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5.打ち解ける

手の震えが止まると、気持ちも落ち着いた。

イヤ逆か。気持ちが落ち着いたから手の震えが止まったんだ。


めずらしく脳みそをフル回転させたせいか精神的にドッとつかれた。

少女のフリなんて慣れねぇことやってる気苦労もあるんだろうけど。


「どうしたコータ。元気ねぇな?」

心配そうにアゼルが俺の顔を覗き込んでくる。そんなに疲れて見えんのか俺?

まばたきすると額に手を添えられた。


「熱はねぇみたいだけど、顔色悪りぃぞ。大丈夫か?」

なるほど疲れて見えるわけじゃなく、具合悪そうに見えるわけか。

でも具合悪いわけじゃねぇんだ。ちょっと久々に頭使いすぎてヘタってるだけで。


目の前にあるアゼルの顔は優しげで、真剣に俺のことを心配してくれているみたいだ。

ホントにお前は優しいな。馬鹿だけど。


「大丈夫ですよ。色々あってちょっと疲れたんだと思います」

素直にそう告げるとアゼルの表情がサッと曇る。

先ほどまで浮かべていた優しい馬鹿の顔とは違う、まるで別人みたいな顔つきだ。


「アゼルさん……?」

名前を呼ぶとピクッと反応し、困ったような表情で頭をグリグリ撫でられた。


「色々あったのなんてわかってるさ。

お前一人でこんなとこうろついてたんだもんな……」


多分お前分かってないぞ。とは流石に言えない。

きっと、こいつの頭の中は今"俺の身に起こった色々な事"で溢れてるんだろう。


なんたって討伐されたとはいえ魔物何て物騒なモンが徘徊してるデンジャーゾーンだ。

そんな森の中をガバガバの服を着た少女が一人で歩いてたんだ。どう考えても異常だ。


そうこうしてる間にもアゼルの目がゆらゆらと揺れ始める。

マジかよオッサン。お前の頭の中の俺はいったいどんな酷い目に遭わされてんだ。


「それなのに泣きもしねぇし……言葉も態度もよそよそしいし……

ガキが大人の顔色伺って気なんて遣う必要ねぇんだぞ?」


違げぇよ。お前全然分かってねぇよ。

気ぃ遣ってる訳じゃないんだよ。


よもや情報を引き出すためにカマトトぶって頑張ってたのが、そんなトンデモ解釈されようとは……。

まぁ、顔色伺ってたのはその通りだけど

頭ん中グルグルで正直馬鹿二人に気を回してる余裕なんて全くなかったはずなんだが。


それでも、いかにもお人好しな馬鹿野郎アゼルに色々と見透かされていたとは正直思わなかった。

幼気な少女を気取っていたのにバレバレだったってことかよ……。


『実はさっきまでのシシリとの馬鹿話は俺の緊張を解くためにわざとやってた』

なんて言われた日にゃウガーッと叫びたくなるんだが……。

止めよう。くだらない考えだ。恥ずかしい。死にたい。


「そんな顔すんな。何があったか知らねぇけど俺はコータの味方だからな」

だからそんな顔ってどんな顔だよバカヤロー。

見透かすな。俺のことを見透かすな。


「アゼルじゃちーっと頼りねぇけど、俺もついてるから安心しろ」

久々に口を開いたと思ったらシシリからも励まされる。

全力で演技してのに大人ってスゲェな!全てお見通しとでもいう気か!クソがッ!


「む、無理してるわけじゃないです……」

羞恥で真っ赤になったであろう顔を伏せ小声でそれだけ伝えると


「そういうところが無理してるって言ってんだけど……

まぁいいかそれがコータなのかもしんねぇな」

「何納得してんだよ。お前に頼り甲斐がねぇからコータが無理してんじゃねぇか」

「……!」


シシリの容赦ないツッコミにアゼルが押し黙る。

ややあって


「コ、コータ。抱っこしてやろうか?」

馬鹿なりに考えたであろう結論がこれだったらしい。

心配してくれんのはありがたいけど、シシリが言いたかった事ってそういうことじゃねぇと思うんだ。

ご好意だけで結構ですよ。アゼルさん。


そんなことより話題が『俺の身の上ばなし』に流れたのが少々やっかいだ。

やんわりとアゼルの申し出をお断りしながら俺は再び思案した。


このまま話が発展すれば、流れはどうあれ最終的には

『それでお前はなんでこんなところを一人でうろついてたんだ』というアリバイ聴取に辿りつくだろう。


そして俺は窮する。

二人に怪しまれないようテキトーな嘘が吐ければ何の問題もねぇんだが、それが分からない。

一体どんな"事情"であれば二人に怪しまれずに納得してもらえるかがサッパリ分からないんだ。


俺の家は家族は高校生だった『俺』の家と家族であり、今の『俺』のものじゃない。

これまでの17年の人生だってそうだ。


魔物の出る森の中を一人で歩いていた正体不明の少女。

今の『俺』について分かっているのはたったこれだけしかない。

正体不明とか言ってる時点で何も分かってないのと一緒だ。


家がどこにあるかも説明できない。

家族がいるかも説明できない。

自分が誰かも説明できない。

――そもそもここがどこかすら分からない。


我が事ながら引くほどの無理ゲーっぷりだ。

恐らく二人のことだから俺が"事情"を話せば『今後どうするか』を考えてくれると思う。

が、果たしてどんな応答がベストかと言われると、とれる手段は非常に少ないものに思える。


これまでの事については黙りを決め込み、今後の事は二人の判断にまかせるか

もしくはかなりあざといが、記憶喪失でも装って二人の指示を仰いでみるか


あるいは受動的に流される前にこちらから布石を打ってみるか。

失うものなんて何もねぇし、一つ仕掛けてみるか。


俺は顔上げ眉根を下げた情けない表情を作ると

なるべく頼りなさそうに聞こえる声でポツリとつぶやいた。


「私はこれからどうしたらいいんだろう……」


アリバイを聞かれる前にこちらから今後の事について話を切り出してみた。

こちらに出せる手札がないのなら、相手に出させるまでだと思っての蛮勇だが果たしてうまくいくだろうか。


情けない表情のままアゼルを見つめる。

すると優しい馬鹿野郎は何をトチ狂ったのか俺の脇の下に両手を突っ込みそのままギュッと抱きしめてきた。

きょーひーしーたーのーにーなー。


「あ、あの……!」

「心配すんなって言っただろ」


抗議の声を遮って優しい声でしゃべりだす。


「ちゃんと無事に街まで届けてやっから。

なんでお前が森ん中で一人だったかなんて野暮な事は聞かねぇよ。


たとえお前が森に捨てられたんだとしても関係ねぇ。

お前が家から逃げたして森で迷子になったんだとしても関係ねぇ。


どんな事情だろうと見捨てたりはしねぇって。

だから全部俺に任せとけ」


まさかコイツ、、

驚愕に染まる俺の事なんてお構いなしに今度はシシリの声が聞こえる。


「コータが言いたくねぇ事は聞かねぇってこった。

そいつは確かに重度の馬鹿野郎だけどな、ガキ悲しませるようなまねはしねぇぞ?」


き、気づかれてた……のか?

俺が"事情"を話したくない事なんてお見通しだったとでも言うのか……!?


あまりの衝撃に今度こそ思考が止まる。

必死に演じ続けていた俺の姿が二人の目にどのように写っていたか想像するだけで、羞恥のあまり叫びながら走り出したくなってくる。

は……恥ずかしすぎる……。


言いたいことなんてバレバレなのにそれでも必死に隠そうと頑張る姿を微笑ましく見守られていたとでもいうのだろうか。

そうだとしたらあまりに……あまりに恥ずかしすぎるッ……。


「アゼルさん……」

抱きしめられた格好のままアゼルの顔を見上げる。

今の俺の顔はそれはもう真っ赤に真っ赤に染まっていることだろう。


「ん?」

何やら上機嫌なその顔がムカつく。

八つ当たりなのは重々承知の上だが、非常に非常にムカつく。


俺は最後の抵抗とばかりにアゼルの胸を両手でグイグイと押し付けた。

非力な俺の力ではビクともしやしねぇが、何か反撃しないと頭がどうにかなっちまいそうだ。


そして叫んだ。


「お、女の子をいきなり抱きしめるなんて……非常識ですッッ!」


口調こそ少女のままだが

何の思惑もなく、何の伏線もない、ただただ感情に任せた俺の渾身の雄叫びに

アゼルは今日一の破顔した笑顔で答えてくれた。


「それでいい」


その後に『やっと素直になってくれたなー』なんて声が続いた気がしたけど

アゼルの笑顔を食い入る様に見つめていた俺の耳に届くことはなかった。


話が先に進まない、、、orz

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