プロローグ
その日のオレは、なんだか眠かったんだよ。
学校から帰って自分の部屋に入ったところまでは覚えてるんだがそこから先の記憶がない。
おそらく着替えもせずに制服のままベッドにダイブしたんだろう。我ながらズボラだ。
しつこいようだが、その日は本当に眠かったんだよ。
でもさすがにいくら眠いからって部屋に入った途端崩れ落ちたりはしてねぇと思う。狭まい部屋だ。3歩も歩けばベッドがある。
断定するだけの記憶はねぇんだけど部屋に入ったとたん寝入るなんて未だかつて1度もやったことないし、聞いたこともない。
そんな事するやつがいたとしたら病気だ。よくわかんねぇけど脳か何かの。
しつこいようだが、その日は正にオレ人生史上最大の睡魔と言っていいくらい眠かったんだよ。
眠気のせいか記憶に曖昧な箇所があるのは認める。事実だ。ダセェけど。
けど、学校から帰ってきて自分の部屋に入ったところまではしっかりと覚えてんだよ。
1つずつ記憶を辿ってみても確かに「高校を出て」「家まで歩き」そして「自分の部屋に入った」。間違いない。
部屋に入った後の記憶はひどく曖昧なんだが、部屋に入った事自体はしっかりと記憶してる。
故に解せない。
何なんだ。この現状は。
ベッドで目覚めてればこんな下らない思考をする必要はなかった。
せいぜい制服のシワについてオフクロに煩く言われるくらいで済んだんだ。
100歩譲って部屋の入口で目覚めてたら、下らない思考で大いに悩んだかもしれねぇけど
最終的には脳か心のお医者様にかかればなんとかなったと思う。
まぁ、固いフローリングで寝てたから身体はバッキバキに痛かったかもしれねぇけど。
だが、これは何なんだ。
どういうことなんだ。
うつ伏せに寝転んだまま周囲を見渡す。
鬱蒼と生い茂る木が見える。1本や2本じゃねぇぞ。視界に映る限り木。木。木だ。
湿った風がゴウッと吹くと下草が一斉にざわざわと音をたてた。
そんな森としか形容しえない大自然の中で突っ伏したまま
オレはつぶやいた。
「ホンット意味がわかんねぇんだけど……」
小さな小さな声だ。風にかき消されて自分の耳にも届かないくらいの。
誰かに伝えようとしたわけでもない。そもそも周囲に人の気配なんてないんだから。
そうだ。誰もいないんだ。
この理不尽な状況を説明してくれるヤツも、共有してくれるヤツも。
聞きたい。「なんでオレ森の中で寝てたんだ?」
問いたい。「何なんだ、この状況?」
尋ねたい。「誘拐か何かか?」
誰でもいい。今すぐ出てきて説明しろ。
いい加減うつ伏せでいるのも疲れるんでゴロリと回転し仰向けになった。
少し呼吸が楽になる。開放感からか自然にプハッと息がもれる。
それから腹いっぱい息を吸い込んで空にぶつけるように吐き出したんだ。ありったけのモヤモヤした気持ちを乗せてな。
「何かオレ、スゲェ可哀想なんじゃねーの!!」
今度は風音にかき消されることもなく叫んだ声が耳に届いた。
その声はまるで
おもちゃをねだって両親に訴えかけるような声。
怖い話に泣き出し相手をなじるような声。
どこかいじらしさを感じるような「少女」のような声だったんだ。
「……人生ってままなんねぇなー」
『少女』はポツリとつぶやいた。