第七話
「何だこの大敗は!?」
海軍作戦部長のキング大将はそう絶叫していた。絶叫した理由はスプルーアンスの第五艦隊が大敗した報告を受けたからだ。
「ジークの改良型と新型戦闘機だと……ヘルキャットでは役不足だと言うのか!!」
キングはそう叫ぶが直ぐに艦隊の再建に乗り出した。だが数は揃ってもパイロットは中々揃わない。マリアナ沖で多数のパイロットを戦死している事もあった。それでもキングは何とかパイロットを揃えるのである。
一方、日本でも次の戦場はフィリピンと予想していた。
「アメリカにはマッカーサーがいる。奴がいる限りフィリピン攻略は絶対にするはずだ」
八月中旬、日吉に移動した聯合艦隊司令部で古賀はそう告げていた。
「海上護衛総隊はフィリピンに運ぶ輸送船団の数が増えるが、トラックルートが廃止になったから第二護衛隊も回す」
「フィリピンが取られると南方輸送は壊滅します」
「内地の備蓄はどうなっている?」
「南方輸送が封鎖されても全力で三年は戦えます。開戦前に護衛隊が創設されたので被害も被害らしい被害は少ないです」
「戦車第二師団を無事にフィリピンに届けたのも効いたな」
史実では輸送途中にやられた戦車第二師団であったが海上護衛総隊が確りと輸送した事により無事にフィリピンに到着していた。また、陸軍はフィリピンの重要性を鑑みて更に三個師団を増援部隊としてフィリピンに派遣した。
「それと……母艦飛行隊の再建はどうなっている?」
「……芳しくありません。米機動部隊を壊滅したのは良いですが、三割生き残ったのが奇跡な状況です。ですが戦闘機隊の損耗は其ほど激しくはありませんが……」
「……村田中佐や江草中佐が生き残っているだけでも御の字か。淵田、母艦飛行隊の再建はお前に任せる」
「分かりました」
開戦時に真珠湾を奇襲攻撃した淵田は古賀の航空参謀になっていた。
「ただ……次の戦に母艦隊の出番は無いかもな。戦闘機隊ならあるが……」
「戦闘機隊のみ……まさか長官……!?」
「そのまさかだ。空母乗りにしたら愚の骨頂の策だがな」
「……いえ、仕方ありません」
古賀の呟きにそう答える淵田。
「次は基地航空隊の出番だ」
「そのために塚原中将を第二航空艦隊司令長官に?」
「あいつは支那の時から基地航空のなん足るかを知っている人物だ。それに開戦時にフィリピンの航空部隊を叩いたのもあいつだ」
第二航空艦隊は史実と違い塚原中将が司令長官に就任していた。他にも第五航空艦隊までが八月に創設されている。それぞれの司令長官に三航艦寺岡中将、五航艦山田少将が就任している。
第二航空艦隊の戦力も戦闘機約三百機、爆撃機約二百機と五百機程度の戦力にまで戦力は上昇していた。
「吉良の第一航空艦隊を台湾に持って行きたいが難しいな」
「マリアナ諸島は放棄するんですか?」
「あの海戦で自分的に役目は終わっている。戦力の集中なら陸軍部隊も撤退させて沖縄やフィリピンに移動させるべきだがな。それと薩南諸島の航空基地建設はどうだ?」
「奄美大島と徳之島、種子島、沖永良部島を筆頭に建設中です」
古賀は沖縄戦に備えて薩南諸島の島々に航空基地の建設を急がせていた。古賀自身、フィリピンで終わってほしいという願いもあるがフィリピンで終わらないかもしれないと感じていた。
「山口、海軍内での終戦工作はどうなっている?」
「米内さんが中心となって沢本中将等が水面下で動いているようです」
(終戦工作をするのが良いが米内は怪しいな)
かつて米内は第二次上海事変の際にも陸軍派兵を主張して結果的に支那事変になっている。
(明後日の吉田さんとの会合の時に話す必要があるな)
そして会合日、古賀が吉田のところへ赴くとそこには米内がいた。
「やぁ古賀君。今日から私のところも吉田さんと合流する事になったよ」
「……そうでしたか(こいつ……)」
ちゃっかりいる米内に古賀は恐怖していた。そして後日、古賀は吉田と会った時に警告をした。
「米内とは終戦するまでの仲だ。それが終わったら手を切れ」
それが何か分からなかった吉田だったが戦後、米内の行動で早めに切っておけばよかったと後悔する。
(俺も万が一に備えて後任の人事だけは進めておくか)
古賀は歴史の修正力が働くのではと思っていた。映画では修正力が働いて未来から過去に飛んだ人物の末路は知っている。古賀はそれが気掛かりだった。そして古賀は後任の人事、これからの作戦、吉田宛に陸海の処遇、憲法の見直しの手紙を作成した。
「今日は長官は総隊のところか」
「今頃は天龍に乗って指揮をしているでしょう」
九月、古賀は護衛巡洋艦天龍に座乗して沖縄への輸送を指揮していた。海護総隊の司令長官も兼任している古賀だが兵達の士気向上を兼ねてたまに座乗している。参謀長の山口にとっては山本元帥の事例もあるのであまり出てほしくなかった。
「まぁ山口の意見も分かるがな。でも兵達のやる気がないと勝てる戦にも勝てん。ま、将来的に山口もGF司令長官になるかもしれないし予行しておけ」
古賀はそう笑って話し、山口に長官決裁の書類を渡したりする。その頃、古賀は天龍の艦橋にいた。
「沖縄も戦乱が近づいていますな」
「まぁ戦略上の位置だからな。仕方あるまい」
護衛隊は沖縄に増強の一個連隊を輸送していた。その帰りには内地に疎開する住民を載せて航行している。
『探信儀に反応あり!! 敵潜です!!』
「対潜戦闘用意!!」
対潜戦闘用意のベルが艦内に鳴り響いて乗員達が慌ただしく動き回る。
『敵潜は右舷二十度、距離四千、数は複数!!』
「爆雷準備」
「爆雷準備!!」
上空を警戒していた瑞雲が報告のあった海域に向かい腹に抱えていた爆雷を投下して追い立てる。二隻の海防艦が最大速度で海域に向かい同じく爆雷を投下する。
海中で爆発して水柱をあげていく中、一隻の潜水艦が浮上した。恐らくは故障して浮上したのだろう。
「魚雷発射!!」
天龍が即座に酸素魚雷を発射する。至近な事もあり敵潜水艦に命中して轟沈する。
『推進音多数接近!!』
「魚雷発見!! このままだと輸送船に直撃します!!」
見張り員が複数の気泡を視認した。五本が天龍付近を航行している輸送船に向かっていた。しかもその輸送船には沖縄から疎開する住民が多数乗っていた。
「機関最大!! 輸送船を守れ!!」
「古賀長官!?」
「俺に構うな!!」
「……機関最大!! 輸送船と魚雷の間に割り込め!!」
艦長は決断して天龍は増速、輸送船と魚雷の間に割り込んだ。
「総員退艦!! 長官も……」
「済まんな山口、後は任せた」
艦長は古賀に退艦を促したが古賀はそう呟いた。その直後、天龍の右舷に魚雷五本が命中した。命中直後に古賀は床に叩きつけられた。
(歴史の修正力は此処で働いたか……まぁ沖縄の住民を守れたし良しとするか)
記憶が薄れていくなか、古賀はそう思った。天龍の右舷はあっという間に吹き飛び、轟沈した。生存者は無しだった。つまり古賀は沖縄北方で戦死した。
「……長官が戦死した?」
山口は樋端からの報告に唖然とした。だが樋端の涙目を見て現実だと悟った。
「……私に死ぬなと言っておいて自分が死ぬなんて……狡いですよ長官」
山口はそう呟いたと樋端の回想録にそう記入した。古賀の戦死は直ぐに全軍に布告された。特に古賀の戦死の報を聞いた南雲は号泣したと言われる。
そして古賀の後任には何と南雲が親補された。山口が古賀の遺書を見つけて海軍省に働きかけたのだ。
そして十月二十日、マッカーサー元帥率いる米軍はレイテ島に上陸して日本は捷号作戦を発動。日米はフィリピンで激突した。
「……此処は……(病院?)」
「目を覚ましたか?」
古賀は気付くと病室にいた。隣には花の水を代えに来た看護師がいた。
「貴方は轢き逃げをされて一週間も意識不明だったんです」
「……そうですか(轢き逃げ? 俺はあの時、確かに轢き逃げされたけど死んだはずじゃあ……)」
古賀――青年はそう答えるのに精一杯だった。その後、青年の意識回復を聞いた青年の両親が涙を流しながら病室に駆け込んできたりした。青年は右足を骨折しながらも懸命なリハビリをして数ヵ月後には退院した。
「……未来に戻ってきたのか? それともあれは夢だったのかな?」
青年はそう呟き、近所の大型書店に立ち寄り大東亜戦争の本を探して立ち読みをするが、書かれていたのは青年が予想していたのと違っていた。
「マリアナ沖海戦で日本が勝っている……それにフィリピンでも……」
本は青年が古賀に憑依したあの世界と同じ事が記載されていた。マリアナ沖海戦は青年の記憶通りに勝ち、九月に古賀が輸送船を守り戦死した。
史実通りの十月二十日にマッカーサーの米軍はレイテ島に上陸。海軍は聯合艦隊を二つに分け、機動部隊を囮にし宇垣中将の第二艦隊をレイテ島に突入させオルデンドルフ少将の第七七任務部隊を全滅させ輸送船団と上陸部隊に壊滅的打撃を与えた。
しかし、小沢中将の第三艦隊は歴戦の赤城、翔鶴、龍驤を喪失。瑞鶴や飛龍や大鳳も損傷した。第二艦隊も扶桑と山城以下多数の艦艇を喪失したが作戦は成功した。
しかもレイテ島に送られた陸軍三個師団が戦車一個連隊が反撃に出た。戦車連隊は中隊長車は新型の四式中戦車に更新されそれ以外は三式中戦車だが米軍にその威力を発揮した。フィリピンに舞い戻ったマッカーサーだが海岸線に追いやられ飛来した陸軍航空隊の爆撃で戦死した。
これで米軍内に動揺が走った。結局米軍はレイテ島から引き上げた。これに吉田達は東條に和平を促した。吉田達は侍従長の藤田尚徳を通じて陛下の言葉を内々に東條に渡した。
忠犬の東條は憲兵隊を総動員して和平反対派を取り締まり、和平交渉に乗り出した。東條は合意後に「日本はギリギリのところだった」と語って内閣を総辞職して退陣した。そしてアメリカはこれに乗った。本来、ルーズベルトなら乗らないがルーズベルトは二度の敗戦で執務中に倒れ、副大統領のウォレスが大統領に就任した。
両国はハワイにて交渉を重ねに重ねて昭和二十年四月一日に和平で合意した。
日本は満州、台湾、朝鮮半島、南樺太、マリアナ、トラックの放棄して引き上げをした。アメリカもそれに合意して賠償金の請求を放棄した。太平洋に平穏が戻ったと思ったらドイツが降伏してから六月二十日にソ連が日本に宣戦を布告。
「日露戦争以来の領土を取り戻す」
書記長のスターリンはそう宣言をして引き上げを始めていた満州、南樺太、千島列島の侵攻を開始した。
「日本は自衛の戦闘に移る」
東條が退陣後に発足した吉田内閣は挙国一致の態勢を敷いてソ連との自衛戦闘に入った。しかし海軍大臣に就任した米内が「ソ連は侵攻したのではなくアメリカより先に接収しようとしているのではないか? なれば戦闘行為は愚の骨頂なり」と言って戦闘中止を命令。しかし、ソ連は日本側の軍使を無視して戦闘行為を停止しなかった。このおかげで日本は十万の捕虜がシベリアに抑留された。
「貴方の言葉を素直に聞いた私が馬鹿だった」
吉田は米内にそう告げて米内は海軍大臣を追われた。そして代わりになったのは井上大将だった。
日本は邦人の避難を優先すると共にアメリカに支援を要請。共産化を阻止したいアメリカも日本の要請に応じて半年間の日ソ戦争が勃発した。
「露助どもを追い返せ!!」
初戦こそは遅れをとった日本であるが山下大将率いる援軍を満州に送り、千島、南樺太にも援軍を派遣した。その間に聯合艦隊は陸軍の支援とウラジオストクを攻撃した。特にウラジオストクは二波にも及ぶ航空攻撃と大和と武蔵以下の戦艦部隊が艦砲射撃を敢行したのだ。
そのような攻撃でもソ連は中々引き上げる事はなかったが年を越しての二月にアメリカが仲介に乗り出して漸く三月に停戦した。
日本は満州、南樺太、朝鮮から撤退し代わりにアメリカとソ連が進駐に来た。日本はソ連の侵攻を阻止する事は出来なかった。しかし、ソ連極東軍は壊滅的打撃を与えられその戦力の回復に三年は掛かったのである。それに千島列島を守備出来たのも大きかった。
「……そうか、日本はこのように歴史を歩んできたか……」
青年は何冊か本を購入して帰るのであった。
「……まぁあの史実よりかは……マシかもなぁ……」
青年はそう呟いた。
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