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13.変化

しばらく見ない間にお気に入り登録50件超えておりました。

このような拙作をご愛顧くださる皆様に最大限の感謝をッ!!


頑張る活力になります。

知ってた。そう、俺は知ってたんだ。

馬鹿二人がバカヤローだって事くらい、俺は知ってたんだ。


「もう草原に入ったから不意打ちの危険はねぇな。

という訳で、こっからは俺がコータを背負っていくぞ」


猫耳の方のバカヤローがドヤ顔でそう主張する。

前方の草原を見渡せば木1本生えてねぇ。確かにこれなら不意打ちされるなんてことなんてねぇだろう。


"戦闘時に俺を放り投げる危険性がある"とか言ってシシリに丸め込まれたからなぁ……。

今回はその意趣返しって事なんだろうな。


『さぁ言い返してみろ』という態度で非常にウゼェが、まぁ長くは続かねぇと思う。

だって、シシリもドヤ顔だ。これはアゼルを黙らせるだけの反論を持ってる証拠だろう。


っていうか、なんで二人してドヤ顔なんだよ……。

こういう時って普通片方じゃね?ドヤ顔すんのってさ。まぁ別にいいんだけどな。


ドヤ顔のままシシリが口を開く。


「でもお前、返り血で臭ぇぞ」

「んなっ!?」


予想外の反撃だったのかアゼルが非常に分かりやすい動揺と共に黙る。

さっきまでのドヤ顔が嘘みたいだ。得意気にブンブン振り回していた尻尾も見事にヘニョリと垂れ下がってしまっている。


返り血なぁ……。

固まってしまったアゼルを見つめ俺はガブルとの戦闘を思い返した。


ガブルたちの最終突撃の際、初めてアゼルは剣でガブルを斬りつけた。

その剣撃たるや、ガブルの肩口から鳩尾辺りまでを一気に割断していた。


しかも時代劇で見るような身体の表面を撫でるような攻撃じゃないんだ。

居合で巻藁を叩き斬るような、背中まで到達する深々とした攻撃だった。


肉も骨も一緒くたに叩き斬る無慈悲な剣撃。

速さも、重さもハンパねぇレベルの攻撃だった。


"最初から剣使っとけ。蹴り飛ばしてる場合か"

瞬く間にガブルを斬り裂いた光景を見た俺はまずそう思った。

けどスグに『剣で攻撃できなかった理由』が判明した。


アゼルの剣撃を受け、当然絶命したと思ったガブルが動いたんだ。

つっても反撃してきたって意味じゃなくて、最期の力を振り絞って頑張ったって感じだけどな。


ガブルは自分の腹まで到達した剣を、まるで包み込むように身体を丸め自分の身体で剣を覆い隠した。

そうなると当然ガブルの身体に邪魔されて剣を引き抜く事が出来なくなる。


"剣を使えば1匹は屠れるけど、代わりに剣を手放さねぇといけねぇのか"

何の迷いもなく剣を手放したアゼルを見て、俺は妙に納得させられた。


戦力になるガブルが3匹残ってる状況で剣を使っちまうと、残った2匹と丸腰で戦わないといけねぇもんな。

だから数を減らすまでは蹴り飛ばしまくってたって事なんだろう。


そんな事を考えていると

それまでヘニョーンと垂れていたアゼルの尻尾がブルブルと荒ぶり出した。

忌々しそうにシシリを睨みつけ大声で叫ぶ。


「そんなヘマしてねぇよっ!

臭くなんねぇようにメチャメチャ気ぃ使って戦ったんだぞ?

返り血なんぞ1滴たりとも浴びてねぇわっ!」


おい、アゼルちょっと待て。

俺はいったん思考を停止させ、心の中でツッコンだ。


返り血を浴びないように戦った?

今しがたのアゼルの発言を思い出す。確かにそう言った。


えっと、もしかして蹴るのに夢中だったのはその為だったりすんのか……?


確かに頭数が多い混戦時に剣を使えば、返り血を気にして戦う余裕なんてないだろう。

返り血を浴びないよう立ち回るには、自由に体さばき出来るくらい敵の数を減らす必要がある。

だから最初は剣を使わずに攻撃してたってことか?


お前、マジで言ってる……?

なんか勝手に想像してた俺がバカみてぇなんですけど……?


イヤイヤイヤ――

俺はだんだん良くない方向へ進み始めた思考を再び停止させた。


そんな訳ねぇ。

そんなツマらん事考えて戦ってた訳ねぇんだ。


戦闘中の真剣だったアゼルの眼差しを思い出すんだ。

あれはウサギを狩るのにも本気を出す獅子の目だった。アゼル猫だけど。

返り血うんぬんを理由に手を抜くような、そんな不埒な目じゃなかったぞ。


つまり、アゼルは全力でガブルと戦ったはずなんだ。

ガブルの最終突撃のタイミングで剣を使ったのは、それが最良の手段だったからのはずなんだ。


はずなんだが――

不機嫌を隠しもせず尻尾を荒ぶらせている猫型バカヤローを見てると、その考えが揺らぐ。


勝手に一人で疑心暗鬼に陥っていると、アゼルと目があった。

その瞬間、それまで剣呑だったアゼルの表情が不安げな表情にサッと変わる。

ツカツカと超早足で俺の方へ近寄ってくると、両手を広げ俺にまとわりつく。


「く、臭くねぇだろっ?」

さあ嗅げ。とばかりに全身を寄せ告げてくるヤツの声音は恐ろしい程真剣だった。

少女に体臭嗅がせるとか、何だそのマニアックな性癖は……。


本人はいっぱいいっぱいで気づいてねぇんだろうが、とんだ変態行為だ。

俺はこれ以上エスカレートしないよう、キチンと釘を差しておくことにした。


「ちょっと変態チックですよ……?」

そう指摘すると、今度はサーッとアゼルの顔色が青くなる。


「ち、違ぇぞっ。そういうんじゃねぇからなっ」

えっ?なぜに必死?逆に怖い。


鬼気迫るようなアゼルの必死の訴えにタジろいていると

見たこともないような満面の笑顔をたたえたシシリが、とても愉快そうな口調で聞いてきた。


「で、コータはどっちに運んで欲しいんだ?」

「……!?このタイミングで聞くのは卑怯だぞシシリ!」


たまらずアゼルが反論する。

俺はその超必死な様子にドン引きしつつ思案した。


放っておいてもいいが、このままだとまたクソくだらない口論に発展するだろうし

何よりアゼルのド変態行為を助長する事になりそうだしなぁ……。


うん、やっぱこの辺でキッチリとトドメ刺しとく方が何かと良さ気だな。

俺はニコリと笑うと無邪気に告げた。


「アゼルさん。さっきの戦いで疲れてると思うので

よろしければこのままシシリさんにお願いしたいんですがいいですか?」

「よくねぇ!」


荒ぶるアゼルが脊椎反射でそう返答してくる。

いや、俺はシシリに聞いたのであってお前には聞いてねぇんだけどな。

相変わらず往生際の悪い猫型バカヤローだ。


「それに、疲れてなんてねぇんだぞ?」

何かを訴えるような目で、んなこと言われても俺困っちゃうんだが……。


『何とかしてくれ』という期待を込めてシシリを見上げると

それまで浮かべていた胡散臭い満面の笑みを消して、悪そうな笑顔に変わる。

シシリは身をかがめると俺に背中を向けた。


「じゃあコータ。背負うから乗ってくれ」

上機嫌にそう告げられる。


――が、真っ先に反応したのはアゼルだった。

ビュンと風切り音がする程の素早さでシシリの方へ身体を向けると


「待てっ。話はまだ終わってねぇぞっ」

と、やはり往生際の悪い事を訴える。

ホント、困った子猫ちゃんだぜ全く。


俺はピョンと飛び乗るように目の前にあるシシリの背中に飛び乗ると

腕を前に回し身体を固定した。


シシリが立ち上がる。

ゆっくりと視線が上がり、すぐに見上げなくともアゼルと目が合う高さまで到達する。

呆然とするアゼルに向かい俺はニコリと微笑んだ。


「それじゃあ、後は歩きながら"お話"しましょ?」

アゼルの揚げ足を取ってそう提案すると、猫型バカヤローは力なく項垂れた。



☆.:*:・' .:*:・'゜☆' .:*:・'゜☆' .:*:・'゜☆'



シシリに背負われ俺達は草原を進んでいた。

上機嫌なシシリ。項垂れたアゼル。何のツッコミ所もない至って普通な日常光景だ。


やっと静かになったな。

俺はシシリの歩調に合わせて押し寄せる心地よい揺れに身を任せながら、ホッと溜め息を吐いた。


森の中よりも幾分強くなった風に長い髪がサラサラと泳ぐ。

俺は右手で髪を押さえながら目を閉じた。


何だったんだろうなさっきの"アレ"

冷静になった頭に浮かぶのは、先ほどの観戦時に感じた『異常』な感覚についてだった。


閉じた目に神経を集中させると、微かに熱がくすぶっているのが分かる。

その微かな熱が"さっきまでの異常な体験は夢じゃなかった"と言い聞かせてくるようで居心地が悪い。


つくづく小っちぇえ男だよなぁ俺……。

思わず沸き出てくる自嘲を頭から"追い出して"俺は思考した。


異常な感覚は戦闘後になくなってしまった。

瞬きした時に頭の中に響いていたシャッター音が消えた事で俺はそのことに気がついた。


1つに気がつけば他の変化もすぐに自覚できた。

煮え滾るような目が急速に熱を失っていく。並列して展開していた思考が全て消えている。

戦闘を終え俺達が居た茂みへ帰ってくるアゼルを見ても、その表情を伺い知ることはできなかった。


ホント、何だったんだろな。

原因不明な事だらけで、結局何一つ解決できないまま再び疑問だけが頭を満たす。


考えるだけの情報。推理するための情報。判断に必要な情報がまるで足りねぇんだよなぁ……。

頭を支配する疑問を振り払おうと無理に思考を働かせると、今度は愚痴で頭がいっぱいになる。


結局何一つ分かんねぇままか……。

俺はそう結論づけると、思考をリセットするため、ゆるゆると頭を左右に振った。


――そこで気づく。


いや、1個だけ分かったことあるか。

俺は更に記憶を遡ると、昨日森で目覚めた時から今までの自分を振り返った。


高校生だった頃と比べると何もかもが変わってしまった。

変わってしまったものを上げればキリがないが、俺は丁寧に頭の中で列挙した。


知らない場所での目覚め。

触れただけで折れてしまいそうな華奢な少女の身体。

やっと見つけた宿で見つけた猫耳の男。

見たこともない小柄で醜い生物。

大柄の男が放った爆炎の魔法。


1つ1つの出来事を確認するように思い出す。

そして思い出すたびに確信していく。さっきの"アレ"はやっぱり異質だと。


高校生だった頃の俺が、知らない場所での目覚め。

高校生だった頃の俺とは違う、触れただけで折れてしまいそうな華奢な少女の身体。

高校生だった頃の俺が、見たこともない猫耳の男。

高校生だった頃の俺が、見たこともない小柄で醜い生物。

高校生だった頃の俺が、見たこともない爆炎の魔法。


昨日森の中で目覚めてから今まで、数え切れないくらいの『異常』を体験してきた。

が、それは全て『高校生だった頃の俺』の基準で考えて『異常』だった事ばかりだ。


だからこそ"アレ"の異質さが目立つ。


並列する思考。鋭利すぎる感覚神経。鮮明すぎる視界。

これらの体験は『少女の俺』を基準に考えても『異常』な事ばかりだ。


これじゃまるで――

高校生だった俺が少女に変わったんじゃなくて

少女になった今も変わり続けているみたいじゃねぇか。


そのうちツノでも生えてくるんじゃねぇだろうな……。

そんな益体ないことを考える。


イカンな。こんなツマらん事を考えるのはよくない兆候だ。

俺は先ほどよりは激しく頭を左右に振った。髪がバサバサと荒ぶるがそれを無視して振り続ける。


ポジティブに考えよう。

確かにさっきの"アレ"は衝撃だったけど、でも結局元に戻ったじゃねぇか。


まだ微かに目に熱が残るが、頭の中で響くシャッター音は止んだし

思考も感覚も視界も普通に戻ってる。きっとそんなに悲観するような事じゃねぇんだ。


それにこれはどう考えてもプラスになる変化だ。

目が見えなくなる。考えがまとまらなくなる。なんて変化じゃなくてよかったじゃねぇか。


俺は無理やりそう結論づけた。

そもそも現段階では情報が足りなさすぎんだよ。思い悩んでもよくわかんねぇ事だらけだ。


目の前にそびえる要塞のごときクィンズプリシアの外壁を眺める。

まるで俺達すらも拒絶するように高々とそびえる壁の向こう側に思いを馳せる。


街に行けばもっとたくさんの情報が入手できるはず。

悩むのは判断するに十分な情報を手に入れてからにしよう。


そのためにも、早くクィンズプリシアに到着しねぇとな。

俺はそう決意すると隣を歩くアゼルに目を向けた。足どりはとても軽快だが、見るからに元気がない。


「アゼルさん」

そう呼びかけると、案の定覇気のないツラで見上げてくる。

俺は今までの思考を全て頭から吹き飛ばし


「あの……。

今更なんですけど、さっきはとってもカッコよかったです。

守ってくれてありがとうございました」

ニコリと笑いそう告げる。


俺の言葉にそれまでの辛気臭いツラを一変させ、アゼルの両目がキラキラと輝き出す。

計画通り。


んで、背中越しにシシリがピクリと反応したのも分かった。

こっちも計画通り。


俺は再び右手を前へ回し、シシリの胸の前で腕を交差させた。

そのまま身体を密着させるようにしっかりと抱きつきながら、笑顔のまま続ける。


「ここまで背負って来てくれてありがとうございます。

でも疲れたら言ってくださいね?

もう街にも近いですし、ここからなら私の足でも歩いていけると思いますから」


俺の言葉にシシリの身体が先ほどよりも大きくピクッと反応する。

まるでそれがスタート合図かのように男たちのつまらない戦いが始まった。


さぁ争うがよい。


「大丈夫だぞコータ。弱っちいシシリが音を上げるようなら代わりに俺が背負ってやっからな」

「心配いらねぇぞコータ。メチャメチャ強い俺がちゃんとクィンズプリシアまで届けてやっからな」


ここで小休止。

ただし二人の歩くスピードは徐々に加速していっている。

いいぞ馬鹿どももっと争え。俺はシシリの背中にしがみついたままその様子を満足気に眺めていた。


「遠慮とかしなくていいんだぞコータ。シシリの乗り心地が悪かったらいつでも代わってやっからな?」

「コータ。寝言に耳を貸す必要ねぇぞ」

「そうだぞコータ。俺の話だけ聞いてりゃいいんだからな。こっち来るか?」

「コータ。寝言に耳を貸す必要ねぇんだからな」

「そうだぞコータ。シシリの言うことなんて無視していいんだからな?」


そこまで言い争った所でフワッと今までにない風を頬に感じた。

歩く速度が急激に上がる。いやもう歩くっていうよりは走ってるって感じだな。


速度が上がれば多少は揺れが大きくなるかと覚悟していたが

相変わらず心地よい揺れのままなので、俺的には大満足だ。


「ちょっ……あんまりスピード上げるとコータが怖がるだろーがっ」

しっかりとシシリに並走しながら、アゼルが抗議の声を上げる。

それを受けシシリは鼻で笑った。


「けっ。テメェじゃあるまいし俺がそんなヘマすっかよ」

「万が一ってこともあるだろーがっ」

「だからテメェじゃねぇんだ。俺がそんなヘマすっかよ」


既にもの凄いスピードで走りながらも、余裕の表情でシシリがそう告げる。

これまた平気な顔してそれに並走するアゼルは、どうやら何かの限界を迎えたようだった。


「ウルセェ!今すぐ止まれ!俺が背負う距離が少なくなんだろうがっ!」

「テメェこそウルセェよ!誰が臭ぇテメェなんぞにコータを渡すかっ!」


もう建前とか、んな七面倒臭ぇこと全て抜きにして言い争う馬鹿二人。

シシリの背中にしがみついたまま俺は流れるように移り変わる周囲の景色を眺めながら俺は小さな声で笑った。


クィンズプリシアはきっともうすぐだ。





次回ようやく街に到着するみたいですね(他人事)

よかったよかった(他人事)

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