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12.ガブル戦(4)

"カシャリ"

古い写真機のシャッターに似た音が頭の中に響く。

それを契機に微熱を帯びていた目がカッとさらに温度を上げた。


眼前での交戦。頭の中の音。目を焦がすような熱。

一瞬のうちに重なった偶然に鼓動が1回だけドクンと高鳴る。


そのたった1回の鼓動で送り出された何かしらが身体中を刹那の内に駆け抜けた。

血じゃない気がする。もっと別の『何か』が全身を巡って、その『何か』で身体を満たすような感じだ。


何が起こった?

咄嗟に頭に浮かんだのはそんな間の抜けた疑問だけだった。


変化はスグに訪れた。



☆.:*:・' .:*:・'゜☆' .:*:・'゜☆' .:*:・'゜☆'



飛びかかってきたガブルの攻撃を、アゼルが剣を振って受け流す。

それはまさに一瞬の出来事で、必死に目で追いかけても決して捉えることが出来ず、気がついた時には既に終わっている。


少なくとも数分前の俺にとって

それが唯一の真実だった。


そのはずだったのに――

徐々に熱を帯びる両目で、眼前で繰り広げられる戦闘を追いかける。


アゼルが剣を振り上げる。

切っ先が槌と接触する直前に軌道を変える。

軌道を変えた剣先が槌の側面に沿うように宛てがわれる。

そのまま剣先を支軸に槌を剣の腹で受け止める。

あとは力任せに振り下ろされた槌が剣の腹を滑るのを待つだけだ。


気づいた時には終わっていなければならない一瞬の出来事を

俺はしっかりと『視認』していた。


何だよコレ……。


突如として性能の上がった自分の視力に戸惑う。

いやこの場合、単純に視力という言葉だけで片付けちゃいけねぇんだろうな。


アゼルの剣が動き出した瞬間を捉えることが出来た。

突如として動き出す物体を瞬時に捉える事が出来たと言い換えるならば

これはいわゆる『反射神経』とでも呼ぶべき能力だ。


続いて本来なら目にも止まらぬ速さの剣撃を追いかける事が出来た。

高速で動く物体を見失う事なく追いかける事が出来たと言い換えるならば

こちらは『動体視力』と呼ぶべき能力なのだろう。


そして槌の側面に宛てがわれた剣先が槌を受け流す様子を見る事が出来た。

100mも離れた位置で起こった出来事を細部まで見ることが出来たと言い換えるならば

これこそが一般的に『視力』と呼ぶべき能力なのだ。


眼前ではアゼルの剣に受け流された槌が滑り落ち地面を叩いていた。

波状攻撃を仕掛けようと2匹目・3匹目のガブルもアゼルへと肉薄している。


その様子も俺は静かに見つめていた。

『どれかを』ではない。全てを見つめている。

我ながら信じられないが、俺はそれら全てを『並列』して監視していた。


無様に地面を叩くガブルを見つめる。

勢いよく地面に叩きつけた槌を担ぎ直そうとし、前のめりになった身体を起こそうとしている。


と同時に

攻撃を受け流し次の襲撃に備えるアゼルを見つめる。

剣を両手で構えたまま、近寄ってくる残り2匹のガブルを迎え討つため全身に力を込めている。


と同時に

2匹目のガブルを見つめる。

槌をバットのように構えながらアゼルの正面へ突撃してくる。


と同時に

3匹目のガブルを見つめる。

進路をやや左へ曲げ槌を右上に振り上げている。


と同時に

アゼルを取り囲む2匹のガキのガブルを見つめる。

緊張しているのかどちらも両手で槌を力一杯握りしめ、逸らすことなくアゼルを睨み続けている。


まるで頭の中に6人の俺がいて

それぞれが独立して注視しているかのような感覚だ。


しかもその6人とは別に、頭の中で必死に思考しているたくさんの俺もいる。

監視役の6人からもたらされた情報を元に、頭の中の俺が様々な事を考える。


今後の展開を考える。

進路を左に曲げたガブルは、アゼルの側面へ回り込む気ではないか。

そうなると正面と左側面から挟撃を食らう形になるのではないか。


そこでさらに思考が並列化する。


分派した思考の1つは状況を分析した。

なるほど。1回目の波状攻撃がうまくいかなかったから

今回は挟撃も織り込んできたのか。


もう1つの思考は今後の予想を続けた。

正面のガブルは野球のスウィングのように横凪に槌を振るい、左に回ったガブルは右上から袈裟懸けに槌を振り下ろすつもりだろう。

異なる角度からの一斉攻撃なら避けづらいな。


その他にもアゼルの事、ガキのガブルたちの事なんかについて

様々な思考が『並列』して脳内を走っている。


戦場の事だけじゃない。

頭の片隅では『異常すぎる』現状についていけず、疑問を吐き出す思考も確かに存在した。

原因を模索し考え込んでる俺もいる。混乱して逆ギレしてる俺もいる。


しかし、その混乱も疑問も今の俺にとっちゃ『並列化』した思考の1つに過ぎない。

ああ、俺ちゃんと混乱してんだなぁ。と自己認識するものの

恐怖に手足が震える事もないし、混乱のあまり頭を掻きむしる事もない。


一体どんだけ頭ん中に詰まってんだよ……。

そんな自嘲気味の思考が沸く。しかしその思考ですら『並列』した思考の1つに過ぎないのだ。


そして自覚する。今の俺の頭は冴え渡っている。

疑問も不安も混乱でさえも並列化した思考で叩き出し、身体を満たす『何か』に促されるように俺は戦場へと意識を向けた。


俺の思考通り後続のガブル2匹は正面と左側面からアゼルを挟み込んだ。

そのまま一斉に槌を繰り出す。前方のガブルは右から左への横凪に。左側面のガブルは背後から袈裟懸けにアゼルへ振り下ろす。


前方にはガブル。左方にもガブル。

右方からは横凪が迫り。後方からは袈裟斬りが迫っている。

なるほど。四方を塞いでいずれかの攻撃をブチ当てる算段か。


でも、まぁ無駄だろうな……。

今まさに挟撃を受けようとしているアゼルを見つめ俺はそう判じた。

静かに確信する。その程度の策でアゼルが打ち崩せるとは到底思えない。


アゼルの重心が左足に傾くのが『見える』

アゼルは両手で構えていた剣を左手に持ち直すと、左足を軸に転身し左を向いた。


左側面へ回り込んだガブルと対面する。

左上から袈裟懸けに振り下ろされた握り槌目掛けて剣を振り上げる。

と、ガチッと鈍い金属音を立てて槌と剣がぶつかった。


アゼルは剣で槌を押し止めたまま

背面から襲う横凪の攻撃を避けるため高く前方へ跳躍した。


跳躍の勢いを借り、剣で槌を上へと弾く。

アゼルはそのまま前方へ飛び出し、バランスを崩したガブルへ貫くような鋭い蹴りを放った。


相変わらず目にも止まらぬ速さだな……。

しっかりとその一部始終を『視認』して俺はそう評価した。


しっかしエグい蹴りだ。

あの速さなんだ。普通に蹴りつけてても十分な威力だろうに

固い金属で覆われたブーツのつま先を腹にめり込ませるように蹴りつけやがった。

蹴りつけられたガブルは宙に投げ出されることもなく地面を滑るように後方へフッ飛んだ。


改めて思う。非常にエグいな。

力の差は歴然だった。


だってのに、何で戦意喪失しねぇのか……。

アゼルの背後に残された2匹のガブルが槌を振りかぶる様を見ながらそんな事を思う。

死角からの攻撃は一見すると不意打ちのように見える。


が――

ガブルが槌を振り上げた時点で、アゼルは回避のための体制を整え終えていた。

地面を蹴ると左へ跳び上がりガブル2匹の攻撃を回避する。


気づかれずに攻撃するから不意打ちなのだ。

死角から攻撃したとしても、気取られてしまえば避けられるだけだ。


アゼルはきれいな着地を決めるとクルリとガブルたちへ向き直った。

蹴り飛ばしたガブルを含め3匹全てを視界に収められる立ち位置だ。


もちろん偶然ではないだろう。

アゼルは、どこに跳べば全体を把握できるか理解した上で先ほどの回避をやってのけたはずだ。

相変わらず淡褐色の目は視線だけで射殺すかのような鋭さだ。油断も慢心もない。


アゼルに蹴り飛ばされたガブルがゆっくりと立ち上がる。

不意打ちに失敗した2匹のガブルもそれに気がついたのだろう

態勢を整えるため立ち上がったばかりのガブルの元へ集う。


アゼルとガブルたちは三度対峙した。



☆.:*:・' .:*:・'゜☆' .:*:・'゜☆' .:*:・'゜☆'



アゼルとガブルが一定の距離を開けて睨み合う。

戦場全体を俯瞰していると、頭上からシシリの声が降ってきた。


「まーた、膠着状態か

ガブル相手とはいえ数が多いとやっぱ時間がかかるな……」


膠着状態?

聞いたままの言葉が頭の中で響く。

ありえないな。思考の1つが即座にそう結論づけた。


だって、こんなにも戦況は動いている。

膠着状態どころか――


「いや、もうすぐ終わると思いますよ」

ポツリとつぶやくように告げる。

驚いたようなシシリの視線を感じるが、それには構わず俺の思考は状況の整理を始めた。


アゼルから蹴りつけられたガブルはもう戦力にはならないだろう。

何でもないような風に立ち上がってはいるがヤツは既に満身創痍だ。


背中が微かに丸まっているのが『見える』

殊更ゆっくりと呼吸を繰り返しているのも『見える』

劣勢を意識して苛立つ濁った両目も『見える』


自分が戦力になれないことを必死に隠そうと精一杯虚勢を張っているようだが

俺の目にはバレバレだった。


そしたらどうなる?

5匹のガブル全員を監視したまま俺はさらに思考した。


3匹で束になってもアゼルには敵わなかったのだ

それが2匹になったならなおさら敵わなくなる。


だからこそ蹴り飛ばされたガブルは虚勢を張ってでも立ち上がってみせるしかなかったんだ。

実際には2匹の戦力しかない。しかし今ならば『3匹の戦力』としてアゼルに認識させることが出来る。


ただしこのブラフが使えるのはアゼルが気づくまでだ。

つまり次回の攻撃が終われば、間違いなくアゼルに気取られてしまう。


ならば――

とガブルは考えるはずだ。ここで腹を括る他道はないと。

決死の覚悟でガブルたちは突貫してくるはずだ。


そこまで思考した正にその瞬間。

アゼルへ向けて5匹のガブルが突撃を開始した。


ガブルたちには気の毒だけど、オメェらに奇跡は起こらないんだよ。

俺は妙に鼻白んだ気分でその光景を見つめていた。


俺の思考を肯定するかのように剣を構えたアゼルが駆け出す。

これまで守勢に徹してきたアゼルが攻勢に転じた。


ガブルにとっては正真正銘最後の突撃。

だがヤツらは真実を知らない。自分たちの勘違いに気づいていない。


「……アゼルが気づかないわけねぇだろ」

俺は隣にいるシシリにすら聞こえないような小さな声でつぶやいた。


アゼルが駆ける。

残る2匹の戦力を潰すために。


ガブルたちが信じたブラフなど――

最初から存在してはいなかった。


コータのチート能力の片鱗を発揮させる回のはずだったんですが

あまりに難しい描写すぎてアタイには無理だった……orz


難しい描写を分かりやすく書きたいのであって

難しい描写をさらに難読化させたいわけじゃないんです。


俺、実力が上がったらこの話書き直すんだ……。

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