【第四十七話】純血を凝らす
男は吊り目気味の細い目をすっと見開いた。流れていく風が彼の眩しい程に金色の髪を弄ぶ。その男の視線から逃げるように、雪は堂林の背に隠れてしまっていた。彼の背に雪の震えが伝わってくる。
堂林は刀に手をかけたまま口を開く。
「答えになってねぇだろうが。てめぇは何もんだって聞いてんだ」
「僕は純血の妖狐で……って、雪。隠れてないで僕のこと堂林くんに紹介してよ」
雪は恐る恐る堂林の背から顔を出すがその男と目が合うと、びくりと体を震わせてまた背に隠れてしまう。そして震える声で呟いた。
「悠牙にい様……」
「兄様ァ?」
怪訝そうに堂林は眉間の皺を深くする。言われてみれば目の前の悠牙という男の髪や、七本の尾や尖った耳は雪のそれと全く同じ色である。だが顔立ちはまん丸の目の雪に対し、悠牙という男の目は細い吊り目気味の目なのだが。
とはいえ雪の兄と言われれば分からなくもない、悠牙とはそんな男だった。
「そ。僕の名は悠牙。見ての通り七尾の妖狐さ」
「……妖狐族は滅んだんじゃねぇのか」
「やだなあ、雪。堂林くんにそんな事言ったの? 血の繋がった兄を勝手に殺さないでよ」
「し、しらないっ! オ、オレににい様なんていないもん……っ! ひ、人ちがいだよっ!」
「困った弟だなあ」
そう言った時には既に、雪は悠牙の脇に抱えられていた。堂林でさえ、その動きは目で捉えることが出来なかった程の速さである。
雪自身も何が起きているのか理解出来ていない様子であったがすぐに何が起きているのか分かると、じたばたと暴れだした。そして堂林に助けを求めるかのように小さな手を伸ばしている。その丸い目からはぼろぼろと涙が零れていた。
「はなしてっ……! やだ……やだよっ……! はなしてってば……!」
「こら。我が儘言って堂林くんを困らせないの。ありがとう、出来の悪い弟の面倒を見てくれて」
「はなしてっ……! やだ……やだ……っ! どうばやち様っ! たすけて……っ! やだよ、やだっ……!」
そんな雪の涙声を残して。二人は堂林の前から消えていた。辺りは静まり返っており、先ほどのやり取りは夢だったのではないかと思えてしまうほどである。
だが悠牙が立っていた場所には、雪の涙が描いた斑点が残っていた。
そして。雪の泣き顔は、泣き声は、堂林が無理やり閉ざしていた記憶と憎らしいほど似ていた。いやもはや、同じであった。
「胸糞悪りぃ……」
忌々しげに堂林は舌打ちをする。そして全て忘れてしまおうとするかの様に、縁側に横になった。
だが、いつまでも耳の奥で雪の泣き声は響いている。そして目を閉じると更に雪の泣き顔は鮮やかに浮かび上がってしまうのだった。
「宗志ー! すごいよ! こんなに広いんだねっ!」
「ああ、海だからな」
「すごい、水がしょっぱい!」
「ああ、海だからな」
宗志と白臣達が紫峨の屋敷を出てから一週間は経った。二人は土岐以外に呪陰がいないのか、鬼の呪いを解ける人はいないのか情報を集めながら神庫国を目指していたのである。
時折休憩を取ったり、情報を集めながら歩いていたので、二人の旅の進度はゆっくりとしたものだった。
あれから特に宗志は自分の心情を語ることは特になかったが、明らかに宗志が〝生きる〟ことに前向きになってくれたような気が白臣にはしていたのである。以前よりも彼の自らへの憎しみが和らいだと白臣は感じ取ったのだった。
節々で垣間見えた、自らを蔑ろにした言動が明らかになくなったのだ。そんな些細な宗志の変化が、白臣にはただただ嬉しかったのである。それだけで胸がじんわりと温かくなった。
そして今、二人は海にいる。海の近くまで来た時に、白臣があまりにも目を輝かせるため少し早いが休憩を取ることにしたのだ。宗志は砂浜にある流木に腰を下ろし、足を浸してはしゃいでいる彼女の様子をぼんやりと見ていた。
「おい、あまり遠くに行くなよ。急に深くなることだってあんだから」
「分かってるー!」
「ほんとに分かってんのか……」
「宗志もおいでよ!」
「……俺はいい」
あまりの白臣のはしゃぎっぷりに、宗志は口元が自然と緩む。彼女は生まれてこの方海を見たことがないらしく、海に足を浸して楽しそうな声を上げたかと思えば、幼子のように砂浜を走り回ったり、貝殻を集めて並べたり。
そしてまたそれに飽きたのか再び足を海に浸してはしゃぎ回っている。
「転ぶなよ」
「うわ……っ!」
「おい!」
宗志が言っているそばから盛大に白臣転んだ。幸い波もそこまで強くは無かったので大事にはいたらないが、頭から爪の先までびっしょりと濡れてしまっている。
呆れたような顔して宗志は白臣に歩み寄る。彼女は少し気恥しそうに笑った後、不思議そうな顔をした。その視線は宗志の後ろ側に向いている。怪訝そうな顔をして彼は振り返った。
そこにはいつからいたのだろうか、男が立っていた。彼のふわふわとした髪は眩しいほどの金色で、良質な絹糸のようだった。そして同じ色の尖った耳に、七本の尾が生えている。彼は誰かを背負っているようだった。
男は細い吊り目気味の目をさらに細くして、人懐っこい笑を浮かべる。
「やあ、どうも。妖しい者だけど怪しい者じゃないよ。ちょっと僕、君にお願いがあるんだ」
「……名は」
「悠牙。純血の妖狐なんだ」
白臣は立ち上がっり犬の様にふるふると頭を振って水を飛ばしてから、宗志の傍に寄って行った。
「純血の妖狐って……確か雪ちゃんも純血の妖狐だったよね?」
「……確か」
「なんだ君達、雪の知り合いかい? なら話が早いな。僕と雪は血の繋がった兄弟なんだ」
ほら、と悠牙は自らの背におぶさっている雪の姿を見せた。雪は瞼を固く閉じ、眠り込んでしまっているようだ。
「あれ、雪ちゃんって堂林という男と一緒にいたような……」
「そうそう。なんだ君達、堂林くんとも知り合いなのか。彼は雪の面倒を見てくれてたんだよね。雪も彼にだいぶ懐いてたし、お兄さん妬いちゃうなあ」
「……で、お前は俺達に何の用なんだ」
「君達っていうか、君にお願いがあるんだ。まあ、ここで話すのもあれだし少し座らない? 彼もびしょびしょのままだと風邪ひいちゃうし」
悠牙は白臣にちらりと目をやってそう言う。宗志は眉間の皺を深くし、白臣は不思議そうに首を傾げたのだった。
砂浜から少し離れた場所まで来ると、悠牙はせっせと乾いた木を集め始める。彼が動く度に金色の髪がふわりふわりと動く。そして彼は手から紫色の炎を灯すと、その火を木に移して手際良く焚き火を作った。
そして悠牙は宗志達を手招きをすると、どかりと胡座をかき、雪の頭を自らの膝の上に乗せ寝かせてやる。
「君、寒いでしょ。火に当たるといいよ」
「ありがとうございます」
ぺこりと白臣は頭を下げると、おずおずと腰を下ろした。そして宗志もその隣に腰を下ろす。そして懐から手ぬぐいを取り出すと白臣の頭に被せ、わしゃわしゃと動かした。
「……自分でやるっ」
「ん」
そして宗志は白臣から悠牙という男に視線を移した。そして紫色に燃える火に木を放るようにくべながら、すっと目を細めて悠牙の顔を見る。
「で、俺に何の用だよ」
「君からは天狗の匂いがぷんぷんする。天狗の……純血にしては人間臭いから、混血児辺りかな?」
「……だから何だよ」
「君が天狗なら、空を飛べるんだろう? 僕と雪はある島に行きたいんだ」
「島?」
そ、と悠牙は返事をする。そして瞼を閉じている雪に視線を落として言葉を続けた。
「僕らが行きたいのは狐茅渟島。僕らが生まれ育った島なんだ。ほら、あそこ。遠くにあるから見えないだろうけど」
悠牙の指を指す方向に宗志と白臣は顔を向けた。悠牙が言うには水平線の先にその島があるらしい。彼はにんまりとした笑顔を曇らせ、声の調子を落として言葉を続けた。
「昔、狐茅渟島には妖狐がたくさん住んでたんだ。というよりも、妖狐の殆どがあの島で暮らしてた。……でも、みんな殺されたんだ。人間にね。だから僕と雪は妖狐族の生き残りってわけ」
「そうだったんですか……」
「……それでお前らをあの島に連れて行けって言いてぇのか」
「そ。物分りがいいねぇ。僕と雪はちょっといろいろな事情で離れ離れになっていてね。やっとのことで再会できたってわけ。それで二人静かに暮らすのには故郷の島がうってつけかなって」
悠牙はそこで一端言葉を切った。そして困ったように眉を下げる。
「実はあの島の周りの海は渦が多発していてね。舟じゃ近づけないんだ。八尾だと水面を歩けるから問題ないんだけど……、僕七尾だし」
「島に行くには空から行くしかねぇってこと、か」
「でも……宗志は……」
白臣は躊躇いがちに宗志に視線をやってから、簡単に彼の事情を、ぽつりぽつりと話した。鬼の怨念のせいで翼を出すことが出来なくなってしまったこと、そしてその怨念は彼の命を少しづつ蝕んでいること。その怨念を解けるのは那智組の大将である土岐という男しかいないということ。彼女の話を悠牙は神妙な顔をして聞いていた。
そして白臣の話が終わると、悠牙は何故か晴れ晴れとした顔で笑う。
「なーんだ、そんなことか。どうりで君、天狗の匂いと人間の匂いの中に鬼の匂いが混じってたのか。僕、怨念解ける人も知ってるし、いいもの持ってるよ」
「ほんとですか!?」
ごそごそと自らの懐に手を入れる悠牙に、白臣は縋る様に見つめ、宗志は驚いたように目を見開く。そして悠牙が取り出したのは小さな巾着袋であった。彼はその中を取り出して見せる。
中には薄橙色の丸薬が三つ入っていたのだ。悠牙はそれを飲むようにと宗志に差し出した。だが彼はそれを受け取ろうとしない。
「ありゃりゃ、もしかして僕、信用されてない?」
「……逆にどうして信用されてるって思えんだ」
「確かに君の言う通りだね。んじゃ、こうすればいいかな?」
そう言うと悠牙は丸薬を一つひょいっと口の中に放り込んだ。そして口を閉じたかと思うと、また口を開けて宗志に見せつけた。
「苦っ……。ね、毒じゃないことは分かるでしょ。まあ呪いがかかってない僕が飲んだところで、なんにもならないんだけどさ。苦いだけ」
へらへらっと笑うと悠牙は二つの丸薬を再び宗志に差し出した。彼は少し考えた後、その丸薬を一つ指で摘み口へ運び、そのまま飲み込んだ。
その様子を白臣は心配そうに見つめ、悠牙は相変わらずにんまりとした笑を浮かべている。
「……特に何も変わらねぇけど」
「ところがどっとこい、君はもう翼が出せるようになってるんだよねぇ」
ほらほら、と悠牙は宗志を立つ様に促した。彼は促されるままゆっくりと立ち上がると数歩後ろへと下がる。そして。
宗志の背中に黒々とした立派な翼が生えたのである。その闇に溶けるほどに黒い彼の翼は、鬼の怨念で抜け落ちてしまったとは思えないほど、何事も無かったように彼の背にあったのだ。
それを見て白臣は心の底から安心したように笑を零す。そして悠牙に向き直って頭を下げた。
「ありがとうございます……! 本当にありがとうございます……!」
「礼を言われるような事じゃないよ。何てったって天狗くんに運んでもらわないとならないんだからさ、僕らは。でもその薬だけじゃ呪いは解けないよ。失われた妖怪の力を取り戻す力、呪いが体を蝕んでいく速さを遅くする力があるだけ。そこでね、一つ朗報があるんだ」
悠牙は人差し指を立てて白臣、そして宗志へと視線を注いでいった。そして紫色の炎に視線を移してから口を開く。
「狐茅渟島って、さっきも言った通り、普通の人間だと行くのが難しいんだ。なんてったって舟じゃいけないからね。だから人間に迫害された者達が、あの手この手を使ってあの島に渡り住んでるって噂だよ」
「つまり……?」
「つまりね、なんだっけ……巫女? あと呪陰だっけ? そういう人達が身を隠してる可能性もあるんじゃないのかなって」
「ほんとですか……?」
「たぶん、ね。僕もあの島に戻るのは何百年ぶりだしさ」
軽い口調で悠牙はそんなことを口にする。見た目は宗志と同じ年代の様には見えても、純血の妖怪なだけあって何百年も生きてるのだな、と白臣はなんとなく考えていた。
さて、と悠牙は焚き火に息を吹きかけて消す。紫色の炎は瞬く間に消える。そして彼は雪を再び背負うと立ち上がった。それに少し遅れて白臣も立ち上がる。
悠牙は首を回して細い目を更に細めて宗志に笑いかけた。
「ね、もう僕たちを運んでくれないかな」
「ああ、構わねぇが」
そう返すと宗志は白臣に目をやった。
「お前はどうする? そんな時間かからねぇと思うし、ここで待ってても構わねぇけど」
「行けるなら行きたいな。いくら空から探すことごできるって言ったって、島の中にいる呪陰を探すんだ。二人の方が時間かからないかもしれないし、都合がいいかもしれない」
「んじゃ決まりだね。三人一気に運ぶの大変へんかもしれないけど頑張って」
相変わらずへらへらとした笑を浮かべたまま悠牙はそんなことを言う。宗志は面倒くさそうに首の骨をポキポキと鳴らし、白臣に背を向けてからちらりと視線をやる。
「ハク、背中にしがみつけ」
「うん、分かった」
白臣はおずおずと宗志に近づき、少し屈んでいる彼の肩に手をかけてそのまましがみつく。
「おい、雪落とさねぇように抱えてろよ」
そう言って宗志は白臣がしっかりとしがみついているかを確認すると、悠牙の手を掴み黒い翼を力強く羽ばたかせる。そしてそのまま一気に空へと飛び上がった。
ぐんぐん上昇していき、ある程度の高さまで登ると空中で止まる。思わず目を瞑ってしまっている白臣に宗志はちらっと視線をやり、彼女を背負い直す。そして遠くに見える狐茅渟島目指し、風を切り翼を羽ばたかせたのだった。
息がつまりそうなほどの異様な島の空気に宗志は眉間の皺を更に深くし、白臣は思わず息を飲む。彼らは狐茅渟島の小さな集落に降り立ったのだ。
その集落のいたるところに狐の尾と耳が生えた者達――妖狐が倒れていたのである。その尾の数はまちまちで、二本の者もいれば六本の者もいた。そして時折、七本、八本の尾を持つ者が倒れている。
彼らの中には酷く傷ついている者もおり、腕がない者や足がない者、首がない者さえいた。よくよく見れば傷が無いような者達も、急所に深い傷があるのが分かる。だが、どの者も血を流してはいないようであった。
白臣は慌てて近くに倒れている妖狐の少女の首に手を当てた。そして静かに首を振る。
「死んでる……」
「さっきも言ったじゃない。妖狐族は滅んだんだって。僕と雪は生き残りなんだって」
悠牙は特に何も思わないのか、飄々とそんなことを言う。彼が背負っている雪は相変わらず固く瞼を閉じ、眠っている様である。そして辺りを見回して、のんびりと言葉を続けた。
「純血の妖狐の肉体は死んでも腐らないんだ。一生そこにあり続ける。そして純血の妖狐の肉体は燃えない」
「……」
「それを知らなかったんだろうね、人間達はこの島に火を放ったんだ。この島は一週間燃え続けたらしいんだけど、この島の木も燃えることはないし、その木で作った家も燃えない。だから雨で鎮火してからはこんな状態なんだってさ。これ豆知識ねぇー」
どこか弾む様な口調で悠牙はそう言うと、あっ、と思い出したかのように懐に手を入れて巾着袋を取り出した。そしてそれを宗志へと差し出したのである。
「はい、どうぞ。この中にはさっきの丸薬が入ってるんだ。これ飲まないとたぶん帰れないと思うからさあ。んじゃ、そういうことで。じゃーね」
悠牙が手をひらひら振ったと思った時には既にもう二人の前から消えていた。なにか不自然さを感じさせる彼の言動に白臣が首を傾げた時。
「……ぅ……ッ……」
「宗志!」
突然訪れた宗志の異変に白臣は目を見開いた。彼の背に生えていた翼の羽根が、暴風に蹂躙された桜の花の様にバラバラと抜け落ち始めたのである。それと同時に翼からは赤黒い煙が上がり、瞬く間に彼の背から消えてしまったのだ。
それは以前あの村で起きた現象と全く同じであった。だが、今回の異変はそれだけでは無かったのである。
掠れた声が宗志の口から漏れ、彼は崩れるように膝を着くと激しく咳込んだのだ。そして彼が口元を手で抑えた時。黒い液体を吐き出し始めたのである。指の間からどろりと零れ落ちたその液体は地面を黒く染めていく。
白臣はしゃがみ込むと宗志の顔を心配そうに覗き込む。そして彼の背を摩る。白臣に出来ることはそんなことしか無かったのだ。
「宗志……宗志……! いったい何が……」
何が起こっているのか白臣にも宗志にも全く分からなかったのだ。彼女は苦しそうに黒い液体を吐き出し続けている宗志の背を摩ることしか出来ない自分がもどかしかった。
それでも彼の苦痛が少しでも安らげばという思い一心で手を止めようとはしなかったのである。
暫くそんな状態が続き、やっと宗志の咳が止まった。それでも彼は苦しそうに顔を歪め、時折歯の隙間から呻き声が漏れている。白臣は彼に肩を貸してやり、道の脇に生えていた大木に寄っていく。
そして宗志をゆっくりとその木に寄りかかせ、彼女も傍に座った。
「宗志、具合は……?」
「……少しは、ましになった」
「何か苦しい場所とかない……? 痛い場所とか……」
宗志は静かに首を振ったが、顔を歪めて腹を手で抑えている。白臣はその手をそっとどかし、着流しの合わせ目に手をかけ大きく開いた。
「なに、これ……」
思わずそんな言葉を白臣は漏らす。宗志の腹部には純血の鬼につけられた傷があった。他の傷は完治しても、その傷だけは癒え始めたと思えば、また開きを何度も繰り返し完全に癒えることはなっかった傷だった。
その傷に巻いている包帯からはみ出すように、黒い染みが広がっていったのである。その染みはじわじわと広がっていき、胸にかかるかかからないかというところで止まったのだ。
恐る恐る白臣がその染みを手で擦ってみても、消えることも薄れることもない。ぐったりとしてしまった宗志に、何をしてあげればいいのか白臣が不安そうな瞳で見つめながら思案した時。彼女の頭上から声がしたのだ。
「……ったく、狐につままれやがって。てめぇらの馬鹿さ加減には呆れてものも言えねぇ」




