第六話
「……トラックにもいないのか」
「は、残念ながら基地攻撃のみで……」
ハワイ、オアフ島の米太平洋艦隊司令部でニミッツ長官とマクモリクス参謀長はそう話していた。
「レイトン通信参謀によれば敵艦隊はビアク島方面に集結しているようです」
「……となるとマッカーサーは当たりを引いたわけか」
ニミッツはニヤリと笑う。マリアナに敵がいないので被害も少なく、作戦もやりやすいだろう。しかし、実際はそうでなかった。
「……それで通商破壊の方はどうかね?」
「……撃沈される一方です。バシー海峡は潜水艦の墓場です」
潜水艦隊はバシー海峡で日本の輸送船団を待ち構えているが台湾とフィリピンから飛来する哨戒機、戦前に古賀が鍛えた護衛艦隊は米潜水艦隊を次々と沈めては漁礁に変えていた。バシー海峡で戦没した米潜水艦はその戦没艦の中にはアルバコア、カヴァラ、シーライオン、ハードヘッド、アーチャーフィッシュ、スケート等史実で多くの日本艦船を沈めた潜水艦がやられていた。
更にバシー海峡の戦没艦は増えてクイーンフィッシュやレッドフィッシュも含まれるのである。
「何としても奴等の輸送船団を沈めろ」
ニミッツ長官はそう命令を出すが米軍は史実で喪失した数を上回る九七隻の潜水艦が戦没している。そのうちの半数近くはバシー海峡で戦没しているのである。
それは兎も角、二月二三日に第五八任務部隊はマリアナ諸島を空襲し小型艇数隻を撃沈するに留まった。更に三月三十日と三十一日にパラオへ大空襲を敢行したが被害は輸送船二隻に留まった。
「……やはり奴等はビアクに引き込まれたか」
報告を受けたニミッツはニヤリと笑う。だが同時に上手く行き過ぎているのではと思う。どうも煮え切らないがそれ以上考えるのを止めた。後日、ニミッツはこの判断を後悔するのである。
一方、聯合艦隊はタウイタウイ泊地にて訓練をしていた。旗艦は最新鋭正規空母の大鳳で翔鶴型と共に第一航空戦隊を編成していた。他にも第二航空戦隊は修理と改装が終了した赤城と飛龍、第三航空戦隊は隼鷹、飛鷹、龍驤、龍鳳、第四航空戦隊は瑞鳳、千歳、千代田である。空母は正規空母六隻(龍驤は正規空母の部類)、改造空母六隻と史実より三隻多い。
第三艦隊司令長官は小沢治三郎中将で第二艦隊司令長官には元第一航空艦隊司令長官の南雲中将が就任していた。
「第二艦隊にはお前が必要だ」
第一艦隊司令長官だった南雲に古賀はそう言って第二艦隊司令長官に任命した。
「お前がミッドウェー海戦の時、敵機が投下した魚雷を全て回避したのを知っている。次はそれを大和でも見せてくれ」
「古賀長官……!!」
南雲は任命された時、古賀にそう言われて涙を流した。更に第二艦隊参謀長には宇垣纏が就任した。他にも第一航空艦隊はヤップ島に極秘に進出して整備に余念がなかった。基地航空機は零戦五三型と三二型、紫電一一型(史実の紫電二一型)が約七百五十機、一式陸攻、銀河を合わせて四百二十機、陸軍航空隊の隼二百二十機、九七式重爆、百式重爆呑龍、四式重爆飛龍を合わせて約四百三十機となるが陸軍航空隊はヤップ島ではパガン島に飛行場を設営して集結していた。
母艦飛行隊も正規空母には艦載機型の紫電二一型、彗星二二型(史実の彗星三三型)、天山一二型であり改造空母は艦爆と艦攻は同じだが戦闘機は零戦五三型である。
「虎の子のパイロット達だ。何としても敵機動部隊を撃滅させねばならんな」
大鳳の長官室で小沢中将はそう呟いた。母艦飛行隊の練度は村田中佐や関中佐が生き残っていた事もあり南太平洋海戦並の練度を保持していた。開戦時の練度は少なくとも三年の訓練は必要だが仕方ない。
タウイタウイ泊地は米潜水艦も接近していたが海上護衛総隊から派遣された護衛巡洋艦龍田と一個護衛隊(海防艦六隻)が対潜掃射に狩り出て敵潜水艦四隻を血祭りにあげており、第一機動艦隊は十分な訓練をする事が出来たのである。このおかげで偵察機の全ては緯度変更による磁針の訂正が出来た。これにより後に第五八任務部隊を発見した時に正確な位置を報告出来たのであった。
第一機動艦隊は史実の編成だったが軽巡は八隻に増やされていた。軽巡は能代と矢矧の他にも防空巡洋艦に改装された長良、五十鈴、名取、阿武隈、高速輸送艦から再び重雷装艦に改装された北上と大井の六隻が増やされた。防空巡洋艦は十サンチ高角砲三基を元にほぼ史実の五十鈴ように改装された。勿論古賀の差し金である。更に対潜装備も搭載され艦隊の対潜掃射も兼ねるようになっていた。防空巡洋艦と陸奥は第三艦隊だが、北上と大井は第二艦隊に配備された。殴り込みを予定しているだ。第二艦隊は他にも霧島が第三戦隊として復帰している。
また、第三艦隊には史実より早くに松型駆逐艦が就役して配備していた。海上護衛総隊の海防艦がブロック工法での建造をしていたためソロモン等で喪失した駆逐艦の代わりとして桃までが松と同じ同時起工になった。そのため松型は第三十一戦隊に編成された。旗艦は五十鈴である。
「とりあえず出来る手は打ったな」
大淀の司令部で古賀はそう呟いた。開発が気になっていた噴進弾は六月五日に試作弾を含めて三十発がヤップ島に運び込まれた。搭載機は高速の銀河になっている。
サイパン島の防御は史実以上の防御で第三五三〇船団は壊滅せずに船団を護衛した第二護衛隊が逆に敵潜水艦のシャークを撃沈して撤退させていた。他にも四個師団が新たにサイパンとグアムに輸送されていた。
またサイパン島には戦車第九連隊が派遣されていた。しかも戦車第九連隊は中戦車は全て新型の三式中戦車に代わっていた。(第一話記述の三式中戦車)
陸軍は中戦車をこの三式中戦車と六月に採用された四式中戦車を主力と位置付けて量産に量産をしていた。
「頼むぞ……」
古賀はそう呟いた。そして六月十九日から二十日にマリアナ沖海戦が勃発した。
「こ、古賀長官!!」
「騒々しいよ樋端君」
大淀の作戦室に樋端参謀が慌ただしく入ってきた。
「だ、第三艦隊及び第二艦隊より電文です!!『我、敵艦隊ヲ撃滅ス』です!!」
「……やったか!?」
「はい、今の報告では第三艦隊は大型空母三、軽空母二は撃沈確実と……」
「索敵を徹底しろ!! 不確実ではいかん、確定の情報を持ってこい!!」
「分かりました!!」
樋端はまた走り出して作戦室を飛び出した。そして古賀は作戦室にいた山口達を見渡した。
「まだ喜ぶのは早いぞ。喜ぶのは確定の情報が来てからだ」
古賀の言葉に全員が頷いた。それから翌日には古賀の元に報告書が届いた。
「……正規空母五、軽空母六、戦艦二、巡洋艦二、輸送船多数を撃沈か……」
「その他にも正規空母二、軽空母五、戦艦一に損傷を与えたようです」
山口が補足するに告げた。マリアナ沖海戦は日本の大勝利であった。何よりも大勝利を決定的にしたのは最新鋭高速偵察機彩雲のおかげであろう。
彩雲は第一機動艦隊と第一航空艦隊を合わせて四九機が配備されていた。そのおかげで米第五艦隊は逐一日本側に報告されていた。
最初に動いたのは第一航空艦隊だった。吉良中将は彩雲二機、零戦五三型百八十機、紫電一一型二百二十機を第一波攻撃隊(制空隊)を発進させた。そして第一航空艦隊に遅れる事一時間半後にはパガン島に展開していた陸軍飛行隊の隼百八十機、百式司偵三機が制空権を取るために発進した。
第五艦隊は対空レーダーで第一航空艦隊の制空隊の接近を知り、全戦闘機を発艦させた。だが相手は歴戦のラバウル航空隊を含めた第一航空艦隊である。二種類の戦闘機には航空無線機も搭載されている事もあり連携した機動や無線で相手の危機を教えられる事もありサッチ・ウェーブが効かなかったりして米戦闘機隊は支離滅裂となるが米戦闘機隊も奮戦して零戦三八機、紫電十四機を撃墜した。
だが日本側は米戦闘機を八三機を撃墜していた。そして入れ代わりに陸軍飛行隊の隼百八十機と空戦が行われ、隼は四九機を撃墜されるがヘルキャットを二六機を撃墜した。
機銃弾と燃料を消費した米戦闘機隊は一旦各空母に降りて補充をしていたがそこに対空レーダーが反応した。
「敵機多数接近!! 百機以上はいます!!」
レーダー員が教えたのは第一機動艦隊から発艦してきた攻撃隊だった。紫電と零戦百二十機、彗星百二十三機、天山百二十機の攻撃隊は総隊長の関中佐が指揮の元、攻撃を開始を告げる「ト連送」を発信して攻撃開始した。
「全軍突撃せよ!!」
攻撃の火蓋を切ったのは彗星隊だ。彗星隊は関中佐機を筆頭に一斉に編隊による急降下爆撃を敢行した。急降下爆撃の最中、関中佐機が被弾しそのままレキシントン2に体当たりを敢行、残りの関中隊も五百キロ爆弾を投下して関中佐の体当たりを含めて四発が命中した。
炎上するレキシントン2に村田中佐の雷撃隊が突撃して魚雷四発を命中させた。レキシントン2はこれが致命傷となり攻撃隊が引き上げる前に波間に消えていた。攻撃隊は更に他の空母にも襲い掛かり正規空母ホーネット2、軽空母ベロー・ウッド、バターン、ガボットを撃沈した。
しかし、攻撃隊も関中佐を筆頭に戦闘機二一機、彗星六九機、天山七七機を喪失して第一機動艦隊は南太平洋海戦時までの練度に仕上げた航空戦力を半壊させてしまう。
炎上して混乱する第五艦隊に第一機動艦隊の攻撃隊と三十分で入れ代わるように第一航空艦隊の攻撃隊が到着した。第五艦隊もある程度は持ち直してVT信管を含めた対空砲火を撃ち上げて多数の攻撃隊を撃墜した。
それでも入佐中佐率いる攻撃隊は対空砲火をものともせずに第五艦隊に突撃した。第一航空艦隊の銀河三十機は急降下爆撃ではなく一式陸攻や飛龍と同じように雷撃態勢に入り距離千メートルで次々と対艦空中噴進弾を投下した。
「ジャップがロケット弾を使用しただと!?」
空母に迫る噴進弾を見て重巡インディアナポリスに座乗するスプルーアンス大将は絶句した。六機が撃墜されたが二四発の噴進弾は七発が空母の側舷に突き刺さって爆発。残りの噴進弾は投下しても噴進せずにそのまま海面に着弾したり推力不足で途中で力尽きた。
軽空母カウペンスが誘爆して撃沈し、空母ワスプ2が中破した。そして噴進弾で混乱している第五艦隊に雷撃隊と銀河の急降下爆撃の同時攻撃で中破していたワスプ2、エセックス、ヨークタウン2、軽空母モントレー、サン・ジャシント、ラングレーが撃沈した。
だが第一航空艦隊も一式陸攻と銀河二百四十九機、九七式重爆、百式重爆、四式重爆飛龍二百二十二機を喪失した。それらの喪失の引き換えに正規空母五、軽空母六をマリアナ沖に沈めたのである。
そして第二艦隊はサイパン島沖合いにまで前進して第五艦隊の敗報を聞いて撤退しようとしていた輸送船団と遭遇した。輸送船団には護衛に第七機動群から分離したインディアナ、アラバマの戦艦がいた。
第一戦隊の大和と武蔵はこの二隻の相手をして金剛、榛名、霧島以下の部隊は輸送船団に突撃した。
第一戦隊は四六サンチ砲を優位にインディアナとアラバマをマリアナ沖に沈めて金剛以下の部隊も多数の輸送船を沈めた。第二艦隊の喪失は早波と浜波だけであった。
「……偶然過ぎる程の勝ちだな」
「はい、我々もそれを思い第一機動艦隊と第一航空艦隊に偵察を徹底させましたが事実でした」
一連の報告を聞いて呟いた古賀の言葉に山口はそう補足した。
「ですが損害も多いです。第三艦隊は航空戦力、第二艦隊は武蔵が機関に損傷、第四戦隊、第七戦隊以下も損傷艦が多数います」
「サイパン島の敵部隊は?」
「撤退してもぬけの殻です。敵さんも余程慌てていたのか海岸線には多数の弾薬類や武器、食糧、医薬品が存在しています」
「有り難く頂戴しておけ。陸さんと分け合ってな」
(後は吉田さんに期待するしかないか。東條も今がチャンスと思うしな)
そう思う古賀だったがそうは問屋が卸さないである。吉田茂等が終戦工作に動いていたがマリアナ沖での勝利を聞いた陸軍は「まだ日本には余力がある!!」として一蹴。それでも首相の東條は密かにスイスに窓口を開いたのは評価すべき事だった。
海軍でも米内や井上達が工作を水面下でしていたがなしのつぶてであった。
「……ふざけているのか?」
「……済まない古賀長官」
料亭で吉田から聞いた古賀の第一声はそれだった。
「何ためにパイロット達は大空に散っていったんだ!!」
古賀はそう叫ぶと幾分か落ち着いて酒を飲む。
「吉田さん、聯合艦隊は恐らく後二度の海戦をすれば滅亡します」
「分かっています。それまでに工作の方を具体化にしませんとな」
「条件降伏でしょう。領土は本州、九州、四国、北海道、沖縄、千島列島を認めるなら降伏もしくは和平です」
「満州や南樺太、台湾は捨てるので?」
「それぐらいの覚悟がなければ無理でしょう。それに満州と南樺太の付近にはソ連がいます」
「……分かった。反発も多いが仕方あるまいな」
そしてマリアナ沖海戦後、吉田達の終戦工作は本格化となり陸海の人間をも巻き込んでいくのであった。
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