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血煙旅記  作者: 黒洋恵生
妖狐編
30/69

【第二十六話】笑う狐火






「ほお、やるじゃねぇかァ。今のてめぇはいい(つら)してるぜ。ただの人斬りの面してらァ」


 肩を小さく揺らして笑った後、堂林は頬の傷をすっと撫でた。


「宗志、新しいもん見せてやるよ」


 その言葉と同時に宗志の周りを八つの狐火が取り囲んだ。その紫色の炎は大きくなり、人型へと形を変える。そしてそれは堂林の姿へと変わった。

 神経を尖らせながら、宗志は輪の外で笑みを浮かべている堂林に言い放つ。


「何が新しいもんだよ。ただの影分身じゃねぇか」

「……次期に分かるぜ」


 堂林が気味の悪い笑い声を上げると同時に、八体の分身が一斉に斬りかかった。

 その時。宗志は炎を身に(まと)う。視界を埋め尽くす赤々とした炎。その炎は斬りかかってきた分身へと移る。分身達は(ひる)んだように見えた、が。

 分身達を包む炎は紫色のものへと変わる。そしてすぐに消えてしまったのだ。苦々しく宗志は舌打ちをし、刀を目の前にいる分身へと向けた。

 そして瞬時に間合いを詰める。宗志の刀を分身は避けようとしない。分身の一体は大きく斬られてしまった。


「何……!?」


 驚きのあまり宗志は目を見開いた。宗志が確実に斬ったはずの分身。その分身の傷から紫色の炎が漏れたかと思うと、その炎が消えた時には完全に傷が治ってしまっていたのだ。

 堂林は愉快そうに喉を鳴らす。


「どうだァ、宗志。分身(こいつら)は俺より体がよくできてやがんだ。首を落とすか、心臓を貫かねぇと止められねぇぜ。てめぇには俺八人の相手は骨が折れるだろうよ。……一人でも首落とせたら褒めてやらァ」


 クククと堂林が笑う。その刹那。分身が一斉に宗志へと斬りかかったのだ。

 全方位から迫る刀。宗志はそれを(さば)き、躱す。そして一体の分身を斬りつける。しかし直ぐにその傷は癒えてしまった。

 宗志は分身達の刀を器用に躱す。そして目の前にいる分身を蹴り飛ばす。

 分身の体勢が崩れたその瞬間。宗志は分身達の輪から抜け出す。そして少し離れた場所で薄ら笑いを浮かべている堂林に迫った。

 が、しかし。分身の三体が二人の間に瞬時に入った。そして宗志に斬りかかってきたのだ。

 それを宗志は見事に対応する。一体の分身の胴を両断した。そして二人の分身の攻撃を間合いをとることによって回避する。


「とりあえず一体は殺ったか」


 分断された分身は紫色の炎へと変わり、消えて無くなってしまっている。宗志は周りにいる分身の動きに神経を尖らせた。やはり分身を全員斬り倒すしか勝機はなさそうである。

 少し離れた場所で宗志を眺めている堂林は満足気に笑った。


「さあ、もっと踊れ。踊り狂え。夜が明けるまで……な」


 宗志は苦々しく舌打ちをする。そして分身の一人に向かって斬りかかる。それを分身は慣れたように刀で受け止めた。瞬時に宗志は次の攻撃に移ろうとする。が、その刹那。


「……くそッ」


 刀を振り上げた宗志の腕が止まる。それには細い銀の尾が巻きついていた。後ろにいた分身の尾である。

 その隙を目の前にいる分身は見逃さない。渾身の一撃が宗志に振り下ろされる。


「ッ……ゔ……」


 月夜に血飛沫(ちしぶき)があがった。それと同時に宗志の腹部に激痛が走る。見ると腹からぬっと血に染まった銀の(やいば)が生えていた。後ろの分身に刺し貫かれたのだ。

 ゆっくりと刀が宗志の腹部から抜かれる。咄嗟に彼は手首に巻き付く銀の尾を、もう片方の手で掴み引きちぎった。そして守勢をとる。分身による一斉攻撃に備えるためだ。

 しかし、分身達は斬りかかってこない。宗志が不審に感じたその時。

 宗志の足首に銀の尾が巻き付いていたのだ。


「……ッ」


 体勢を崩す宗志。その分身は暴風のように彼を振り回す。そして投げ飛ばしたのだ。壁に叩きつけられた彼の口からは血が吹き出る。

 宗志はがっくりと膝を折った。だが直ぐに口元の血を拭いながら立ち上がる。


(分身(あいつら)全員を斬り倒してたら、こっちの身がもたねぇ……)


 どうにかして分身達を消す、あるいは動けなくする必要が宗志にはあった。彼は分身達を、そして分身達の後ろで口の端を吊り上げている堂林を睨み付けながら、(さく)を巡らせる。

 その時。分身三体が斬りかかってきたのだ。宗志は一体の分身の刀を身を翻して躱す。 

 もう一体の分身の刀を刀で受け止める。そしてそのまま押しきった。

 もう一体の分身の顔を狙った突きを、首を傾けて避ける。刃と頬の距離は紙一枚分だ。そして蹴り飛ばした。弾けとんだ分身の体は石壁に叩きつけられる。その石壁は(えぐれ)たようにへこんでしまう。

 そして宗志は人間離れの速さで堂林へと向かっていく。案の定分身達が立ちはだかる。ひらりと分身の刀を躱す宗志。そしてその分身を蹴り上げた。

 その分身の体は天井に叩きつけられる。石の天井が砕け、がらがらと落ちてくる。

 もう一人の分身はその砕けた石の瓦礫(がれき) を、尾を使って宗志へと飛ばす。弓矢のような速さで飛んでくる石の塊。それを彼は器用に避ける。


(分身(にせもの)は相手にする必要ねぇ……!)


 瓦礫を飛ばしてくる分身との間合いを宗志は一気に詰める。そして炎を纏った拳で殴り飛ばす。弾け飛んで転がる分身。宗志は間髪をいれずその分身に飛びかかる。そして確実に心臓を刀で貫いた。

 その時だ。二本の血柱が上がる。


「……ッ……!」


 糸が切れた傀儡(くぐつ)のように、宗志は石床に倒れ込んだ。その後ろには薄ら笑いを浮かべた堂林が両手に血に染まった刀を持って立っていた。


「調子に乗りすぎだ、宗志」


 クククッと堂林は喉を鳴らす。その後ろには六体の分身も同じように喉を鳴らして笑っている。


「立て。……なんだ、もう終めぇか?」


 堂林の挑発に宗志は何の反応も示さない。全身の力が抜けてしまったように、ぐったりと動かない彼を堂林は目を細めて見下ろした。

 そして宗志の首元に触手のように細くなった銀の尾が伸びてくると彼の首に何重にも巻きついた。そしてそのまま体を持ち上げる。


「仕方ねぇから俺直々に手を下してやらァ。地獄巡り楽しんで来いや」

「……くッ……ァ……」


 銀の尾が宗志の首をぎりぎりと締め上げる。妖怪の血が流れる者は普通の人間よりも窒息死するまでにかかる時間が五倍以上必要となるのだ。

 顔を歪める宗志を、堂林は不気味な笑みを浮かべ舐める様に視線を注ぐ。周りにいる分身も喉の奥を鳴らして笑っている。それぞれが自我を持っているかのようだ。

 宗志の刀を持つ右手からも少しずつ力が抜けていく。辛うじて刀を持っている状態である。

 と思われたその時。宗志の口元が吊り上がったのだ。それと同時に彼は右手で刀を大きく振り上げ、真っ直ぐに首に巻き付く細い尾に振り降ろした。

 足が地につくと宗志は首に絡まる銀の尾をほどくと投げ捨てた。堂林はすっと間合いをとる。二人の距離は一足一刀の間合い程となった。

 そして分身達に異変が生じる。分身は一人、また一人と紫色の炎へと変わり消えてしまったのだ。堂林は忌々しそうに舌打ちをするが、すぐに余裕のある笑みを浮かべた。


「宗志、てめぇよく分かったなァ」

「俺が妖狐(ようこ)のこと何も知らねぇと思ったのか? 妖狐は尾の数が増えれば増えるほど力が強くなる。てめぇが〝新しいもん〟と言った時点で、その技は八本の尾がなきゃできねぇことぐれぇ分かってた」

「問題はどうやって分身(にせもの)どもを俺から引き離し、尾を一本引きちぎるか……ってとこだったわけだなァ。てめぇ、わざと斬られるたァいい度胸してんじゃねぇか。俺がてめぇの首でも()ねようとしたらどうするつもりだったんだァ?」

「俺を一瞬で楽に死なせようとはてめぇがするわけねぇからな。……てめぇの体が俺と同じ造りをしてるなら、その尾は三分の二以上を切り落とせば、せいぜい元通り再生するのには二日かかるはずだぜ」

「悪りぃなァ、てめぇの翼と違って俺の尾は再生するのにゃ半日ありゃ十分だ」

「悪りぃな、こちとらてめぇを(たた)っ斬るのなんざ半刻もありゃ十分だ」


 そう言って宗志は鋭い視線で堂林を射貫きながら刀を構える。すると堂林は下を向いてクククッと喉を鳴らす様な笑い声をあげた。


「……何がおかしい」

「まるで鬼の首でも取ったような口ぶりだと思ってよォ。たかだか妖狐(きつね)(しっぽ)取ったぐれぇだってぇのになァ。それに血出しすぎたんじゃねぇか。ちっと剣先がブレてるぜ」

「……うるせぇ」

「わざと斬られ俺の(きょ)()いたのは褒めてやってもいいが、どうやら分身(にせもん)を消す代償は大きかったみてぇだなァ」

 

 喉を鳴らして堂林は笑う。宗志は苛立たしげに舌打ちをする。

 しかし堂林が言ったことは事実である。着流しが血でべっとりと濡れて体に貼り付いていた。呼吸が乱れ、視界が微かに霞み始めている。

 一通り笑った後堂林は顔を上げ、ぞっとする様な低い声で言った。


「分身どもがいなくたってどうってことねぇ。てめぇを料理する方法が変わる……ただそれだけだ」


 ぎらり、と堂林の黒紫色(こくししょく)の瞳が光ったかと思うと堂林の姿が消える。瞬きほどの一瞬だった。堂林がすぐ目の前にいたのだ。

 二本の刀による攻撃。次々と繰り出される斬撃を宗志は刀で躱す。反撃の隙はない。致命傷を避けるので精一杯だ。

 宗志が間合いを取ろうと一気に下がる。が、堂林は床を蹴って勢いをつけ斬りかかってくる。咄嗟(とっさ)に宗志は刀で受ける。だがその勢いに体は吹き飛ばされてしまう。

 石壁にぶつかる宗志の体。そこでやっと吹き飛ばされた体の勢いは止まる。そして手から刀が零れ落ちてしまう。ゆっくり崩れるように宗志は膝をついた。


「宗志、俺ァ残念でならねぇ。てめぇは俺と並ぶ程の男だと思ってたんだがなァ。だがとんだ見当違いだったみてぇだ」


 堂林はそう言って宗志の眉間に剣先を向けた。彼は真っ直ぐ堂林を睨み上げる。

 そんな宗志に堂林は喉の奥を鳴らす様な笑い声を上げた。


「てめぇは昔から目つきだけは一人前だな。その目に俺は騙されちまった。……本当に残念だ」


 堂林が大きく口元を吊り上げる。そして刀を静かに振り上げる。堂林の目に更に強い殺気が宿った、その時だ。


「やめろおおおお――!」


 石壁で囲まれた空間に突如響いた怒号。そしてその声の主は……白臣だった。彼女は左手に持った刀で背後から堂林に斬りかかったのだ。

 だがその刀は堂林に届くことはない。やすやすと避けられてしまう。そして白臣の無防備な腹に蹴りが入れられる。

 白臣の体は弾け飛んで石床に転がった。 歯を食いしばり痛みに耐えている彼女に、堂林はゆっくりと近づきながら口を開いた。


「女ァ、悪くねぇ殺気だったぜ。人間の片腕の振りにしちゃあ上出来ってとこだ。……左手だけでそんだけ刀振れるなら……」


 そこで言葉を切り、堂林は足を止めた。そして舌舐めずりをしてから白臣を見下ろす。


「そっちの腕……いらねぇよなァ?」


 心臓が縛り上げられているのではないかと錯覚してしまうほどの恐怖。白臣の顔が歪む。

 刀の刃が月光に照らされ怪しい光を放った、その時だ。彼女の目の前から堂林が消えたのである。そして先程まで堂林が立っていた場所にいたのは宗志だった。

 肩で息をする宗志の目線の方向に白臣が目をやると、堂林が石壁にめり込んでいる。

 白臣は何が起きたか目で捉えられなかったが、宗志の攻撃が堂林に当たったのだろうと理解した。


「ハク……悪りぃ、助かった」

「宗志……」

「だが、もう何もするな。俺が目玉(えぐ)られようとも、手足引きちぎられようとも、何があってもだ」

「そんなのいやだ……!」

「いいから。俺にはお前を死なせねぇ自信がねぇ。……だから離れててくれ」


 静かだが有無を言わせない口調で宗志はそう言うと、刀を構えた。本来なら二刀流相手には二刀流で戦うのがいいが、生憎宗志の腰に脇差は差さってはいない。苦々しく彼は舌打ちをする。

 堂林はそんな宗志を舐める様に見てから、喉を鳴らして狂ったように笑った。そして一通り笑い終わった後、口を開く。


「なんだァ、まだ動けたのか。……宗志、あの女がそんなに大事か。己の恨みを憎しみから目を逸らし(みじ)めに生きていく事になっても、あの女をとるってぇのか」

「んなこと知らねぇよ。だが一つだけ分かるのは、あいつは俺らみてぇな汚い化けもんがどうこうしていい奴じゃねぇってことだ」

「汚い……ねぇ。言ってくれんじゃねぇか」


 宗志は目を細めて静かに言葉を紡ぐ。


「……俺の進む道は闇の中だ。それは今も昔も変わっちゃいねぇ。だが見つけちまったんだよ。月なんかよりは小せぇが月なんかよりも強い光。……てめぇなんぞに消されてたまるかよ」

「何を言い出すかと思えば、風流な言い回しを覚えたもんだ。桜と梅の見分けさえできなかったてめぇが。……残念だ、宗志。今のてめぇとならいい酒呑めそうなのになァァアア!」


 咆哮を上げると堂林は人間離れした速さで間合いを詰めながら、尾を使ってクナイを数本宗志に投げた。宗志はそれを刀で(はじ)く。弾かれたクナイは石床に突き刺さる。

 しかし、クナイを弾いたことによるできた一瞬の隙。そこを堂林の刀が迫る。宗志は咄嗟に身を(ひるがえ)す。が、浅く斬られてしまう。

 堂林の二本の刀が繰り出す、蛇の様に不規則な軌道を残す斬撃。それを宗志は刀で払う。(なや)す。受け止める。

 致命傷となる程の傷は無いものの、宗志の体には目に見えて傷が増えていく。

 その時。宗志の背から翼が生える。ほぼ同時に物凄い速さで天井付近まで飛んで上がる。そして天井を蹴る。突風のような速さで堂林に向かっていく。

 口元を堂林は吊り上げる。触手のような細さになった尾が宗志へと迫る。

 それを宗志は空中で器用に(かわ)す。そして勢いを殺さぬまま堂林目掛け刀を振り下ろした。堂林も渾身の力を込め刀を振る。二本の刀が激しくぶつかった。

 ……斬り負けたのは堂林の方だった。堂林の体は弾かれる様に吹き飛ばされ、二人の距離は開く。宗志は肩で息をしながら堂林を見据えた。

 堂林は肩にできた傷を忌々しそうに指で撫でた。その傷は決して浅いものではない。そして堂林は右手に持つ刀を月明かりに照らして眺めた。


「欠けちまった……かァ。悪くねぇ斬れ味だったんだが」


 その欠けた刀を労るように、堂林その刀の鎬地(しのぎじ)を丁寧に舐めた後、脇に投げ捨てた。そしてすぐ左腰に差した刀を右手で抜く。

 

「どうしたァ、宗志。さっきので力使い果たしちまったか。まさか、さっきので俺を仕留められるとでも思ったんじゃあるめぇよなァ? 随分とお疲れのようだが」

「……うるせぇ」

「立ってるのも辛そうだぜ。だが、まだぶっ倒れんじゃねぇぞ。こちとら遊び足りねぇんだからよォ。もっとゾクゾクさせてくれや、なァ?」


 クククッ、と堂林は喉の奥を鳴らす様な笑い声を上げる。その時だ。


「宗志ィイイ――!」


 白臣の声が響いたのだ。宗志が声のする方向を見ると、彼女は(さやに)に納められた状態の刀を投げ渡してきたのだ。

 それを宗志は右手で受け取った。


「ハク、これ……」

「僕のだ! 使ってくれ!」

「……助かる。だがもう遠くに――」

「いやだ! 君が命懸けで斬り合ってるのに! 僕だけ安全な場所で! 君の帰りを待つなんて! いやなんだよ! 僕は見届ける! 必要があれば戦う覚悟でここにいるんだ!」


 叫ぶようにそう言った白臣に、宗志は溜め息をつく。そしてふっと口元を緩めた。


「……ったく。好きにしろ。……安心しとけ、お前は死なせやしねぇから」


 宗志のその言葉に堂林は、にったりと嘲りの笑みを浮かべた。


「やけに強気じゃねぇか。いいのかァ、守れねぇ約束なんかしちまって。てめぇも女も、もう二度と朝日を拝めねぇってぇのに」

「勝手に決めてんじゃねぇよ。……ハク(こいつ)のおかげで気づいた。……俺はあの頃とは違う、ってな。もう二度とてめぇに負けたりしねぇ」


 鋭い目つきで堂林を睨みつけ、宗志は白臣から受け取った刀の鞘を歯で挟むと一気に右手で刀を抜いた。そしてその鞘を脇へとやる。


「付け焼き刃の二刀流で、俺に勝てると思ってんのか?」

「てめぇをぶった斬るのさんざ、付け焼き刃の二刀流で十分だ……!」


 咆哮を上げ二人は同時に地を蹴った。激しく四本の刀がぶつかり合う。

 堂林が放った突き。それを宗志は瞬時に(なや)す。しかしその突きの勢いは完全に死ぬことはなく、宗志の頬を掠った。

 刀が交わる度に火花が散る。堂林の刀が宗志の首に迫る。それを宗志は姿勢を低くして(かわ)した。それと同時に刀を水平に振り切った。

 返り血が宗志の顔を染める。顔を歪める堂林。だが姿勢を低くした宗志に堂林は渾身の力で刀を振り下ろす。それを宗志は刀で受け止める。

 その時、宗志の背中に激痛が走る。堂林が尾を使い、三本のクナイを宗志の背に刺したのだ。

 痛みに顔を顰めながらも、宗志は右手に力を込める。そして一気に堂林の腹を貫いた。


「……ッ」


 堂林は余裕のない声を()らす。そして宗志との間合いを大きく取った。宗志はその間合いを詰めようとする、が。足がふらついて力が入らない。その場に立っているのだけで精一杯だった。

 二人は刃物の様な視線を交差させる。そして月が雲に隠れた一瞬。闇の中で金属がぶつかる高い音が響いた。

 そして再び月が雲から覗いた時。堂林の右手にある刀は折れていた。だが左手の刀は宗志の胸を斬り裂いている。そして宗志の両手には……刀が無かった。

 地面に転がっている二本の刀を見て、白臣は悲痛な声をあげる。


「宗志――……!」


 

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