じゃなくて、医者の卵だったんだー。だから、あんなに手際がよかったのかぁ~。
納得しながら、神谷先生を見た。
「君は……!」
神谷先生も、驚いた顔で、あたしを見た。
「なんだ、知り合いだったのか?」
石井先生は、きょとんとした顔をさせた。
「昨日、田中先生の手伝いで健診に行った時……」
神谷先生は、昨日のことを説明した。
「なるほど。その時、花帆ちゃんとバッタリ会ってたのか~」
石井先生が、納得した顔で何度か頷いた。
そう言えば、昨日は3年生の健康診断の日だった。それで、神谷先生が学校に来てたのか……。
「じゃあ、奥で吸入するからついて来て」
神谷先生は、先に診察室を出て、奥の別室に移動した。
あたしは、後から着いて行った。
「本当、びっくりした。君が、石井先生の患者さんだったなんて」
器具を用意しながら、言った。
「あたしも、びっくりです。お医者さんだったなんて」
「まだ、研修医だしさ。お医者さんなんて言われると、恥ずかしいな~」
照れた顔で、あたしを見た。
「研修医だって、先生じゃないですか~」
「それはそうなんだけどね……。はい、準備できた」
神谷先生は、吸入器具を、あたしの前に置く。
「身体、楽にしててね」
神谷先生は、優しくあたしに言った。
まだ、会って2回目なのに、神谷先生の顔を見ると癒される感じだ。
「神谷先生、石井先生が呼んでるんですけど、終わりましたか~?」
何分か経って、吸入が終わった頃、最初に吸入を頼まれた看護士さんが入ってきた。
「はい。もう、終わりました」
「じゃあ、急いでお願いします」
看護士さんは、神谷先生の背中に手を触れた。
見た感じ、神谷先生に気があるみたい。
「わかりました。花帆ちゃん、またね。お大事に!」
神谷先生は、逃げるように出て行っってしまった。
あのルックスだもの、モテるんだろうなー。佳奈先生も、気がありそうな感じだったし。
次の日、朝起きてみると、なんだか気分が優れず学校を休んでしまった。
芹ちゃんからは、心配のメールが届いた。
ー花帆。具合どう?授業のノートは写して学校の帰りに持って行くね。
ー体調は、凄く悪いってほどでもないから大丈夫。ノートありがとう!待ってるね。
「送信っと……」
あたしは、携帯の送信ボタンを押した。
いつも心配してくれる、芹ちゃんには感謝しなくちゃ~。
学校が終わるとさっそく、芹ちゃんが来てくれた。
「花帆~。ノート持ってきたよ」
「ありがとう~。芹ちゃん」
ノートを受け取るとお礼を言った。
「この間は、ごめん!先に行かなければ、花帆だって発作が起きなかったかも知れないし」
「ううん、大丈夫……。丁度、お医者さんもいたし」
「聞いた聞いた~。3年生の先輩達が騒いでたけど、イケメンだったんだって?」
もう、噂になっているのか~。3年生の健診に来たって言ってたから、噂になるのも、当然だろうけどー。
あたしは昨日、病院に行って神谷先生に会ったことを話した。
「また、逢っちゃうなんて凄いじゃない!運命の出逢いかも」
芹ちゃんは、まるで自分のことのようにはしゃいでいる。
「運命ってー。そんな大げさなぁ~」
あたしは、苦笑いをした。
「ま、冗談はさておき。もう、帰らなきゃ!明日、学校で待って
るね」
「うん……」
返事をしたものの。本当は、学校に行ってまた、発作が起きたらどうしようって思ったら、臆病になっている自分がいて、学校に行けなかった。
結局、次の日も学校を休んでしまった。




