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血煙旅記  作者: 黒洋恵生
兄御前編
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【第四十八話】渡された表情






「堂林……!」


 白臣の後ろに堂林が立っていたのだ。彼女は瞬時に堂林に向き直ると、真っ直ぐ睨み上げた。 


「お前、何しに来た……!」

「別にてめぇには関係ねぇだろ、女ァ。あの胡散(うさん)くせぇ狐に()められるなんざ、どこまで堕ちるつもりだァ、宗志」

「……うるせぇ」

「骨抜けが。鬼の呪いが進んでやがる。異常な速度で、な」

「そんな……! なんで……!」


 思わず悲痛な声 を白臣が漏らすと、堂林は面倒くさそうに舌打ちをする。


「宗志、てめぇあの悠牙って奴に渡されたもんは(いまし)だ」


 堂林は宗志目や耳を通しての見たり、聞いたりできるということを白臣は思い出していた。だから悠牙を運んだことも、自分達がここにいることも分かったのであろうと彼女は理解する。


「汝とは……?」

「……汝っつうのは(なばり)と同様、伝説の産物と言われていたもんだ」

「その……隠というのは……?」

「そんなことも知らねぇのか、女ァ。隠というのは妖怪の混血児の力を限りなく妖怪に近づけることができるそうだ。……確かあの三つ目の野郎の手の中にあるそうだ。何を企んでやがるのか……手放そうとしねぇらしいぜ。血が流れてもな」

「瀬崎さんが……?」


 面白そうに堂林は口元を()り上げ喉を鳴らして笑った。


「隠を欲しがる奴等は多い。あれさえあれば下手すりゃ強大な力を得ることができるからな。そして汝は、怨念等で失われた妖怪の混血児の力を取り戻す力がある。一時的なもんだがなァ」

「じゃあ宗志はまた翼が出せなくなってしまった、ということなのか?」


 その問いに答える代わりに堂林は鼻で笑う。恐らくそれは肯定の意味であろう、と白臣は彼の(さげす)んだ表情や現状が全てを物語っているように感じていた。

 堂林は宗志を()める様に見ると、喉の奥を鳴らして笑い口を開く。


「しかも(いまし)は一時的に力を取り戻す代わりに呪いの進度を速めちまうそうだ」

「そんな……! でも、この島には巫女や呪陰(じゅかげ)がいるかもしれないって――」

「あの胡散(うさん)くせぇ狐が出任せを言ってなければの話だがな。ま、俺には関係ねぇこった」


 (あざ)るような笑い声を漏らし堂林は二人に背を向ける。その背に向かって白臣は思わず声を掛けた。


「お前は何しにここに来たんだ……?」

「……てめぇらにいちいち教える義理なんざねぇよ」


 ククッと喉の奥を鳴らす様な笑い声を残し、堂林は消える様に二人は去っていった。白臣は首を傾げた後、宗志へと視線を戻す。


「とりあえず、何処かの空き家にお邪魔(じゃま)しよう。休憩してからこれからどうするか考えるとしよう」


 力なく頷いた宗志に白臣は肩を貸してやり、そっと支えてやる。そして二人足取りを合わせるようにして、ゆっくりとした歩みで近くの家に入っていったのだった。





「ねぇ、宗志。何か聞こえない……?」

「泣き声か……?」


 二人はあれから空き家に入ると、そのまま眠り込んでしまっていたのだ。普段眠る時も人目を気にしなければならず、那智組を警戒しなければならないので、ある意味この島は休息を取るにはうってつけではあったのである。

 そしてふと白臣は啜り泣く子供の声に目を覚ました。雨戸から柔らかい月の光が注がれており、夜になってしまっていることが分かる。そんな月夜に泣き声が小さく響いていたのであった。

 不思議そうに彼女が首を傾げた時、隣で寝ていた宗志ものっそりと起き上がる。彼女は雨戸から見える月を見上げてから口を開く。


「何処かで誰かが泣いてるのかな……?」

「かもしれねぇな」

「ちょっと僕、外見てくる」

「おい」


 立ち上がった白臣に、宗志も溜め息をついて立ち上がった。彼女は待ってるよう言うが、宗志は面倒くさそうに首を振る。


「何が居るか分かんねぇんだ、この島は。一人で動かねぇ方がいい」

「でも宗志はもう少し休んでた方がいいよ。もしかしたらまだこの島には人がいるのかも。ここに住んでる人だったら呪陰のことも何か知ってるかもしれないだろう。僕はちょっと見てくるだけだから」

「……なら俺も行く」

「だから君は休んだ方がいいって」

「もう充分寝た。夜の散歩ぐれぇどうってことねぇだろ」


 そう言った時には既に、宗志は戸に手を掛けていた。白臣は納得いかない表情をしつつもその背を追いかけたのだった。

 二人は泣き声を頼りに足を進めていく。その泣き声は風が木々を揺らしてしまえば聞こえなくなってしまうほどのか細いものだった。それでも進んでいくうちに徐々にその泣き声は大きくなっていく。それと共に白臣の胸で(うず)く不安が膨らんでいく。

 そして森の中の道を抜けた所に寺の様な作りの大きな建物があった。それはとても年季を感じさせる風貌(ふうぼう)で、所々(こけ)がびっしりと生えている部分もある。だが立派な造りの建物だった。

 二人は巨大な門を通り、また少し行くと先ほどの門よりも小さな門が現れる。その門を通ると広場に出た。そしてその広場の真ん中の奥の方には寺院のような建物、そしてそれの前には巨大で立派な大木があったのだ。

 そこに泣き声の主がいたのである。


「雪ちゃん!」


 思わず白臣はそう叫ぶと雪に駆け寄った。その後を宗志が続く。

 その大木まで来ると白臣は顔を(ゆが)める。雪の両手両足には太い釘が打ち込まれており(はりつけ)にされていたのだ。手足から流れている血は大木を伝い地面に染み込んでいる。

 白臣がその釘を抜こうとするものの、その釘はびくともしない。宗志が抜こうとしても同じ結果である。

 どうにかして釘を引き抜こうとしている白臣達を雪は泣き腫らした目で見た。


「はきゅとそうち……?」

「うん。今外してあげるからね」

「……無理だよぉ……。このくぎは、はきゅ達にはぬけないよぉ……」

「……どういうこと?」

「ゆうが兄さまより、しっぽが多くないと、ダメなんだよぉ……」


 雪の言葉に二人の脳内にあの細い目の男の姿が浮かんだ。白臣は険しい顔を浮かべ、宗志は眉間に(しわ)を深く刻む。雪は弱々しい言葉で続けた。


「ゆうが兄さまは……とてもこわい、人なの……。だから……父様(ととさま)に――」

「そ。力を封印されちゃったんだ」


 突如響いた薄気味悪い声。声の主が誰か白臣が理解する前に。彼女は宗志に抱えられ声の主との距離が開いていた。

 (はりつけ)にされた雪の前には悠牙が立っていたのだ。彼は口元を吊り上げ、口を開く。


「父上は僕の才能が怖かったんだ。妖狐族の(おさ)の座を奪われることを恐れてたんだろうね。だから僕のことが邪魔だったんだ。僕の意見にはことごとく反対しやがった」

「あたり前だよ……っ! 父様(ととさま)は……よわい者いじめ、きらいだったから……っ! ゆうが兄さまにふういんじゅつを使ったんだよっ!」

「ねぇねぇ、人間と共存とか馬鹿げてると思わないかい? 天狗くんはどう思う? なのに父上は人間と共存しようとしていたんだ。それで結局人間に裏切られて、妖狐族はこのザマじゃない。僕は前々から人間は皆殺しにするべきだって言ってたのに」


 歪んだ(えみ)を浮かべて、悠牙は視線を宗志達から彼の後ろにある大木に磔にされている雪へと視線を向けた。雪の顔は彼に視線が注がれると更に恐怖で強ばってしまう。


「お前の顔を見るとイライラするんだよね。甘ったれの母親と兄上にそっくりでさ」

「……ゆうが兄、さまは間違ってるよ……っ!」

「は?」


 数度下がった冷たい悠牙の声。雪の口から血が吹き出る。彼の拳は雪の無防備な腹へと撃ち込まれたのだ。その衝撃でミキミキと音を立てた大木は大きく抉れたようにへこんでしまう。雪は苦しそうに咳き込んでいる。

 咄嗟に刀に手を掛け踏み込もうとした白臣を宗志は制止した。ぎろり、と射殺されてしまいそうなほどの視線を悠牙が二人に向けていたからだ。踏み込んだら最後、どちらかが死ぬまで終わらない斬り合いが始まってしまう、そんなことを告げているかのように殺気の(こも)った視線だった。

 無表情で二人に目を向けていた悠牙は、ゆっくり雪へと向き直る。そしてすぐ薄ら笑いを浮かべた。


「お兄さんをあまり怒らせないでくれるかな? 雪があまりにも馬鹿なこと言うから、思わずお仕置きしちゃったじゃない。大事な聖木を折っちゃうとこだったよ」

「……っ、痛いよぉ……」

「そりゃお仕置きだからね」

「……オレは、強いゆうが兄さまが……あこがれだったのにぃ……。なんで……っ? なんであの時、母様(かかさま)といずみ兄さまをおそったの……っ?」

「ああ、あの時ね。僕は父上が僕の意見を頭ごなしに否定するのは、僕が弱いからなのかなって思ったんだよね。若かったなあ。だから母上と兄上の手首を斬り落としてやったんだ」


 恍惚(こうこつ)とした表情で悠牙は遠い目をする。そしてにったりと口を開く。


「四尾の僕が五尾の母上と六尾の兄上から手首をもぎ取ったんだ。充分な強さの証明だろう。そうすれば父上に一人前の妖狐として認めて貰えると思ってた。なのに……!」


 怒りを(はら)んだ悠牙の声は大木の枝葉を揺らす。離れている宗志と白臣の鼓膜(こまく)を大きく揺らしてしまうほどのものだった。


「父上は……! 僕の力に制限をかけたんだ! 七尾までしかなれないように僕の力を封印したんだ……! あの日の屈辱(くつじょく)は何百年経っても風化しない……! しかも父上(あいつ)が死んでもその封印は解けることはなかった。でも……」


 にんまりと悠牙は大きく口元を吊り上げた。そして雪の頬をねっとりと撫でた。雪は恐怖のあまりに目を見開き、幼い顔は歪んでしまっている。


「今夜、今ここで封印は解かれる。……可愛い弟のおかげでね」

「なっ……なに、するの……っ……」

「……何すると思う? もうお前には充分すぎるほど月の光を浴びせたし、聖木の力も充分吸収しただろう。お兄さんにくれないかなあ? ……お前の生き血」

「雪ちゃん……!」

「ハク!」


 悠牙が雪の首に噛み付いたのだ。雪の小さな口からは弱々しい声が漏れる。

 そんな状態で思わず白臣は地を蹴っていた。宗志の制止も聞かずに。

 白臣は悠牙の無防備な背中に斬りかかった。振り上げられた刀が振り下ろされそうになった瞬間。短い口笛が響いた。

 その口笛が終わるのとほぼ同時。空間が揺れる程の音が響いたのだ。それは土砂降りの雨が、世界を叩き鳴らす様な音だった。だがそれは音というよりも別の何かと言った方が相応しいものともいえる。鼓膜を揺らす前に脳を直接揺さぶられている感覚。

 そんな言葉に表す事が難しい感覚が二人を襲った時。

 白臣の体の勢いが見えない壁にぶつかったかのように止まったかと思うと、そのまま後方に弾き飛ばされてしまったのだ。そんな彼女を宗志は片手で受け止め支えてやる。

 音を立てて雪の血を(すす)っていた悠牙は、面倒くさそうに振り返って口を手の甲で拭った。


「何? 邪魔する気? もう君達は用無しだよ。天狗くん、さっさとその薬、飲んで帰りなよ。呪い進んじゃうかもしれないけど」

「お前……それ分かってて宗志に……!」

「だってしょうがないじゃない。天狗くんに運んで貰わなきゃならなかったんだしさ。僕だって君達を騙すようなことしたくなかったよ?」


 わざとらしく申し訳なさそうな顔をする悠牙に白臣は鋭い視線を飛ばした。悠牙は面倒くさそうに舌打ちする。


「ほら、とっとと消えろよ。今すぐ帰らないと、殺しちゃおっかな」


 悠牙がけらけらと笑い声を上げると同時。二人を七つの狐火が取り囲んだかと思うと、それは人形となりそして悠牙の姿へと変わったのだ。


「……堂林(あいつ)が使った術とは違げぇみてぇだな」


 周りを取り囲む分身に殺気を放ちながら宗志は呟いた。なぜなら分身達の手には武器などもなく、腰に刀を差してさえもいなかったからだ。

 白臣は刀を抜きながら宗志と背中合わせの体勢をとる。


「それって堂林凌は八尾、悠牙(あいつ)は七尾の妖狐だからか」

「……かもしれねぇ」

「ごちゃごちゃうるさいなあ。僕は食事に戻るとするよ。分身達(おまえたち)、殺っちゃいな」


 そう言って悠牙は二人に背を向けて雪に向き直ると、再び雪の首筋の傷に口をつけ血を啜り始めた。雪の口からは弱々しい声が漏れている。


「宗志! はやくなんとかしないと……!」

「分かってる!」


 その時。分身達が飛びかかってきた。白臣は攻撃を横に(さば)く。そしてその無防備な腹を斬り裂き両断する。両断された分身は紫色の炎となり消えてしまう。

 宗志に飛びかかってきた敵。彼はそれを軽々と背負なげ急所に刀を突き刺す。間髪を入れず分身の横から回し蹴り。

 それを軽々と飛び上がって(かわ)す。そして死角に入ると刀で腹を貫く。そのまま両断する。

 白臣に真っ直ぐと向かってきた分身。一瞬で距離は無となる。刀を持つ腕をとられ(ひね)りあげられてしまったと思った瞬間。


「……ッ!」


 首根を掴まれたかと思うとそのまま地面に叩きつけられる。その衝撃で刀は転がってしまう。

 次に来るであろう攻撃に白臣が身を固くした時。地面に彼女を抑えつけていた分身の力が抜ける。いや力が抜けていたのではない。消えていたのだ。

 状況を把握出来ないまま転がっている刀を白臣は掴み、立ち上がった。見回すと分身達は一人残らず消えている。恐らく宗志が全て倒してくれたのだろう、と彼女は理解する。自分の不甲斐なさに唇を噛んだ。

 悠牙はまだ背を向け雪の首筋に口をつけている。二人が顔を見合わせ踏み込もうとした時だ。二人の間を疾風(しっぷう)が駆け抜けた。とてつもない殺気と共に。


「やだなあ、堂林くん。君もこの島に来てたんだ」


 瞬時に悠牙は雪の側から離れていた。堂林は雪の前に立つと、にんまりと笑う悠牙に今にも噛み殺しそうな眼光で刺す。彼の手には金色の太い尾が一本あった。悠牙のものである。彼はもう片方の手で雪に打たれた釘を抜くと、ぐったりとしてしまっている雪を片手で抱き抱えた。

 堂林の殺気に恐れの色一つ見せず、相変わらずの(えみ)を浮かべながら悠牙は口を開く。


「あーあ、僕の尻尾られちゃった。まっおあいこだね」


 悠牙の手には銀色の尾があったのだ。それは堂林のものである。いつもぎ取ったのか、その場にいる者誰一人として目で捉えることが出来なかったのだ。忌々しそうに舌打ちをする堂林に、彼は人差し指を立てて、口元を吊り上げた。


「これで、君は七尾で僕は六尾……って、なると思った?」


 予想外の出来事に堂林は目をすっと見開いた。悠牙の千切れてしまった尾がみるみる再生し始めたのである。そして何事も無かったかのように、もと通りの七尾の妖狐(ようこ)となったのだ。

 彼は手に持っていた堂林の銀色の尾を放ると、にんまりと口を吊り上げ、わざとらしく首を傾げて見せた。


「あれれぇー? おかしいぞぉ? 堂林くんのは再生しないのかな?」

「……」

「そうだった、そうだった。君は人間の穢れた血が混じってるんだっけかぁ。なるほどぉー」


 細い目を更に細めて悠牙は笑う。堂林は苛立たしげに舌打ちをした。彼の尾が再生するまでには半日必要なのである。

 悠牙は笑いが収まらないようで腹を抱えて笑う。その笑い声に合わせるようにして、彼の金色の髪はふわりふわりと動く。


「しかもね可愛い弟のおかげで、僕の封印は解かれちゃったんだよねぇ」


 その言葉と共に悠牙にふさふさの金色の尾が更にもう一本生えてしまったのだ。彼は八本目の尾を慈しむ様に撫でると、数段低い声で言う。


「さて。弟を渡してもらえる?」

「……てめぇ、何する気だ」

「何って食事の続きさ。純血の妖狐の血を飲むと、妖力が上がるんだ。数十年修行するのと匹敵するぐらいの」

「……こいつは俺のもんだ。人のもんに手を出すならそれなりのやり方ってもんがあるだろ、なァ?」

「ふうん。君は七尾の出来損ない、僕は八尾で純血の妖狐。勝ち目あると思ってるの?」


 悠牙の殺気が一層濃くなった瞬間。八つの狐火が現れたのだ。それは宗志達や堂林を大きく囲むように灯っている。色褪(いろあ)せた(すみれ)の様な色をした狐火は人形へと形を変えて、やがて悠牙の姿となった。

 その分身達の手には刀と巨大な手裏剣のような物がある。それは、まともに食らってしまえば大人一人の腹を易々と両断出来てしまうであろう、と思われるほどの大きさであった。


「別に僕は手荒な真似はしたくないんだ。君達みたいな虫けらの命なんてどーでもいいからね。最後にもう一度だけ聞くよ。……弟を渡してくれる?」


 その瞬間。堂林は一気に間合いを詰める。腹を斬り裂こうと水平に振られる刀。それを悠牙は刀を縦にして受け止める。火花が散る。

 二人は同時に間合いを取った。そんな時、堂林の腕の中から弱々しい声がする。


「どう、……ばやち様? たすけに、来て……くれたんです、か……?」

「さあな」


 視線を悠牙に向けたまま、素っ気なく堂林はそう返した。悠牙は面倒くさそうに舌打ちする。


「つまり、それが君の答えってことね。本当は今すぐにでも殺してやりたいぐらいだけど……ちょっと僕、眠くなっちゃった。こいつら殺すのぐらい分身達(きみたち)、で事足りるよね? 分身達(きみたち)、僕の代わりに殺っちゃってぇ。……弟は生け捕りでよろしくー」


 じゃあそういうことで、と悠牙は手の平をひらひら振ると風と共に消えるようにいなくなった。

 四人を囲む分身の輪はじりじりと小さくなっていく。堂林は腹立たしげに舌打ちすると、抱えていた雪を白臣達の方へ放り投げた。それを彼女は刀を鞘に納め受け止める。そしてそのまま雪を抱きかかえる。


「おい、宗志。分身達(そいつら)(そいつ)は任せた。せいぜぇ死なねぇように頑張るこった。(そいつ)を死なせんじゃねぇぞ。……てめぇと違って利用価値があるんだからよォ」

「てめぇはどうすんだよ」

「俺は元を断ちに行く。あの狐を地獄に叩き落としてやらァ……!」


 殺気を含んだその声を残し、堂林もその場から消えていた。宗志は頭をくしゃくしゃと()くと溜め息つく。


「あの野郎……めんどくせぇ事を押し付けやがって」



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