第一話
ヒトラーの息抜きのはずがかなり執筆してしまったので短期連載だよ。
ネタが此方しか浮かばないし……。
「最近、古賀の様子が変わった」
海軍の将官達はそう囁いていた。時に1937年十二月一日の事であった。海軍中将に任じられ、練習艦隊司令官になり各地を巡航していた古賀峯一は内地に帰着した時にはかなり変わっていた。
「急に潜水艦の整備や新型爆雷投射器、聴音機の開発や新型機開発を主張するなんてな……」
「諸外国にでも影響されたかな?」
将官達はそう囁いていたが、当の本人である古賀はというと……。
「……轢き逃げで死んだと思い、気付けば練習艦隊司令官に任命されて諸外国を回っていたなんて……何処の架空戦記だよ」
新たに軍令部次長に就任した古賀峯一はそうボヤいていた。彼――古賀峯一の魂は別の魂であった。
「……まぁ諸外国回っている間にとりあえずはノートに俺が知っている知識を纏めといたが……」
古賀の中身は未来の日本人であり軍オタだった。軍オタである故に未来の事も分かっていた。
「古賀峯一の最期は遭難での殉職だからなぁ。指揮官は前線に行かん事にするか。予科錬もパイロットを増やさないと……扶桑型や伊勢型、長門型も今のうちに改装してしまわないと……」
古賀の苦難は始まったばかりに過ぎなかった。数日後、古賀は軍令部総長の伏見宮博恭王の元へ向かった。
「潜水艦の戦術展開だと?」
いきなり訪ねてきた古賀に宮様は不審に思いつつ古賀にそう尋ねた。
「第一次大戦時、ドイツはUボートを使い多数の輸送船を沈めました。イギリス等は輸送船を守るために多数の艦艇を輸送船に割けねばならない事態は宮様も御存知の筈です」
「うむ、第一特務艦隊や第二特務艦隊等の事は儂も知っておる」
「万が一ですが……対米戦になれば潜水艦は全て通商破壊作戦を展開をしてアメリカの周囲をガタガタにさせるのです」
「ふむ……だが潜水艦は斬減邀撃作戦に使うが……」
「いえ、潜水艦は通商破壊作戦で使用するべきだと思います。斬減邀撃作戦は有効だと思いますが、全部の潜水艦を投入するより数隻の潜水艦でちょっかいを出して敵の判断能力を低下させるのが有効だと思います」
「ふむぅ……」
古賀の言葉を聞いた宮様は腕を組みながら悩んだ。確かに古賀の言葉通りに有効なのは確かだった。
「それと旧式艦艇で輸送船を守る護衛艦隊を創設するべきだと思います」
「次長、そうせっかちになるな。とりあえずは潜水艦の戦術を代えよう」
「御英断ありがとうございます。それと功績は全て宮様にあげますので」
「……ほぅ。御主はそれで良いのか?」
「は、構いませぬ」
宮様は古賀の謙虚に少々驚きつつも自身の功績が増えるなら構わないと思い古賀の言う通りにした。
そして古賀は次々と宮様に提案をして宮様はそれらを全て自分の功績にした。
古賀が提案したのは
1、『ボフォース四十ミリ機関砲の輸入及びライセンス生産』
2、『第一戦隊と第二戦隊の速度向上及び対空火器の増設』
3、『大量生産及び航続距離を伸ばした艦艇の建造』
4、『電探、聴音器、爆雷の開発』
5、『旧式艦艇の改装』等々であった。ボフォース四十ミリは未来の知識を持つ古賀にとっては優れた機関砲である。
ボフォース四十ミリは第二次大戦は元より、その後の現代でも使用されている代表的な機関砲である。
戦艦部隊の速度向上と対空火器の増設も後の航空戦に出来るだけ生き残らせるための工夫だった。この速度向上では大和型にも伝わり、機関は翔鶴型と同じ十六万馬力を発揮し竣工時の大和は最大三十ノットが出せるようになった。
大量生産の艦艇は主に海防艦にしていた。古賀は史実で日本海軍が軽視していた海上護衛にも力を付けさせる事にしている。この事がきっかけで古賀は史実に反して開戦時には海上護衛隊司令官に就任するがそれはまだ先の話である。最後の電探等は既に分かっている事だ。
話は戻るが、古賀が遠慮したため古賀の功績は全て宮様の物になり宮様の株は急上昇する。だが古賀が仲が良い者は古賀を心配したりしていた。
「古賀、今の状態で良いのか?」
盟友とまでは言い難いが海軍次官と航空本部長を兼任している山本五十六は古賀をとある料亭に呼びつけそう問う。昭和十三年六月の事だ。
「今の状態とは?」
「お前の功績が全て宮様になっている事だ。仕舞いにはお前に同情する奴もいる」
この時、古賀はまだ軍令部次長であった。
「構わんよ。俺がするより宮様の方が影響力は高いからな」
「だが……」
「山本さん、俺は今の状態で満足してるから大丈夫だ」
「……分かった」
「あぁそれと、航空本部長に相談がありましてな」
古賀はそう言って山本に航空エンジンとして千五百馬力級、二千馬力級の航空エンジン開発、部品の統一規格、パイロットの増産を口酸っぱく具申した。
「全部山本さんに任せるよ」
「古賀……」
古賀の遠慮さに山本もほとほと参り、遂には苦笑で済ましてしまう。古賀は海軍で暗躍しつつ陸軍にも暗躍の手を出し始めた。
「古賀中将独自の諜報部隊か……」
陸軍は古賀から渡された各国の戦車性能表を見せられ驚いていた。しかし、海軍なので気に食わないのか性能表を資料室に置いてしまう。陸軍が性能表を本格的に調べるのはノモンハン後の事だった。
そして暗躍し続けた古賀は史実通りの1939年(昭和14年)十月二一日に第二艦隊司令長官に就任した。
そんな時、旗艦高雄に陸軍参謀総長の閑院宮載仁親王が来艦した。
「わざわざ陸軍の方がしかも殿下が俺を訪ねてくるなど……何かしたか?」
古賀は首を傾げるが心当たりが多すぎて考えるのを止めた。
「これはこれは殿下。このような場所でむさ苦しいですがようこそ高雄へ」
「古賀司令長官、急な来艦済まないね」
古賀は殿下とそう挨拶をして席に座る。会議室には古賀と殿下しかいなく、殿下が二人にしてほしいとの事だった。
「もう耳に届いていると思うが……ノモンハンで我々は惨敗に等しい負け方をしている」
「は」
「以前、君が作成してくれた戦車性能表を我々は一笑してこの様だ。実は……今日来艦したのも君に知恵を借りたいのだよ」
「知恵を……ですか?」
「そうだ」
頷く殿下を他所に古賀は頭を抱えていた。
(何でそうなるんだよ……)
「ですが殿下。本職は海軍の人間です。海軍の人間が陸に口を出すのは……」
「いや、外の者からの意見が欲しいのだ。それに他の者にも良い刺激になるだろう。是非とも頼む」
「……分かりました。やるからには徹底的にやりましょう」
殿下に頭を下げられたからには古賀も了承するしかなかった。そして古賀は陸軍の戦車開発にも少々ながら助力する事になった。
古賀が助言したのは七五ミリ級の戦車砲と最大七五ミリの装甲(傾斜装甲も取り入れ)、四五キロ程度の速度を持つくらいだった。外からの意見に陸軍側に躍起になって開発をしたのが昭和十八年一月に正式採用された三式中戦車である。ほぼ史実の三式中戦車であるが違うのは最大装甲七五ミリくらいだ。
そして翌年昭和十九年六月に正式採用された四式中戦車である。この二種の中戦車は戦争後期に大活躍するのであるがまだ先の話だった。
さて、忙しい古賀だが世界は史実通りになっていた。昭和十五年には日独伊三国同盟が締結され日本は枢軸国側入りを果たしていた。
「……歴史は変わらん……か」
三国同盟が締結された日、一面に躍り出る同盟締結の文字を見ながら古賀はそう呟いた。古賀は今、水交社で寝泊まりをしていた。
古賀にも家族はいるが未来人が憑依した古賀にとっては赤の他人である。それなりに付き合いはあるが結局開戦後二日目で離婚してしまう。
それはさておき、昭和十五年は零戦も正式採用されていた。零戦二一型までは史実通りであるが、三二型は全てが一新されていた。
まず発動機は「栄」ではあるが史実には搭載がなかった栄三一型である。水メタノール噴射装置が付けられ史実より百馬力大きい千四百馬力を発揮している。
武装は新たに十二.七ミリ機銃二丁が機首、内蔵式から銃身が外に出されベルト給弾式になった二十ミリ機銃二丁が主翼に搭載されている。
航続距離は操縦席後ろの胴体に145リットルの燃料タンク二つを増加して約二千六百キロ程度だった。また、装甲も二一型より厚くなり風防も防弾ガラスに変更し燃料タンクには自動消火装置が付けられて生存率が高められていた。
速度は推力式単排気管を採用した事もあり五八七キロとなっている。また、無線電話機も改良されて新しくなりパイロット同士の会話もしやすくなっていた。
これを秘めた零戦三二型は昭和十六年六月に正式採用された。
なお零戦三二型の初陣は昭和十七年三月のポートモレスビー航空戦である。母艦飛行隊に配備されたのは四航戦の龍驤であり、AL作戦時に数機が喪失するが米軍の手に渡る事はなかった。
それはさておき、昭和十六年九月一日に古賀は海上護衛総隊初代司令長官に就任した。史実だと支那方面艦隊司令長官であるが、海上護衛総隊創設を口酸っぱく具申していた事もあり任命されたのだ。
旗艦は護衛巡洋艦に改装された天龍である。天龍には新しく開発された一式水中探信儀(史実の三式水中探信儀)と一式爆雷投射機(史実の三式爆雷投射機)が搭載されていた。
今のところ護衛総隊の巡洋艦は天龍、龍田、八雲、出雲、磐手で残りは旧式の神風型駆逐艦や占守型海防艦だ。
占守型海防艦は史実の鵜来型海防艦を元にして大量生産の設計になっていた。爆雷も百二十個搭載し速度も二十ノットだった。
占守型は一番艦の占守が昭和十六七月に就役して今は七隻が配備されている。(占守型は五七隻まで建造)また、占守型を小型化、艦型を簡略化、量産性に適した第一号型海防艦の建造も始まっていた。
しかも艦艇には対空兵器に輸入してライセンス生産しているボフォース四十ミリ連装砲を搭載している。
「開戦まで三個護衛隊はほしいが……間に合うかだな」
古賀は天龍の長官室でそう呟いた。今は二個護衛隊が戦列化されている。
「ま、言っても仕方ない。とりあえず蒼龍のところに行くか」
古賀はそう呟いて副官を伴い第二航空戦隊司令官山口多聞を訪ねた。
「これはこれは古賀長官(手当たり次第の古賀長官が来たという事は何かあるな)」
「急に済まないな山口。お前と話があってな、あぁ人払いを頼む」
山口はそう思いながら古賀を出迎えた。
「分かりました。おい、二人きりにさせてくれ」
山口はそう言って従兵を下がらせて部屋に残るのは古賀と山口だけであった。
「実はな山口、もう大分気付いていると思うが対米戦が近づいている」
「……やはり戦になりますか?」
「なる。少なくとも十二月くらいには開戦となるだろうな」
「そうですか、部下を死地に送らせるのは何とも言えませんな……」
山口はそう言って溜め息を吐いた。
「うむ、それでお前には是非とも死なないでもらいたい」
「……どういう意味でしょうか?」
「そのままの意味だ。お前の性格だと先走って直ぐに死のうとする。お前に死なれては困るんだ」
「ですが、私が例え戦死したとしても後から続く者がやってくれます!!」
「それはムリダナ(・×・)」
古賀は思わずネタを言ったが気にしない。
「どういう事ですか?」
「今の日本に余力なんて物はない。パイロットも少数精鋭だ。山本や源田の大馬鹿野郎どもが戦闘機無用論を唱えて戦闘機パイロットを削減するから数が足りん。消耗戦に巻き込まれたらパイロットはすぐいなくなる」
「………」
古賀の思わぬ罵倒に少し驚きつつも頭が良い山口は脳をフル回転させる。
「ならばじり貧せぬために短期決戦を……」
「それこそムリダナ(・×・)倒してもアメリカは工業力に物を言わせて聯合艦隊を三セットくらいは揃えるぞ」
「では……」
「だからこそお前に無駄死にをしてほしくない。良いか山口? 例え蒼龍や飛龍を沈められようとしても艦と運命を共にするな、俺から言わしてみれば現実から目を逸らすような行為だ。生きて生きて生きまくれ!!」
「………」
山口は古賀の言葉に答える事はできなかった。古賀はそれでも諦めずに山口が出撃するまで五回も面会をして時には茶を飲んだりして無駄死にするのを止めさせようとした。
「……山口に上手く伝わっただろうか」
古賀は日付を見ながら呟いた。その日は十一月二二日、南雲中将の第一航空艦隊が択捉島の単冠湾に集結していた。
「どうせ戦果は同じだろ」
十二月一日、御前会議が開かれ対米宣戦布告が決定された。翌日の十二月二日1730時、大本営より第一航空艦隊に対して『ニイタカヤマノボレ一二〇八』の暗号電文が発信された。
そして日本時間の十二月八日0130時、第一航空艦隊から淵田中佐率いる第一波攻撃隊一八九機が発艦、0245時には嶋崎少佐率いる第二波攻撃隊一七一機が発艦した。
0319時、第一波攻撃隊は真珠湾上空に到達。淵田中佐機は各機に「全軍突撃」を意味するト連送を発信して0322時に淵田中佐機は旗艦赤城にトラ連送「トラ・トラ・トラ」を打電した。
そして真珠湾に停泊していた米太平洋艦隊は大打撃を与えられ、大東亜戦争が勃発するのであった。
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