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情報を集めましょう

 シシーの武器である長弓は閉所での取り回しに苦労するが、この空間、通路の一角と思われる場所にシシーは居るのだが、ここでは問題無いだろう。横幅は大人が4人並んでも余裕が有りそうなくらい広く天上も高いのだから。

 懸念すべきは足場の悪さだった。

 壁に寄る際に少し歩いただけでも、デコボコとした地面の歩き辛さをシシーは痛感していたが、この事で一つ分かったことがある。

 均されていない地面は、迷宮の支配種族の魔物が歩行型ではない事を示しているのだ。2足だろうが4足だろうが、歩けば必然的に地面は踏み固められていくものなのだから。また、地を這うタイプの魔物も同じ理由から排除される。消去法でここの魔物は飛行型か浮遊型になる。

 動き出すにはもう少し情報が欲しい所だ。

 支配種族がどんな魔物であるのか分かれば、遭遇した際に落ち着いて対応が出来るし、何より迷宮の名が分かる。名が分かれば学園からどこまで飛ばされたのかも知ることが出来るのだ。

 シシーは大陸に点在する迷宮の位置と情報を、大雑把にではあるが記憶しているのだから。

 そのためにシシーはスキル【聴覚強化】を発動させる。このスキルは発動させると普通では聞こえない物音でも拾う事が出来るのだ。わずかな衣擦れや息遣い、忍ばせた足音は言うに及ばず、心臓の鼓動すら聞く事が可能だ。距離が伸びれば集音性は悪くなるが、守護領域で巡回している兵隊の羽ばたき音くらい、シシーには余裕であろう。

 聞こえなければ浮遊型、アンデット系の魔物だと予想していい。

 やがて、集中して鋭敏になったシシーの耳に、今まで聞こえなかった音が集まりだす。そこから不要と判断した音は遮断し、必要な音だけを選び取る。


(……この音、もしかして虫の翅《はね》か)


 シシーが捉えたのは、薄い翅が高速で動かされることによって生じる、あの特有の音だ。そばを飛ばれると思わず叩き落としたくなる、部屋に1匹でも居ようものなら滅殺するまで気が済まない、人の忍耐でも試しているのかと問いたくなるような煩わしい音なのだが、聞こえる音は妙に力強い。

 魔物の例にもれず、巨大化しているのだろう。


(虫……、虫の迷宮って何があったっけ?)


 【聴覚強化】を中止して、地下迷宮、昆虫型の支配種族を条件に、頭の中の図書館に急いで検索をかける。


(花園迷宮、は違う。花なんか無いし、あそこは毒芋虫と毒蝶。蟻塚迷宮は翅有りも居るけど飛ばないから違う。蜘蛛迷宮はそもそも条件に当て嵌まらないし…………ああ! 蜂だ、蜂!)


 条件に合致する答えを探し当ててシシーが喜んだのも束の間であった。

 迷宮の名前が物騒なことを思い出したのである。そして芋づる式に迷宮の特徴も思い出した。


(規模は100層前後、非変動型でトラップも無し、探索者の適性ランクはC。ただし、支配種族の攻撃力、物理防御力、魔法耐性が異常に高く要注意…………)


 正式には蜂塚迷宮とされているのだが、誰もその名で呼ばない。理由は単純、迷宮に入った探索者の7割りが支配種族の蜂に殺されてしまうからである。

 そこでついたあだ名が“蜂殺《ほうさつ》迷宮”。迂闊に足を踏み入れるな、との戒めの意味が込められているのだとか……。


 シシーは絶望した。


「納品間に合わないじゃん! 大口契約なのに! 品物もちゃんと完成してるのに……!」


  

 常人とは違う理由で絶望するのは、やはり彼女が『アーラ』を名乗る者だからなのか………?

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