表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/47

46 色々。

 自分がいない間に色々あったと知ったのは、翌日のことだ。

 階段から突き落としたら、すっきりするかもなー。とは、オレも思った。いや、峰岸の話だ。やらなかったけど。

 その代わりみたいに郡司さんが切れて、峰岸を殴った。――と、言うことらしい。

 三年生。十一月。この大事な時期に、面倒なことに巻き込んでくれるな。

 郡司さんの担任が嫌味まじりに言わなかったら、オレは知らないままだった。

「いや、先生。こいつらに、大事じゃない時期なんてないですよ」

 そう言って、助けたのは渋谷だ。

 オレの担任は教師として、ちょっと変わっているのかも知れない、と思う。

「渋谷! どうしよう。郡司さん、処分とかされちゃうのかな」

「倉持、取りあえず、名前に先生って付けてみようか」

 文句を言いながら、教えてくれた。

 反省文は提出したが、学校からそれ以上の処分はない。ただ本人が、自主的に謹慎しているらしかった。

 訪ねた寮室で床に正座し、コンビニで調達したジャンクフードのつめ合わせをそっと差し出す。そのオレに、ちょっと困ったような表情を見せた。

「おれが勝手にむかついただけだから、倉持に気にしてもらう事ないんだけど」

 そう言った顔に、あざがある。唇は切れ、端が赤黒く変色している。完全に殴り合いの痕跡だ。原因はオレ。無理だ。気にする。

 コンビニ袋の向こう側で、郡司さんは姿勢正しく正座していた。言葉を選んでいるように、視線を伏せて膝に置いた両手を見る。

「自分のためだった。ずっと悔やんでいる事があったから、何かを取り戻したかったんだと思う。だから、倉持のためじゃないんだよ」

「……取り戻せました?」

 尋ねると、郡司さんは一瞬おどろいたように目を開き、それから少しほほ笑んだ。

「後悔は、増えなかったかな」

 郡司さんのそばで、石巌川が小さく息を吐いた。その安心したみたいな様子にオレも、悪くないのかなと少し思えた。

 しかし、教師や学校がいくら穏便が大好きとは言っても、この処分は軽かった。授業をさぼって学校から逃走したオレも、担任から注意を受けただけで済んだ。

 ……まあな。あるよな、裏が。

「がんばりました」

 顔の横で拳を作り、そう言ったのは生徒会長の梨森だ。十月の終わり頃から着物は寒いと言い出して、最近は普通に制服を着ている。

 和菓子と抹茶の礼を言いに、生徒会室に足を運んだ。だけの、つもりだった。しかしその中でオレはつい、もやもやしたものを思い切ってぶつけてしまった。

「……梨森さん、疑問なんですけど」

「はいはい。何かな、まくらちゃん」

「生徒会の意見で、職員室の決定が変わるとか……あるんすか」

「それは、ほら。ね、旭」

「そうですね、会長。色々と、手を尽くせば」

 尽くしたのか。何を、どう。

 うっかり追及してしまいそうなのを、ぐっとこらえる。副会長の笑顔が、とんでもなく美しい。絶対ろくなことじゃないはずだ。

 重い息を吐きながら生徒会室を出るオレに、旭さんが言った。

「そうだ。君からも、楠野に礼を言って置いてくれるかな」

「楠野さん? いいですけど、どうしてですか?」

「昨日、楠野の彼女に倉持君を探す手助けをして貰ったんだよね」

 ――末吉理保子。何を、どう。

 うっかり追求しそうになる自分を、必死でおさえた。


 数日が経っていた。

 会ったのは、偶然だと思う。オレを視界にとらえた瞬間にはっとして、気まずそうに目を揺らす。あっちは避けていたのかも知れないと、その態度に思った。

「魚住」

 呼ぶと、相手は明らかに動揺した。

「お前は、前のままでいいよ。母親がいないから、事故にあってるから、嫌いじゃないなんて言うのは、何もかもどうでもいいって言うくらい、ふざけた話だと思うよ」

 嫌いなら嫌いでいいと言ったら、また怒られるかも知れないと思った。

 だけど魚住は少しの間オレを見て、それからただ「解った」とだけ言って返した。

 色んなヤツがいる。学校には。どこにでも。

 自分を受け入れるヤツも、そうでもないヤツも。好きなヤツも、嫌いなヤツも。

 そのことを、オレはやっと解った気がする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=976022547&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ