使えないプロローグ
「よし、ヨハネさんや。ここで一つハッキリさせよう」
薄暗く切れかけた灯りがチカチカする、そこそこの大きさの部屋の中に声が響く。少し高いが男性のものだろう。
切羽詰まっているのか、その声はどこか緊張している。
そのまましばらく返事はなく、古ぼけた照明から聞こえるブーンという音と、壊れかけの時計が時を刻む音だけが聞こえる。
部屋には二人の人物が居た。一人は最初に声をかけた少年。狭い部屋の中、少し傾いたソファをのぞき込む少年の頬は少し引き攣っている。
その少年の視線の先には、ソファに寝転がり、ほつれが目立つ毛布に埋もれる少女が返事もせずにボーッと天井を見つめていた。
そして、どれほど待っただろうか。少年がしびれを切らし、もう一度声をかけようとした──その時。
「……」
「なんか言えよ!」
少女が口をあけ、何かを口にするかと身構えた少年は、何かのコントのように盛大にズッコケる。
だが、少女はそんな光景には微塵も興味を持つことなく、天井を眺め続けている。
再び、照明と時計が音を奏でるだけの世界に放り込まれた少年は、少女が何かを言わないかを待ちながらも考える。
(やつは何がなんでもこっちが折れるのを待つはず……つまり、このままだとこちらの敗北は決定的──ここは、なんでもいいから仕掛け続けるしかない──ッ!)
結論に至った少年は、スっと立ち上がりソファの前に舞い戻る。その表情はまるで、戦前の武士のように厳しい。
その様子が少し気になったのか、ピクリと少女は反応し、視線だけをこちらに向ける。
意図したわけではないだろうが、その視線はまるで睨むようなものとなり、少年は萎縮してしまう。折角の覚悟もかたなしである。
だが、少年はそこではめげずに気を持ち直すと意を決し口を開く。
「ヨハネさん?こっちが下手に出てればガン無視してくれちゃって、舐めてます?舐めてますよね?ねぇ?」
凄くウザイの一言に尽きるような、顔をしながら少女に迫る少年。
だがしかし、少女はなんだ、そんな事かという表情をすると、再び天井を眺め始める。
それを見てさらにカチンときたのだろう、少年は右手を振りかぶり少女に襲いかかる。
「えぇい!ならば喰らえッ!属性──愚者より引用!『子供は風の子、げん──」
「最終審判──『制裁』」
少年が言い切る前に、少女が技名のようなものを唱え切る。
その途端、少年は何かに叩き潰されたかのように床に倒れ、そのまま床を巻き込み部屋に大穴を空けたのだった。
──こうして世界の大穴事件が始まったのである。