救いの姫
17年前の春から日記は始まっていた。
「ー4月4日ー
ようやく俺にも子どもができた。
名前はシフ。
かわいい女の子だ。
この子だけは俺の味方になってくれるだろう。楽しみだ。」
「ー4月5日ー
シフにお祝いとしていろいろなものを買ってあげよう。それにはやはり金が必要だ。
国民からしぼり取ろう。そうすればたくさん買ってあげれる。」
読んで姫は後悔した。
王は本当に自分を愛してくれている。
が、そのせいで国民が、国が苦しむことになったのだと知ってしまった。
…辛くてたまらなかった。
姫はそんな現実から逃げるようにページをめくり、気になる箇所はないか探した。
それはすぐに見つかった。
「ー5月25日ー
もううんざりだ。あの子どもは今日も泣いてばかり。いい加減我慢の限界だ。…牢に入れておこう。そうすれば静かになる。
…だが殺さない程度にしなければ。あいつは大切な人質だからな…」
「人質」という単語がどうも引っかかる。一国の王が人質を取るなんて…一体どういうことなのか。
いや、それよりも
「あの子ども」とは誰なのか…
姫は気になったが、牢は王の部屋同様鍵で硬く閉ざされているので入ることができない。
…と思っていた。
「あっ…!」
次のページを見た瞬間、思わず声を上げた。
「ー5月26日ー
あの子どもをようやく牢に入れた。
だがまだ安心できない。今度はシフにバレないようにしなければならない。
もしかしたらこうして書いた日記を読まれるかもしれない。
だから鍵をつけることにした。牢と日記の二つを閉じる鍵を作った。
これでもう心配ない。」
牢と日記を閉じる鍵。
ということは、この日記の鍵で牢も開けることができる…
姫はその先は読まず日記を閉じた。
まずは「あの子ども」とやらに会わなければ…
なぜかそんな使命感を感じていた。
地下室にある冷たく重い扉が牢へと続くたった一つの道。
「……」
わかってはいるが、なかなか足が、手が動かない。扉の前に立つだけで底知れぬ恐怖が湧き上がってくる。
「…よしっ!」
気合いを入れると扉の鍵を開けた。予想通り扉は開いた。
冷たい風が頬を撫でる。
姫はゆっくりと扉の中へと足を踏み込んだ。
中は真っ暗で何も見えなかった。
姫はすぐに持って来ていたロウソクに火を灯し、辺りを伺った。
そこは細い道で、ずっと下の闇の中まで続く階段があった。
この下に王が閉じこめた人質の子どもがいる…
姫はただ「助けたい」と思った。
自分の王がしたことならば、自分が償っていかなければならない。
娘として、姫として。
背後の揺れる影に気づくことなく姫は歩を進めた…