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05 サイズと言うサイズを。

「あー、写真ねー。ボクもやられたよー」

 石巌川修作いしおがわ しゅうさくは、鈴を転がすような愛らしい声でおっとりと言った。

 その姿に、かわいいって言葉は彼にこそ掛けるべきだとしみじみ思う。

 ふわふわとした茶色い髪。触りたくなる柔らかい頬。とろけそうに笑うことしか知らない、子犬めいた瞳。なのに名前は石巌川修作。

 初めて名前を聞いた時、「石巌川?」と確かめるオレに「石巌川」と頷いて見せる姿さえ最高にかわいかった。つい、「かわいいな石巌川!」と叫びながら抱き締めたくらいだ。

 当然、彼も候補者の一人だ。そしてオレの予想では多分、優勝に最も近い男だろう。

「新聞部が取材するのは校内だけだから、まだいいんだけど……。寮で勝手に撮られるのは、ちょっと困るよねぇ」

「いや、困ると言うか戦慄する」

 おののくオレに、石巌川は困った顔でころんと頭を傾けた。

「先輩が一緒の時は怒って止めてくれるんだけど……、いつもは無理だから。みんな、多少の事は諦めてるみたい」

 守護神システムも万全ではなかったか。

 終業式を終えた午後、夏休みが明日に迫った今日になって採寸するから被服室に集まってねと通達があった。

 オレたちは雑然と積み上げられた布に埋もれるミシンやトルソーに囲まれて、部屋の隅で採寸の順番待ちをしているところだ。

 候補者は全部で十人。それが今、被服室のあっちこっちでサイズと言うサイズを測られていた。それを見ていて、ふと気付いたことがある。

 顔のタイプはみんな違う。かわいいのも端正なのも地味だったり微妙なのもいたが、一つだけ明らかな共通点を持っていた。

 そう、身長だ。

 ……これさ、人数合わせに女子サイズの一年テキトーに集めただけなんじゃねえの。

 そんな疑惑が胸に渦巻き始めた頃、自分の順番がやってきた。

「倉持、だっけ」

 採寸用の細かい目盛りの付いた平たいヒモを首に掛け、シャツの腕をまくった服飾部員がじろじろと見て言い放つ。

「その腕、文化祭までに治せ。絶対治せ」

 絶対て。

 笑えるくらいの理不尽さに実際ちょっと笑っていると、周りにいたほかの部員たちが慌てて間に割って入った。

野谷のや!」

「そんなもん掛けてたら、邪魔で服が見えないだろ。治せ。骨なんかすぐくっつけろ」

「だからムチャ言うな!」

「おれのデザインは完璧なんだ。完璧に作るんだ。それを壊す気なら、許さない」

「いい加減にしろって!」

「大体お前、一年のくせに生意気なんだ!」

 いや、それは今関係ないな。

 上級生の本音が出たところで、オレのケガを骨折だと思い込む野谷に言ってみる。

「解ったよ、野谷。オレ、頑張るから。頑張って、いつもより多めに牛乳飲むから」

「身長伸びたらどうしてくれんだ! 台なしだろうがこのバカ!」

 別によかれとは思ってない提案に、野谷は気持ちいいくらいのリアクションを見せた。

 ごめん。気に入らないって解ってた。

「騒がしいな」

 さらに場が荒れ収拾が付かなくなった被服室に、そろいもそろって大柄な三年生がぞろぞろと現れる。しかもみんな、何か恐い。

 その一人が素早く石巌川を見付けると、気安げにそばへ寄って言う。

「迎えにきたけど、早かった?」

 過保護!

 反射的にそう思ったが、どうも人ごとではないらしい。おむかえ三年生の群れの中、思いっ切り見覚えのある顔が見え隠れしていた。

「宗広先輩、何してんすか」

「迎え」

「でしょうね」

 まだ終わらないのかと問われ、野谷との論争について簡単に説明する。と、宗広先輩の眉が片方だけ器用に持ち上がった。

「それ、外せるだろう」

 言いながら示すのは、オレの左手だ。

 うわあ、余計なことを。

 メッシュのアームホルダーで吊るした腕は、ギブスではなく脱着可能なハードタイプのサポーターだ。

 外せることは外せる。実際、風呂の時なんかはどっちも外す。

 でも自分の腕の重さに負けて、十分くらいですげー痛くなるんだこれ。

 だから嫌だと主張したが、「タイムリミット! 滾る!」と意味不明にテンション最高の野谷に負けた。

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