奪い盗る少年
少年は部屋を出ると部下を連れ、再び王のいる部屋を探し始めた。もちろん見張りをしていた兵たちは少年たちを見つけるとすぐに襲ってくる。しかし、数に差があるため少年たちはあっさりと彼らを倒し、捜索を続けた。
その間少年は悩んでいた。
先程の姫に対する自分の行動についてだ。
本当にあれでよかったのか、自分は間違いを犯してしまったのではないか、と…ずっとずっと考えていた。
「……」
そんな時だった。
「ライさん、あの扉見てください!」
突然部下の1人が興奮したように目の前の扉を指さした。
その扉は豪華な装飾を施され、一目で重要な部屋…つまり王室だとわかった。
「……お前ら、すぐにこの情報を他の部隊にもしらせろ」
「了解!…ライさんは…?」
「俺は待ってる」
「わかりました。すぐに戻ります!」
部下が敬礼を揃え、各々に走り去って行くのを見送ると少年は一息付き、壁に背中を預けた。
「もう出てきていいぞ」
少年がそう言うと、一つの柱から先程の姫がゆっくりと出てきた。無事にあの牢から出られたようだ。
あの時、少年は姫ではなく牢の錠を撃った。昔の少年だったら迷わず姫を撃っていた。だが、今はなぜか撃てなかった。憎い。憎いけど撃てなかった。
情が移ったのだろうか。
明らかに少年を警戒した状態で姫は問いかけた。
「…なんであなたは私を…?」
「ただの気まぐれだ。そんなことより、お前に一つ聞きたいことがある」
「…はい」
「…王を殺せば王位を剥奪することができるか?」
「…!」
姫は少年の言葉に少し戸惑う。
「…い…いいえ、できません。そもそも王から王位を剥奪するのは法で禁じられています。それを犯せばいかなる場合でも重い罰を受けます」
「ふーん」
少年は薄っすらと笑った。
不気味に卑しく笑った。
さすがの姫でもすぐに彼が何をしようとしているのかわかった。
「…まさかあなた、それでも王位を奪うつもりなの⁈」
「さあな」
「…っ!やめなさい!もう無駄な犠牲をださないで!」
そんな姫の悲痛の言葉は少年の神経を逆撫でする。
「…なぁ、誰のせいで犠牲なんかが出たと思ってんだよ?」
「…!」
…姫はそれ以上口を開けなかった。一応自分のせいだというのは理解しているようだ。
「…もう部下たちが戻る。お前は邪魔だから消えてろ」
「………」
姫は無言でその場を去って行った。
これでようやく王との戦いに集中できる。国のためにも王を殺し、王位を奪い盗らなければならない。その使命を自ら負ったのだから絶対に実行しなければ…。
…前王の息子として絶対にやらなければならない。それが自らの生きる意味なのだから。
その後の国は…彼女に任せる。
「ごめんな、シフ…」
仲間たちが集まるのを確認すると少年はレジスタンスとして、そして王子として王室の扉を開けた…。
…少年の短い人生はこうして幕を閉じた。
彼の生き様は後に自らの命に変えて国を救った「英雄」として後世に語り継がれていった。そしてそれと同時に少年と共に戦うことをしなかった弱虫で卑怯な姫の話も、望む望まぬも関係なく語り継がれていった。