第五話
開戦日なので急いで書きました。
開戦日、陸海の将兵達は何を思ったのでしょうね、
「来るべき日に備えて艦艇は出来るだけ温存する」
GF長官に就任以降、古賀はそう言っていた。古賀は戦艦や重巡部隊はシンガポール方面に向かわして豊富な燃料と共に対空戦の演習していた。航空部隊は陸海の航空部隊が参加している。
航空部隊の九九式艦爆は急降下爆撃の戦法を編隊爆撃に変更していた。従来の日本の急降下爆撃は先行した艦爆の着弾を見て後続が照準を修正する戦法だったが致命的な欠点があった。
複数の機が同じ方向から突っ込んでくるので迎え撃つ対空火器は狙いやすかった。
その点、編隊による急降下爆撃は対空火器の照準を絞れないようにしていた。それでも一機以上は撃墜されるが被害が減らせるのは当然である。古賀は急降下爆撃を編隊による急降下爆撃に変更させた。
九九式艦爆のパイロット達は最初は混乱したが関少佐や江草少佐、小林大尉達のベテランが生き残っている事もあり何とか慣れてきている。
また、新型艦爆の彗星は液冷型から空冷型の金星エンジン――史実の彗星三三型――を搭載した彗星の開発が急がれている。古賀は「液冷は故障が多いから実戦は不利。攻撃隊発艦中に故障して飛べませんになればどうする気だ?」と空技廠を説得して金星エンジンを搭載させた彗星を開発させている。
そして海軍が今活発化しているのは輸送であった。古賀は史実の事も踏まえてマリアナ、トラック、パラオの強化を急がせる事にした。絶対国防圏の話は軍令部は元より陸軍にも伝わっていた。
ニューギニアからの撤退に陸軍の一部は難色を示したが古賀は自ら三宅坂に赴いて説得した。
「ガダルカナルの二の舞にはしたくありません」
古賀の言葉に陸軍の上層部達も漸く首を縦に振り、ニューギニアからの撤退が決定した。この撤退で陸軍は第十八軍の壊滅は免れた。そして六月八日、史実では戦艦陸奥が謎の爆発事故で沈没をするが古賀は予め全軍に「私的の私刑を禁止する。破る者は軍法会議と処する」と通達していた。実際に私刑をしていた巡洋艦乗り組みの尉官を古賀自ら主導した軍法会議にかけて禁固五年となった。この軍法会議で私刑をする者は減少傾向となる。
それでも古賀は予備策として長門と陸奥の改装を実施し八日を過ぎても爆発事故は起きる事はなく古賀も一安心するのであった。
七月十二日、コロンバンガラ島沖海戦が勃発した。
「敵に撤退を気付かせてはならない」
撤退作戦を指導する一方で古賀はそう判断してソロモン諸島に第二水雷戦隊と第三水雷戦隊、第五戦隊の妙高と羽黒をラバウルに派遣した。
そしてコロンバンガラ島でコロンバンガラ沖海戦が勃発する。
「探照灯を付けろ!!」
第二水雷戦隊旗艦神通は後続の駆逐艦の雷撃照準を助けるため最大速度で第五戦隊の前に立ち照射攻撃を敢行した。
「伊崎……」
後輩の覚悟を見た第五戦隊司令官の大森仙太郎少将は直ぐに指示を出した。
「神通の覚悟を無駄にするな!! 全主砲は敵先頭艦に照準!! 照準出来次第砲撃開始せよ!!」
妙高の三年式二号二十サンチ連装砲五基が旋回して照準、砲撃を開始した。その間にも照射していた神通は第三六.一任務部隊から集中砲火を一身に受けて大破炎上した。伊崎少将以下二水戦の幕僚も戦死した。
2348時、魚雷命中により神通の大爆発を起こして船体が真っ二つになり後部は沈没するも残った前部の一番砲塔は二時間以上も激しい砲撃を第三六.一任務部隊に続けた。
「探照灯を照射!!」
二水戦及び三水戦の次発装填を搭載した艦が戦場な舞い戻る。大森少将は先の伊崎少将同様に駆逐艦の雷撃支援のために妙高と羽黒に探照灯照射を命令。
第三六.一任務部隊は二隻に砲撃を集中したが神通より固い装甲を備えた妙高と羽黒に致命傷を負わせる事は出来ず、羽黒中破、妙高小破の損傷しか負わせられなかった。
そして舞い戻ってきた駆逐艦の雷撃により軽巡三、駆逐艦三が被雷した。更に妙高と羽黒が軽巡三隻に砲撃を集中して艦隊司令官エインスワース少将を旗艦ホノルルごと波間に呑まれるのであった。
「……そうか(やはり神通はコロンバンガラ沖海戦で沈む運命なのか……)」
山口から報告を受けた古賀はただそれだけしか言わなかった。海軍にしてみれば軽巡一沈没、中破一、小破二で向こうは軽巡三、駆逐艦二を撃沈され完勝に近い戦果だった。
「妙高と羽黒の損傷は丁度良いから改装してくれ」
第五戦隊の二隻はまだ改装を受けていなかったので渡りに船だった。二隻は内地に帰還後直ぐに改装が施される。
「とりあえずは米軍も暫くは警戒するだろうな。マーシャルやギルバートの撤退はどうなっている?」
「軽巡名取と那珂を筆頭に撤退は順調です」
マーシャルとギルバートの撤退は名取と那珂、駆逐艦七隻が中心となり撤退を続けている。
「それと基地航空艦隊は?」
「吉良中将の元、機材やパイロットも集まりつつあります」
基地航空艦隊の第一航空艦隊は史実通りに発足していたが司令長官には史実で第三航空艦隊司令長官だった吉良俊一中将が就任した。参謀長は史実通りの三和義勇である。
第一航空艦隊の中にはラバウル航空隊も含まれていた。ラバウル航空隊は史実では損耗していたがガダルカナル島戦の時はブイン基地が使用出来たためパイロットの喪失は史実より少なく坂井三郎の負傷、笹井、太田等の戦死はなく史実よりも精鋭の部隊になっていく。
そして数日後、古賀は帝都のとある料亭にいた。古賀の他にも数人の人間がいた。
「聯合艦隊司令長官と会う日が来るとはな」
「忙しいところを誠にすみません」
葉巻を持つ男は皮肉そうに言い、古賀は頭を下げる。
「それで私に用とは?」
「貴方に終戦工作を御願いしたい」
「……聯合艦隊司令長官がそう言うとはね。だが工作をするにしても余力があるうちでは無理じゃないかね?」
「では貴方はソ連に国土を踏みにじりさせるおつもりかな?」
「……ソ連とは思いきったものだな」
男はククッと笑う。
「思いきったものではない。ソ連はドイツを降すのは時間の問題。少なくとも二年くらいでドイツは負ける」
「ふむ……それでソ連はその余力で日本に攻め込むと?」
「スターリンは不凍港を欲する。なら満州は元よりその気になれば北海道も奪われる」
「……成る程」
「私としての予測では来年にもアメリカはマリアナに来襲する。マリアナを取られると新型長距離爆撃機が日本本土を空襲するだろう」
「マリアナで決戦をするから私に政府を纏めろと?」
「東條さんは陛下に忠犬だ。木戸内大臣をも動かせば……」
「マリアナで失敗したらどうする?」
「それなら次はフィリピン、フィリピンも失敗したら沖縄だ。本土防空隊は一万まで届く戦闘機が開発中だから焼け野原にまではならんと思うがな」
「よし、聯合艦隊司令長官がその気なら私も動く」
「済まない吉田さん」
「いや、貴方が本気で日本を救おうとしているのが分かった」
古賀と吉田茂のファーストコンタクトであった。
「空中魚雷の方はどうかね?」
「研究に入っているところです。長官が航空魚雷型を元にと言ったので少し難航しているようです」
十二月、旗艦が大淀になり古賀達は大淀で勤務していた。古賀は噴進弾の開発を気にしていた。
(マリアナが間に合わなくてもフィリピンまでには間に合ってほしいな。最悪の場合は沖縄だが……)
古賀は陸軍が母機から投下するロケット推進の有翼誘導弾の開発をしているのをミリオタの知識から思い出したため陸軍と協議して共同開発としていた。
古賀は桜花の事も踏まえて航空魚雷を元に開発を依頼した。最大射程は約千二百メートル程ではあるが十分に通用する。
「分かった。それとラバウルはどうだ?」
「防空戦が展開されているようですが、流石に戦闘機が出てこないと敵も不審に思う筈です」
「……ラバウルは潮時か。となるとトラックか……」
「トラックも捨てるのですか?」
「いや、トラックには死んだ振りをしてもらう。今のうちに在泊艦艇と航空隊は全て撤収せよと伝えろ。トラックの小林に自給自足が出来るよう用意だけはしろと同じく伝えろ。それともう一つ、ヤップ島の飛行場を拡張させろ。出来るだけ早くにな」
「分かりました」
(マリアナを目指すならトラックは史実同様に空襲だけのはずだ。ビアク島も放棄してフィリピン方面に引き揚げさせてもらおう。けどビアクに日本兵がいると錯乱してもらうか)
後に古賀は陸軍と協議してビアク島の放棄を決定して撤退するが置き土産として罠を至るところに仕掛けて心理戦を展開させるのであった。そして古賀は一息つくために早苗がいる料亭を訪れた。
「お久しぶりです古賀様」
「やぁ早苗君。最近忙しかったから中々来れなかったよ」
古賀は部屋で出迎えた早苗に心が穏やかになるのを感じた。激務続きだが早苗の笑顔を見たら疲れは吹き飛んだくらいだ。しかし、今日の早苗は少し顔色が暗かった。
「いつものを頼む」
「畏まりました」
古賀は出されてくる料理に舌鼓を打つが早苗の顔色が暗い事に気付いた。
「どうした早苗君? 顔色が悪いぞ」
「あ、すみません」
「風邪かね? 風邪なら休みなさい」
「いえ、風邪では……」
「ならどうしたのかね?」
「………」
暫く無言だった早苗だがやがて意を決したように口を開いた。
「実は田舎の両親からお見合いをしたのです。戦争で男が少なくなるので今のうちにしろと……」
「………(なん……だと……)」
早苗の衝撃告白に古賀は暫し茫然としてしまう。
「それで結婚する事になりこの料亭を辞めて田舎に帰るのです」
「……いつ田舎に帰るのかね?」
「明後日です」
「……そうか、それは目出度い事だ」
古賀は一瞬、泣きそうな顔になるが直ぐに笑顔に変えて早苗を祝福する。
「申し訳ありません、私がいなくなって……」
「いやいや、君は君の幸せを考えなさい」
古賀は優しく早苗に言い、その日はいつもより多く飲むのであった。そして古賀は従兵を従えてそのまま大淀に乗艦した。従兵は多くの日本酒を持っていた。
「一本だけ貰う。後は皆で飲みなさい。私のポケットマネーだ」
「は、ありがとうございます!!」
「あ、それと君に二つ頼みがある」
「は、何でしょうか?」
「私が酔っ払っていた事は内緒にしといてくれ。駄賃はこの日本酒だ。もう一つは―――」
「分かりました。今日見た事は忘れるよう他の皆にも伝えます」
嬉しそうに退出する従兵に古賀は一つ頼みをした。娯楽がない艦には酒が一番であろう。従兵が退出して気配が無いのを確認した古賀はフラフラと部屋を出て山口の部屋に突撃した。
「どうしました長官?」
「ちょっと酒飲みに付き合え」
古賀は山口の答えを聞く間もなく部屋にズカズカと入り床に座り込んで持ってきた日本酒を開けてコップに酒を注ぎ込む。
「まぁ飲め」
「……頂きます」
古賀の雰囲気に山口は何かを察してコップを貰い一気に飲み干した。
「良い飲みっぷりだな山口」
「はは、私として食うことが良いです」
「ははは、大和のフルコースを食べて美味いけど量が少ないというお前だからな」
二人はそう笑いあうのであった。なお、翌日の古賀は酷い二日酔いだった事を記載する。そして更に翌日、早苗は勤めていた料亭を出たところ、水兵に呼び止められた。
「風間早苗さんですか?」
「はい、あの貴方は……?」
「失礼しました。私は古賀長官から頼み事を遣わされました」
「頼み事……?」
「これです」
水兵は早苗に袋を渡した。早苗が袋の中身を見ると安産祈願の御守りがあった。
「これは……」
「古賀長官からです。『立派な子どもを産んでほしい』と。では失礼します」
水兵は早苗に敬礼するとその場を後にした。その場に残るのは思わず泣き崩れた早苗だった。
「古賀様……ありがとうございます」
静かに涙を流す早苗だった。しかし、二人はあの日で今生の別れをしてしまうのである。
そして年が開けた昭和十九年の一月三十日、米軍はマーシャル諸島のマジュロ環礁に侵攻した。しかし日本軍は既に引き揚げていたので無血占領となる。その翌日の三十一日にはクェゼリン環礁に上陸するがこれも無血占領となる。
「ジャップは何処に行ったんだ?」
「ママのおっぱいにしゃぶりに行ったんだよ」
『HAHAHA!!』
そう笑う海兵達だったが地獄を見るのはこれからであった。そして二月十七日と十八日に第五十任務部隊と第五八任務部隊は日本軍の一大拠点であるトラック諸島を攻撃するヘイルストーン作戦が行われたがトラックに在泊艦艇はおらず、基地のみの攻撃となり空振りとなるのであった。
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