青色奏黒の少女
歌しか縋るものが無かった少女。
大切で大好きな者を亡くした少女は、
家族にも心を閉ざし、自身を責め、
一人になった。
自ら進んで独りになった。
そんな少女は、大切で大好きな者が好きだった歌に縋り、
歌と共に自身を縛る。
初めは小さな場所で、
少女の歌声は他者を魅了した。
けれど少女の心は他者の評価と共に重みを増していく。
そんな日々が続いたある日、
少女に転機は訪れた。
始まりがどうだったのかはもう覚えては居ない。
多分、大きく優しそうな中年男性に唐突に声をかけられたのが、
始まりだったのかもしれないけれど。
そうして少女は様々な人に出会う。
鋭そうな女性と出会い、
優しい男性と出会う。
春の陽気のように暖かな少女と出会い、
真っ直ぐで固い意思のある青年と出会う。
気付けば――少女は自身を縛る事をやめて、
心の其処から笑えるようになっていた。
ここまで来るまでに幾度と無く辛い事や悲しい事を経験したけれど、
今の少女はそれすらも思い出に出来ているようだった。
そんな少女を見て誰かが言った。
「薄情者だ、
売名行為だ」
もっと惨い言葉もたくさん言われているだろう。
それでも――
なんと言われても少女は凛と前を向いて口を開き、
言葉と歌を人に伝えていく。
自身を縛るためでは無く、
自らの意思で、自らの想いで。
そして。
彼女の歌声は幸せを運ぶ青い鳥のように優しく、
森の奥で目覚めた眠り姫に意志を決意させるように強く、
大切に誓った約束を守り果たすように静かに熱意を帯びたものとなって、
様々な人のところへと届くようになった。
これは、優しい少女の物語。
そしてこれからも続く約束の物語。
今日も少女は青々とした空を見て、
楽しそうに仲間達と共に仕事へ向かう。
【終わり】