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転移先は……

 そこに広がるは深淵の闇。

 魔に魅入られ、魔に囚われた、己を失いし哀れなる女王の国。

 光届かぬ昏き世界にて、虚構の玉座に君臨しなががら哀れなる女王は、ただひたすらに王国を拡げ、忠実な僕たちを生み続ける。

 

 己が冠せし宝玉の命じるままに…………。


 ********************


「強制校外実習とみるべきか、事故とみるべきか。それともどっかの馬鹿がやらかしたテロか?」


 シシーの呟きの声が暗闇に響く。



 あの時、蠢く魔力が転移法陣を形成していると悟った後、魔力の奔流に呑まれたシシーは気付けば此処に居た。

 先程までは汗ばむほどの陽気に、容赦なく照りつける太陽のせいで晒した素肌がチリチリと焼かれる感触がしたというのに……今は湿り気を帯びて冷えた空気が肌を撫でて肌寒い。

 色濃く漂う土のにおいに、カビ臭さ。何よりこの場の澱んだ空気が不快で、無意識にシシーの柳眉が寄る。

 念のため壁際に寄って腕を伸ばし、手のひら全体で触れてみれば、予想通りに少し湿った冷たい土の感触が伝わってくる。


「地下か……」


 陽光も届かず、風の流れも皆無に等しい地下ならば澱んだ空気も頷ける。だが理解はしても、不快は不快のままである。

 暑くとも風に乗って届いた花の香りが鼻孔をくすぐり、揺れた木の葉が奏でる音色が心地良い、晴れ渡る青空のもとに居ただけに、シシーの不快指数が右肩上がりで増していくのは仕方のない事と言えるだろう。

 しかもここ、ただの地下ではない。

 濃厚で重苦しい、並の者なら酷い圧迫感で動けぬほどの陰気な魔力がこの場には満ちていた。そんな場所でも平然としているシシーは、やはり『アーラ』を名乗る者である。

 はた迷惑な魔力の発生源はシシーが居る場所よりも少しだけ離れた場所……といっても、この空間が巨大であるために、その少しが実は結構な距離になるのだが。

 シシーの考えが当たっていれば、此処はいずこかの《迷宮》であろう。それも最深部。

 そしてこの規格外に大きい魔力は、この迷宮の(あるじ)(以後は迷宮主)の物とみて、まず間違いない。


 シシーの強制転移先は“地下型迷宮最深部、迷宮主(めいきゅうぬし)の御膝下”であった。


 形の良い唇では笑みを刻みながらも、額にはしっかり青筋を浮かべるシシー。

 誰が何の目的でこんな事をやらかしてくれたのかは知らないが、ずいぶんと難儀な場所に飛ばしてくれたものである。 

 帰ったらお礼参りは必須だな、と考えながらも腰につけているポーチ型道具袋から、今まで使うことの無かった予備の手袋を取り出して手早く装着し、感触を確かめるように数度、手を握ったり開いたりの動作を繰り返す。

 この道具袋、大変便利な事に中身を出し入れするさいに、わざわざ手を突っ込む必要が無いのだ。対象を指定して『取出し』『収納』と念じれば欲しい物は手の中に、入れたい物は道具袋に自動的に収まってくれる。ただし身に着けている事が条件である。


「問題ないかな」


 手を保護するための、手袋のはめ心地を確認し終えて呟く。

 暗闇が支配する地下迷宮では、暗視能力がなければ視界が利かないため、そこに住まう魔物は音や振動、におい、気配などで識別する能力を持つ。そのため本来ならば声を出して呟くなど褒められた行為ではないが、迷宮主の魔力に気圧されずに近づいてこれる根性のある魔物などそうは居ないため、シシーは気にしなかった。

 それでも飛ばされた直後から条件反射で気配は消し、所有している感知系スキルを活用して周囲の魔物の気配を確かめてからの行いであり、警戒は怠っていない。

 今の所、魔物の気配は迷宮主と、その周りに侍る兵隊だけだ。

 迷宮主の周りは通常、迷宮主より生み出された支配種族の中でも護衛を担う精鋭の魔物が固めており、それを兵隊と呼ぶのだが、兵隊は迷宮主との一定距離以内を守護領域として定めて巡回し、領域内に異常や侵入者を感知すればまたたく間に結集して排除にかかる性質を持つ。

 兵隊の役目はあくまで迷宮主の傍で警護に徹することにあるので、領域内ではどこまでも追いかけて命を刈り取ることに腐心するが、その領域からは絶対に出ないので逆に安心とも言える。 

 矢筒を取出し腰に下げ、最後に愛用の武器である白銀の長弓を取出して左手に持つ。

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