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 シシーとカトレアの拒否権は無いといわんばかりのセリフに、しばし鳩が豆鉄砲をくらったかのような表情を晒した面々はやっとの思いで口を開く。


「えっと、あの、今から、ですか?」

「もちろん! と言いたい所なんだけどねぇ。あんたらの装備を手入れしてからじゃないと無理だろ」


 ミカと、転移時にミカと一緒だった7人は次が実技の授業だったという事で武器と防具を装備している状態であり、飛ばされて来てから合流した4人も即座に武器を取り出していたが、魔物との戦いでそれらが大分傷んでいたのをカトレアは知っていた。伊達に鍛冶師のマイスターを所持している訳ではないのだ。


「不安定な迷宮をそうとは知らずに天井を射抜きまくった私としては、影響が出るかもしれない危険性があるから行動は早い方が良いんだけど……自分の命を守る武器防具をガタガタのままにしろ、とも言えないからね。……姐さん、材料これで足りる?」


 シシーが支配種族から剥ぎ取った素材を全部出してカトレアに見せる。


「尾の外殻はこんなにデカいのかい。これだけ有れば充分だよ、手持ちも有るからね。ただこの蜂酸嚢はアタシには扱えないから仕舞っとくれ」


 了解、と呟きながら蜂酸嚢を道具袋に戻すシシーと、携帯用らしい鍛冶道具を自分の道具袋から取り出して着々と準備を整えていくカトレアに、複数の視線が突き刺さる。それに気付いたシシーは首を傾げる。


「どうかした?」

「あの、ここで鍛冶するんですか?」

「そうだけど、なんか可笑しい?」

「全力で可笑しいですぅぅぅ!」


 最後のセリフは女の子達の声で、綺麗なハーモニーを響かせていた。




「アッハッハッハ、言われてみれば確かに変よねぇ」

「そんなに変? 迷宮内じゃスキルがどんどん上がるんだよ?」

「いや、アタシだって最初は似たような反応しただろ? 今じゃすっかり毒されて当たり前になってるけど」

「え゛~」


 あの後、最後のセリフで見事なハモりを披露した2人の女の子に全力で、いかに有り得ないのかを切々と語られたシシーとカトレアの反応である。


「僕も迷宮で生産される方とはお会いした事がありませんね」


 すっかり蚊帳の外になってしまっていたミカ達戦闘職系学科の生徒が深く同意する。


「だいたい、ここはあんたが持ってた結界石使って守られてるけど、普通は手に入らないアイテムだろ? 主にコストの問題で」

「はい~。学生の身の上では手が出せません~」

「実入りは良いですけど~、機材や材料費でお金は一瞬で消えます~」

「僕らが迷宮に潜って得た素材をギルドより高く買い取って頂いてますしね」

「仲介料など払わなくてイイので~、その分の色をつけられるんです~」


 そういえばそうっだった、と思い至るシシー。とある理由からお金に不自由しないため、そのせいで奴隷所有権なるものを得てしまったのだが、その辺の苦労を忘れてしまっていたシシーである。


「それに元々、素材を自分で採りに行くアタシらは少数派だ。昔はともかく、今は自分の工房で物作りに専念しているのが正当だろ?」

「あー、うん、そうだった。怪我したら元も子もないもんね」


 カトレアのように腕を切り落とされても繋げられる者がその場に居るなんて幸運、普通はないのだ。職人生命を絶つかもしれない危険をおかしてまでするような事ではなかった。


「それで2人とも、名前は何ていうんだい? これだけの人数は一気に覚えられないからその都度聞いてこうと思ってたんだ」

「あ、名乗りもしないで失礼しました~。ハニーです~」

「メープルです~。わたし達はご覧のとおりの小人族です~」


 人族の腰元に届くかどうかという子供のような背丈が小人族の特徴であり、彼女らもまた、そのくらいの小ささだ。名前と同じ甘味の色をしたフワフワの髪に大きなリボンをつけ、あどけない子供のように可愛らしい、そっくりな顔立ちで色違いのエプロンドレスを身にまとう姿は、等身大の人形かと錯覚してしまいそうだった。


「2人は先輩達と同じく錬金術学科のアトリエ生ですよ」

「1年です~、よろしくお願いします~」

「専門はハニーがガラス工芸で~、わたしが陶芸です~。よろしくお願いします~」

「それホント!?」


 シシーが勢いよく食い付いた。見ればカトレアの目も輝いている。


「へ、え? せ、専門ですか~」

「そう!」

「ほ、本当ですよ~」

「自分で作ったアイテム持ってるかい!? あったら見せとくれ!」


 ハニーとメープルが交互に答えているのだか、2人の勢いに腰が完全に引けていた。それでも素直に自分で作ったらしいアイテムをそれぞれ取り出して2人に渡す姿は、容姿と相まって傍目には健気に映る。


「こ、これでイイですか~?」

「充分、ありがとう! ちょっと失礼するね!」


 勢い良く、けれどもアイテムを扱う手つきはとても丁寧に、職人としての観点からアイテムを見ていく2人。やがて満足したのか頷き合うと、ハニーとメープルにこう告げた。


「帰ったら依頼出すから受けてほしい」

「困ってたんだ、アタシらのレベルに合ったガラスや陶磁器のアイテムを作れる人がいなくて。去年まではガラス工芸を専門にしてたアトリエ生の先輩がいたんだけど、卒業して国に帰っちまったからねぇ。……特にシシーは困ってたんだよ」

「そうなんですか? 素人の僕にはあまり関係が無いように見えますけど」


 ミカの言葉にシシーとカトレアは苦笑する。


「大抵の人はそう思うんだけど、関係は大有りだよ。錬金術で作った物は錬金術で作った物に入れないと保存が出来ないの、効能を封じておけないんだわ。ポーションで例えるなら、ただの瓶に薬液入れたら1日経たずに腐った色水になるね。他にもポーションの瓶って身体に叩きつければ簡単に割れるのに、手が滑って落としたり、何かに強くぶつかっても割れないでしょ?」

「! 確かにそうです」


 戦闘職系学科の面々はしきりに頷く。彼らは実際にそうやって肝を冷やしては安堵した経験があった。


「それは錬金術で作った瓶のおかげなんだよ」

「錬金術のアイテムはそういう理由で高くなるんだけど、値段はピンからキリまであるんだよ。……という訳で、受けてくれるかい?」


 甘味の名を持つ2人の小人族は笑顔で了承した。

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