第四話
米機動部隊を攻撃している南雲中将の第三艦隊だったが第三艦隊も米機動部隊から発艦した攻撃隊が来襲していた。
「敵機急降下ァ!! 直上ォ!!」
ミッドウェーの再来とまでは言わないが旗艦翔鶴にSBDドーントレス七機が急降下爆撃を敢行。
翔鶴は四百五十キロ爆弾四発が命中して翔鶴は炎上した。しかし、ミッドウェーのように誘爆する事はなく、被弾した瑞鳳と共に戦場から離脱した。
『我、航空戦ノ指揮ヲ取ル』
翔鶴退避後、山口少将は全軍に発令した。第三航空戦隊司令官の角田少将(山口少将が生存している事もあり隼鷹型は第三航空戦隊所属)は山口の電文に「心が震えた」と言っている。
また関衛少佐率いる第二次攻撃隊(九九式艦爆二五機、零戦十八機、九七式艦攻十六機は遅れる事なく一斉に発艦)は空母エンタープライズに三発の命中弾を与えた。
第三航空戦隊の隼鷹も史実通りの攻撃隊を発艦して戦艦サウスダコタ、軽巡サン・ファンを損傷させた。米機動部隊指揮官のキンケイド少将はマレー少将にホーネットの曳航作業を命じると第十六任務部隊は南東へ退避を始めた。
しかし、山口少将は追撃を命じて数波の攻撃隊を送りホーネットを曳航していた第十七任務部隊の重巡ノーザンプトンを中破に陥れた。
米軍は日本側の攻撃隊からホーネットを守ろうとしたがホーネットも命中弾が出てしまい遂には総員退艦が発令された。
そして前進してきた近藤中将の第二艦隊がホーネットを発見した。拿捕しようとしたが炎上が酷く結局魚雷処分となった。
結果として米軍は史実通りにホーネットを失いエンタープライズが中破して太平洋における米空母の稼働は無しになった。しかし日本側も空母翔鶴と瑞鳳が工廠行きを余儀なくされ艦載機は史実より少ない六九機の喪失だった。
史実には存在しない飛龍と零戦三二型がいた事で被害は史実より少なかった。また村田少佐や関少佐も生存していた事も大きかった。
山本長官は瑞鶴を下がらせて飛龍と隼鷹で機動部隊を編成してガダルカナルの様子を見守る事にした。
そしてガダルカナルだが、第二師団は後一歩のところで負けた。負け自体は史実通りだが陽動隊の戦車隊は史実より揚陸された砲弾の数が多いため米軍の第一線防御陣地は軽い損害で突破する事が出来たが七五ミリ自走砲や三七ミリ速射砲に全てやられて全滅した。第二師団も飛行場南のジャングルから銃剣突撃で飛行場を目指したが、米軍が構築した防御陣地に阻まれ日本兵の屍を次々と積み上げる一方だった。
「……やはり負けたか」
トラックにて停泊していた護衛巡洋艦天龍の長官室で報告を受けた古賀の言葉はそれだけだった。
「やはりというと……?」
「陸さんがあの状態じゃ負けるのは必然な事だ」
副官の言葉に古賀はそう返した。
「本当なら伊号潜が通商破壊をして奴等の補給路をじわじわと締め上げれば良いのに空母を沈めたから大型艦狙いに変えやがった」
開戦当初は第六艦隊は通商破壊作戦をしていたが、ミッドウェーで伊一六八潜がヨークタウンを伊一九潜がワスプを沈めていた事に第六艦隊が味を占めて大型艦狙いを具申。山本長官も最初は悩んだが、結果的に現場判断で攻撃も可と下した。
これにより伊号潜の喪失も史実並になりだした。
「俺が長官なら第六艦隊上層部は全員クビにしているところだ」
「はぁ……」
珍しい古賀の呟きに副官はそう返した。陸軍は第二師団の総攻撃失敗に更なる増援として第三八師団を送ろうと計画したが輸送をする古賀自身がガダルカナル島の放棄を提案した。
「これ以上はいたちごっこの繰り返しで無駄な犠牲者を増やすばかりだ。工業力が乏しい日本が船舶を消耗すれば内地に運ぶ物資や資源の船舶が無くなるぞ。それとも戦艦に物資を輸送してもらうつもりか?」
古賀のガダルカナル島放棄に山本の代わりに抗議しに来た黒島参謀に古賀はそう返した。
「太平洋に敵空母がいない今が好機です」
「それで第三戦隊の比叡と霧島を再びガダルカナルを砲撃するのか? 奴等に空母がいない以上、奴等は基地航空隊を増やしてガダルカナル周辺に艦隊を配備するぞ」
「奴等の一瞬の隙を突いて……」
「隙を突けると思うのか? 勝算があるならお前自身が乗り込んで指揮を取れ」
結局、第三八師団はガダルカナルへの派遣が決定した。
「……大井、これを持って近藤に渡してくれ」
古賀は大井参謀に一通の紙を渡して大井参謀は愛宕に赴いた。近藤は少し悩んだが一人の時に開封して中身を一目した。
「……成る程。古賀さんならやりかねないな」
近藤は苦笑した。そして第三次ソロモン海戦が勃発した。第一夜戦の戦闘は史実通りとなり戦艦比叡は沈没した。
「……比叡が沈んだか……」
「近藤長官、比叡の仇を取りましょう!!」
愛宕の艦橋で参謀達は近藤に詰め寄る。しかし近藤の心中に敵討ちの文字はなかった。
「(これ以上は無理だな)全艦に通達、全艦反転せよ」
「近藤長官!?」
「これ以上はもう無理だよ。陸軍の輸送船団にも反転を連絡せよ」
「長官……」
「責任は私がとるよ」
こうして第二艦隊は阿部中将の挺身隊を加えて反転。ガダルカナルの海域から退却した。
「第二艦隊は何をしているか!!」
報告を聞いた黒島参謀は激怒したが宇垣参謀長は内心ホッと溜め息を吐いていた。海戦後、大和に出頭した近藤は山本に古賀が書いた手紙を差し出した。『もし挺身隊が敵艦隊と遭遇し比叡と霧島のどちらかを喪失したら直ちに退却しろ。貴重な高速戦艦を失うわけにはいかん』と書かれていた。
「無暗に第二艦隊を突入させたら霧島をも失う危険がありました」
近藤は淡々と述べた。対する山本は幾分か無言だったがやがてやむを得ないと述べただけだった。なお、史実通りに比叡艦長の西田大佐が予備役になったが古賀が裏で手を回して海上護衛総隊の参謀に転出となる。
陸海軍の協議の結果、ガダルカナルは放棄する事が決定され昭和十八年二月一日から七日にかけてケ号作戦が行われガダルカナル島にいた日本軍約一万が救出されたのであった。
その後はダンピール海峡の悲劇とも言われるビスマルク海海戦が勃発。史実通りに輸送船八隻、駆逐艦四隻が撃沈された。
昭和十八年四月七日から十五日にかけてい号作戦が行われこれも史実通りの戦果となる。
そして四月十八日、それが起きた。
「長官!!」
六機の零戦隊が二機の一式陸攻に群がろうとする十六機のP-38に銃撃するが数機のP-38が搭乗する山本の一式陸攻に機銃弾を叩き込んだ。機銃弾は左翼の左エンジンに命中して炎上、そのままブーゲンビル島のジャングルに墜落した。また二宇垣参謀長が乗る二番機も海上に墜落した。
「長官!!」
「長官!!」
墜落した山本機の上空を六機の零戦は虚しく旋回するのであった。
「……山本五十六は史実通りにブーゲンビル島上空で散ったか……」
古賀は天龍の長官室で山本五十六の戦死の報を聞いていた。
「だが一つ史実より違うのがある。樋端少佐が生きている事だろうな」
史実では樋端少佐は海軍甲事件で戦死するが古賀が西田大佐の時のように手を回して空技廠で零戦改良型の試験見に来ていた。そのために戦死は免れたのだ。
「……そして俺に長官親補か……」
古賀は二十日に嶋田大臣からGF長官の内示をもらっていた。
「分かりました。但し条件があります」
「条件とは?」
「参謀の人事は私の一存と海上護衛総隊司令長官の兼任です」
「……良かろう。君に任せる」
古賀は嶋田大臣とそう交渉してGF司令長官兼海上護衛総隊司令長官に就任した。就任した古賀は参謀長に第二航空戦隊司令官だった山口多聞に指名。首席参謀には樋端少佐を指名した。
「……私が参謀長ですか?」
「君を現場から引き上げさせたようで済まない」
天龍に訪れた山口に古賀は開口一番に謝罪した。なお、旗艦は一時的に天龍を旗艦にしていた。後に大淀が旗艦となる。
「いえ、今まで現場でしたから」
「航空戦を経験した者が参謀長に欲しかったからな。是非とも君がよかった」
「……分かりました。全力を尽くしましょう」
司令長官になってから数日後、古賀は早苗が働く料亭に来ていた。
「今日もよく飲みますね古賀様」
「はっはっは、早苗君が注いでくれるから酒が美味いよ」
「まぁ古賀様ったら」
古賀は早苗と仲良く話しながら飲んでいる。
「それにしても、古賀様が海軍の方だなんて知りませんでした」
「はっはっは、まぁ話す事はなかったからね。それに出歩く時は私服だから気付かないのも無理はない」
二人は仲良く話すがそれ以上の進展はない。女将もいつ二人が結婚するか気になっている。だが、古賀は五十七だ。古賀自身も早苗の事は気になっていたが、言っていいのか迷っていたがそのままにした。
その判断が早苗の運命を狂わせてしまう事に今は気付かなかった。
「それで首席参謀、改良型はどうかね?」
「中々良かったですが六百キロ程で頭打ちです」
「……やはり新型か」
天龍の長官室で樋端からそう報告を聞いていた。零戦は金星六二型エンジンを搭載した試作機が試験飛行をしていた。
最大速度は六〇六キロとF6Fヘルキャット並の速度を出していたが最早そこで限界だった。航続距離も約二千キロだった。
「零戦の改良型はそこで終わりだろうな。後は川西が試作している試作機だが……」
「かなりの出来です。速度は六二〇キロを出しています」
川西が試作していたのは史実の紫電二一型である。武装は二十ミリ機銃四丁の最大速度六二〇キロである。航続距離は史実通りであった。
「そうか、三菱も零戦の後継機を一日でも早く作ってもらわないとな」
「川西の試作機が後継機ではないのですか?」
「川西のは元々強風の機体を陸上機化したものだ。改造はやりにくいだろう」
古賀はそう樋端に返した。
「排気タービンの方はどうだ?」
「難航しています。冷却のが何とも……」
「冷却は外気で冷やすのが得策じゃないのか?」
「……空技廠に言っておきます(戦艦屋と思っていたがいやはや、航空屋も自称出来るお人だな)」
樋端はそう思った。其ほどまでに航空に精通していた。
(この人ならもしかしたら……)
そう思う樋端であった。
「後は陸海で協力して空中魚雷の製作も急がないとな。それと全艦にボフォース四十ミリを載せないとな」
樋端の視線に気付かない古賀だった。それから山口をも呼んで今後の計画が行われた。
「ガダルカナル以後、我々の道は最早守勢だ」
「問題は防衛線……ですか?」
「その通り。そこで俺は防衛線をこうする」
古賀はそう言って地図に史実の防衛線を描いた。しかし防衛線は少し異なっていた。
「トラック、マリアナ、ビアク島を防衛線とした絶対国防圏だ。マーシャルやマキン、タラワ、ソロモン諸島の島々は全て撤退して放棄だ」
「ラバウルもですか?」
「いやラバウルは敵の目を引き付けておく必要がある。ラバウルは自給自足の生活をしてもらい対空砲や対空機銃でポートモレスビーからの空襲を引き受けてもらう。その間、海軍の艦艇は武装と対空強化で四十ミリ機銃と電探の早期搭載してもらう。母艦飛行隊は再編成だ」
「とすると陸軍との協議もしないといけませんね」
「うむ、それに陸軍飛行隊も協力してもらう。対価は洋上飛行と対艦攻撃訓練だな」
「それは良いかもしれませんな」
「就任早々で悪いがやる事は沢山あるからな」
「いえ、大丈夫です」
それから古賀は松田千秋大佐を呼び、爆撃回避法や弾幕射撃のテキスト化を依頼して全艦に配布させた。実は松田大佐は開戦直後にもテキスト化をして配布したが緒戦の勝利に忘れて努力が水の泡になっていた。
それを古賀はGF長官の命令とし(読まなかったら軍法会議ものとされた)、改めて全軍に布告したのだ。
松田は古賀の行いに感激するのであった。後にこのテキストを読んでいたおかげでマリアナ沖海戦やレイテ沖海戦は史実より異なる出来事が起きるのである。
そして古賀はソロモン、マーシャル、ギルバート諸島等の兵力を全て撤退を決定して五月十日に作戦が行われた。この作戦は第二次ケ号作戦と言われ、以後の撤退作戦は全て第〇次ケ号作戦と呼ばれるようになる。
その八日前の五月二日に伊勢型戦艦の日向が航空戦艦の改装が行われたが古賀は艦本にボフォース四十ミリ機銃の搭載と速度向上を依頼しておいた。これは同じく改装中の伊勢にも行われ後に全ての戦艦にて速度向上とボフォース四十ミリ機銃の搭載が図られるのであった。
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